自民党総裁選での再選を受け、首相がきのう、第3次安倍改造内閣と新たな自民党執行部を発足させた。

 菅官房長官や麻生副総理・財務相ら内閣の骨格とされる閣僚は留任。党執行部も谷垣幹事長ら主な役員を続投させた。内閣支持率が低下傾向にある中、来夏の参院選までは経験豊富な顔ぶれで無難に乗り切りたいという意図が感じられる。

 その中で目を引くのは、行政改革担当相・国家公安委員長などへの河野太郎氏の起用だ。

 河野氏は福島第一原発の事故の後、野党議員とともに「原発ゼロの会」を立ち上げた。自民党の憲法改正草案についても「理想的な案であると考えていない議員が少なからず自民党内にもいる」と公言する。党内では異端の存在だ。

 首相は原発再稼働を進め、憲法改正についても党の草案をもとに議論を深めたい考えだ。その内閣で、河野氏はどんな言動をしていくのだろうか。

 首相はきのう「GDP600兆円、希望出生率1・8、介護離職ゼロの目標に向け新しい3本の矢を力強く放つ態勢を整えることができた」と語った。

 先行きが不透明になっている経済の再生に、政権を挙げて取り組むことに異論はない。

 ただ、GDP600兆円などの数値目標は現実に達成可能なのか、経済界からも懐疑的な声が出ている。担当相まで設けた「一億総活躍社会の実現」というキャッチフレーズにも、どれだけの国民の共感が伴っているだろうか。

 批判を浴びた安全保障から、経済再生へと国民の目先を変えようとしているのではないか。そう思われるとすれば、首相にとって本意ではあるまい。

 ここは、すぐにでも国会を開き、与野党の論戦を再開することを政府・与党に求めたい。

 テーマには事欠かない。

 「新3本の矢」の実現性はどれほどか。環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意によって、国民生活にどんなメリットとデメリットが出てくるのか。新たな安保法制は成立したが、「議論が尽くされていない」と考える多くの国民の思いにこたえる論戦を継続すべきだ。

 河野氏をはじめ新閣僚の所信もぜひ聞きたいところだ。

 それなのに、政府・与党内で早くも、秋の臨時国会の開催を見送る案が浮上しているのはどうしたことか。

 首相の外遊日程が立て込んでいることなどが理由という。だが、両立の工夫ができないはずはない。