1.
呆れたような、疲れたような、そんな声が脳に届く。
「ほら、もう朝」
声が聞こえた方とは逆に寝返りを打つが、それより一歩早く毛布が大きくめくられる。
「……寒い! もう!」
慌てて取り返してくるまるが、敵は毛布を掴んだ指を一本一本剥がしてまた温もりを奪う。しかも今度は掛け布団を放り投げ、足元まで寒い朝の空気にさらす念の入れようだ。
「朝。起きる。はい、起きる」
「も〜……」
仕方なく上体を起こした悠太は、身を震わせながらベッドから降りた。
「どれくらい起こしてると思ってんの?」
捨て台詞と学生服を残して母は出て行った。もともと朝は弱い方だが、真冬だとさらにきつくなる。
冬の日はもっともっと眠ってたい……。
でも二度寝はヤバいし、パジャマのままで居ると寒くてたまらないからと、悠太はさっさと学生服に着替えて一階へ下りた。暖房の効いたリビングは目覚めた実感をもたらしてくれる。
「早く食べて。片付けるから」
テーブルの上にはトーストが一枚とお味噌汁。質素だが、朝御飯を抜きがちな中学生にはこれでもかなりの分量だ。
テレビの時刻表示を見ると7時15分。運動部に入っていない悠太だとまだまだゆっくり出来る時間である。
覚醒していない頭でパンを掴みながら、悠太はお気に入りのチャンネルに変えた。毎朝の各紙朝刊チェックは外せない習慣である。
その番組では、人気若手女優ができちゃった婚を発表したニュースを大々的に報じていた。
「ウソッ! へ〜」
悠太も何度かときめいた美人女優だった。これは早速学校で話題になるなと思いつつ、モグモグと咀嚼しながら悠太は口を開いた。
「……あ、もう行った?」
母はテーブルの上でメイクをしている。
「もう行った?」
繰り返しの問いに、アイシャドーを塗る母は「……うん、とっくに」と答えた。
行ったというのは父のことである。
朝は一番早く出て、夜は一番遅く帰る。最近父の姿をまともに見たことがない。このご時世にご苦労さまな事だと思う。
「早く食べて」
鏡から一瞬も目を逸らさず母はせっついた。母も事務員として働いているので、我が家の朝は忙しいのだ。
ちなみに悠太には高校生の兄も居るが、全寮制の学校に入っているので、この家では現在三人暮らしということになる。
テレビでは相変わらず時間を割いて若手女優の結婚話を伝えていた。
(男なんて居ないと思ってたのになあ。和真はファンだから凹んでそう……おっと)
テレビに気を取られ、うっかりトーストを載せている皿が母の化粧箱に当たってしまった。が、その程度で母の視線は揺るがない。黙々とマスカラを塗る作業は続く。その結果、制服に着替えると割とバケるのである。
なんでそんなにお洒落に気を遣うのだろう。女はめんどくさいなと思いつつ、悠太は時計を見た。まだまだ余裕、相当時間をかけてトイレにも籠もれそうだ。
加えて今日は1時間目から体育だから楽勝だな、などと考えていると、「ああもう」という呆れたような母の声が聞こえた。
「こぼしてる」
「ん?」
胸元を見るとパンくずがパラパラと落ちている。
一心不乱に化粧をしていても、こういうところにだけは気付く。まるで常に怒るチャンスを窺っているかのようだ。
悠太が手で服を掃うと、それにまた怒る。
「もう! 撒いてどうすんの」
「……は〜い」
慌てて今度は絨毯に落ちたパンくずをはらい、それでよしとする。
口うるさい母親と過ごす、中学二年生の代わり映えのない朝である。
2.
悠太の家がある近辺は、いわゆるドーナツ化現象というやつでめっきり人口が減った駅周りの区域だ。
悠太が通う中学にしても、十年前は一学年6クラスはあったというのに、今じゃ全学年2クラス、計6クラスの小所帯。便利なようで住みにくい、雑然とスカスカが隣り合った土地である。
そんな地元の路地を夕方に帰宅していると、背後から誰かに呼び止められた。
「悠太、おっす」
振り返ると自転車に乗った制服の女。二つ上の高校一年生、青木結衣だ。
「あ、オッスー」
「お兄さん元気ー?」
「知らなーい!」
悠太は笑いながら答えた。結衣は悠太に会うと大概、挨拶気味にこの質問をぶつけてくる。
結衣の母親と悠太の母は仲が良く、二人は子供の頃からの遊び仲間だ。
「お兄さん、冬休み帰ってこないの?」
「あ、年末には帰って来るみたい。大会負けたみたいで」
「ええっ、ウソぉ、そうなのぉ?」
自転車を止め、ペダルに片足をかけた状態で結衣は喜んだ。
寒いから帰りながら話をして欲しいのだが、動く気はないらしい。
「じゃあ今度大阪旅行のお土産持ってくね!」
「お、やった。何?」
「それはお楽しみ!」
ニコッと笑った結衣を見て、悠太は少し照れた。
髪を襟足で結び、大きな目、整った小顔。年上だけど、どこから見ても結衣は可愛いのである。
しかもそれだけじゃない。
今日は制服だから、膝上20センチのスカートのせいで、健康的な太ももが丸出し。中学二年生、とうに性に目覚めている悠太には目に毒だ。
「あれ? 悠太、今日部活は? やめたんだっけ?」
「入ってるよ、読書部」
「ああ、それそれ。本読むだけの。今日それは?」
「ちょっとだけ読んできたよ。残りは家!」
「なんちゅー部活な!」
「いーじゃんか」
そんなやり取りをしつつ、悠太は結衣の太ももに目を奪われた。
いや、太ももよりもその先……中学生と比べてあまりにも小さいスカートにどうしても気は行ってしまう。紺色をベースにチェックが入ったスカートは、透けてしまいそうなほど薄いのである。
そんな悠太の視線を知ってか知らずか、それから10分ほどゆっくり会話を交わした結衣は、ようやく「じゃあ行くね」とサドルに跨った。
「……で、お兄さんいつ帰ってくるって?」
「年末!」
「アハ。気にしない気にしない」
よく分からないことを言って自転車は角を曲がっていった。
165cmの悠太はもう結衣を見下ろす身長になったが、やっぱりお姉さんはお姉さん。話しやすい幼馴染みである。最近目に見えて肉付きが良くなったので、ちょっぴり年齢差が広がったかのように感じる。
悠太はちょっとチンチンの先に痛みを覚えながら、今まで目の前にあったナマ足を思い浮かべた。
(結衣、大人っぽくなったなあ……。スカートの下はどうなってんだろ?)
悠太は悪いと思いつつ、幼馴染みの身体を想像した。
当然ながら女性に憧れ、悶々とした夜を過ごす少年。彼女を作ってセックスまでしたいか? と言えばそこまでは思わないが、あれやこれや妄想はするのである。
もし結衣と親密な仲になれたら……。
(おっぱいくらい触らせてくれるかな? 一緒にお風呂入ってくれないかな? セックスって知ってるのかな!?)
幼馴染みだからちょっとムズムズした気持ち悪さも覚えたが、身悶えずには居られない。こんな想像一つで赤面する年頃なのだ。
(……絶対ありえないけどね!)
だが悠太は、この結衣をめぐって貴重な体験をすることとなるのである。
3.
なんかモヤモヤ、チクチクする。
冬休みの夜。
鉄板で焼かれた肉を突きながら、悠太は妙な違和感を覚えていた。
リビングでの食卓、本日は焼き肉ディナーである。テーブルの左には母、右には父がいて、向かいには大黒様の様にあぐらをかいたツンツン頭の男が鎮座している。兄の宏太だ。
宏太は違う県の高校にサッカーの特待生として入学したため、こうして家族が揃うのは年に数度のことである。
「惜しかったな。全国大会に行けたら応援に行こうと思ってたんだがな」
「うんうん。まあしゃーない。三年になったらまた頑張るわ」
ビールが入って機嫌のいい父に、宏太は肉を頬張りながら答えた。
中学の頃からサッカーで名を馳せていた兄は、この地域の、特に年配の人間からは誇りとして扱われる存在だ。
当然食欲は旺盛で、母は会社の制服のまま、そんな兄と家族に肉と野菜を淡々と分け与えている。
サッカー話が一段落つくと、話題は不肖の弟へも向いた。
「で、悠太。お前どうなんだ。読書部だっけ? ……読書部っ!」
遠慮なく噴き出しながら宏太は聞いてきた。
「まあまあフツーだよ」
「フツーてお前、なんだよそれは。アハハ。本読んでますかー?」
「……悠太、お肉はやく食べて」
宏太の話を遮るようにいつもの「もう」という感じで母が急かすが、モヤモヤ気分の悠太はそれよりも鉄板の隅が気になっていた。
「どだ。明日にでも俺がしごいてやろか?」
挑発気味に宏太が言う。
「おお、そりゃいいな。悠太、お前もたまには運動しろ。広いグラウンドに出てだなあ!」
調子に乗って囃す父を、母が「もう、やめて」と制す。
当の悠太はそんなからかいより、鉄板の隅で焼かれている牛カルビ二枚の動向から目が離せなかった。
目玉焼きでも何でも、焼く時は数回裏返して焼かなければ納まらない悠太である。だが、あの二枚はまだ一度しか裏返されていない……。
そこで隙を見て鉄板に箸を伸ばしたが、その手は無言で母の手に押し返された。この家では中学生が箸を振るう権限は許されていない。
そして無情にもお肉二名は悠太の小皿へ移された。
「ほら」
食が進まない悠太に、母はペットボトルのお茶を注いでくれた。長い髪を後ろでくくり、制服にも油が散りそうだから着替えてくればいいのに、食卓はほっとけないらしい。
しかし今日の悠太はあまり食欲がわかなかった。
豪快な兄に胸焼けを起こしたというわけではないのだが、モヤモヤして、チクチクするのである。
「……ごちそうさま」
小皿に盛られた肉だけをサッサと食べて、悠太は箸を置いた。
「え? おい。お代わりは? お前も宏太みたいにもっと食べろよ」
「もうお腹いっぱい。じゃあ二階上がるね。あ、お兄さん。明日は無理だけど、またサッカー教えてよ」
「おー? いいぞ!」
「ちょっとやめて。アンタまたムチャするでしょ」
煙の充満したリビングを出て、悠太は自室に戻った。そしてベッドの上に寝転ぶ。
(なんだろうなあ……。モヤモヤする……)
そしてち○こがチクチクする。
(モヤモヤはともかく、ち○こはなんだろう。うーん?? ……まあいいや。冬休みの宿題の残りでもするか)
悠太はベッドから起きて学習机に座り、課題を机の上に並べた。
子供の頃から宿題は早めに済まさないとダメな主義だ。そんな性分のせいか、勉強の成績では兄よりずっとずっと良い。
だが、宿題を初めて二十分ほどで悠太は鉛筆を置いた。モヤモヤするのである。
(はぁ、どうなるんだろうなあ……)
その理由は、数日前にさかのぼる。
その日、近所の幼馴染みである和真と、同じく幼馴染みでひとつ年上の隼人と三人で会っていた時のこと。
普段はあまり性の話などしないのだが、その日はたまたまそっちの話で盛り上がった。
「やらせてくれそうな女ナンバーワン決めねえ?」
年上の隼人が出したアホな話題がきっかけだった。
「三年だと、小野と大塚はやらせてくれるって有名。オメーらは?」
「分からないよ、そんなの。やってるヤツってのも聞かないし」
「馬鹿。知らねえだけでみんなやってんだって。大人しい顔してたって女優とかデキ婚するだろ?」
「そうだけど……。あ、エロいといえば大森さんかな。すげえデカパイ」
「ああ、大森。悠太のクラスの大森ね。デブとも言う」
こんなくだらない話である。
三人の中学生は、口々に周りの女たちをエロ目線で語った。
「そういえば隼人くんの同級生の安田って女。あれエロくない? すげえムッチムチで。さすが三年って感じがする」
「だろ。でもアイツ男いる」
「そうなんだ。……あ、石川! 石川センセがいた!」
「オメーらの年の数学か。あれはイイな。二十五くらいだっけか。スカート短ぇよな」
そんな調子で日頃の妄想をぶつけ合った後、隼人が「一人ずつ、一番やらせてくれそうな女を言おう」と提案した。
悠太は迷った末、女教師の石川を挙げた。とりあえす美人教師は名前を挙げやすかったからだ。
和真は変なところで真面目なせいか、「一人は選べない」とギブアップして、同級生と先輩4人の名をズラズラッと並べた。
三年の隼人は一人の女の名を挙げた。
そして隼人は、その女に実際に告白して迫るとも宣言した。
その女とは、青木結衣だった。
三人の幼馴染みで、高校一年生の可愛い結衣である。
結局のところ、隼人が「やらせてくれそうな女」などという話題を持ち出したのは、この告白の決意を二人に言い出したかったからなのだ。
「結衣に告白すんの、隼人くん!?」
悠太達が色めき立つと、いがぐり頭の隼人はニヤッと笑い、
「おう。もうすぐ中学も卒業だしな。男見せようかと」
と言って二人の胸を小突いた。
「そっか〜。もう高校生だもんね。頑張ってよ。結衣なら大丈夫っしょ」
突然降ってわいた身近な人間の恋話に、悠太と和真は出来る限りのエールを送った。
「……あ、そうだ! 結衣のおばさんも美人だから、隼人くん。結衣が無理だったらおばさんにアタックしてみれば!?」
悠太はそんな風に茶化してリラックスさせたものだが……。
「どうなるんだろうなあ……。迫る……セックスかあ……」
隼人が告白するのはいつなのか。その結果は。それが心にあると、なんかモヤモヤする。
告白の決意を聞いた時、隼人を励ます一方で、胸が少し痛むのも感じていた。
(結衣……どう答えるのかなあ……)
しばらく唇と鼻の間に鉛筆を乗せて遊んでいた悠太は、やがて考えてもらちが明かないと席を立った。
お風呂に入ってこよう。少し煙臭くなった愛用のどてらを洗濯機に入れれば、リフレッシュになるかも知れない。そう考えて一階に降り、脱衣所のドアを開けたのだが、そこには先客が居た。
母である。
風呂に入ろうとしていたのだろう、真っ白なブラジャーとスカートの半裸姿で、今まさに紺のスカートを脱ごうとしていたようだった。
「何」
スカートに掛かっていた手を外し、慌てた様子もなく鏡に顔を寄せて目元を確認する母。
解いたライトブラウンの長髪が背中で揺れて、悠太はちょっとドキッとしてしまった。
「あ、お風呂入ろうかと思って」
「先入る?」
「ううん、後でいい。これ洗うね」
洗濯機にどてらを投げ入れようとした悠太の手に、無表情な母の視線が向けられる。
それがカゴに入れろとのサインであるのを悟った悠太は大人しく従って脱衣所を出たのだが、その背中にいつもと変わらぬローテンションの声がぶつけられた。
「ドアちゃんと閉めて」
(……わー恐!)
階段の踊り場で悠太は嫌な汗を拭った。
一緒にお風呂に入らなくなってから母とはカチ合わないように気を付けていたのだが、今日はボーッとしてて電気が付いているのを見落としてしまっていた。これは中学二年生の男子の沽券に関わる失態だ。
そこへ宏太が鼻歌を歌いながらやってきた。
「どしたー?」
「い、いや、なんでもないよ」
「へー」
挙動不審な弟とその先にあるバスルームを交互に見遣った宏太は、一言「馬鹿だな」と残し、二階に上がっていった。
その途端、悠太の顔はリンゴのように赤くなる。
(くぅ、恥ずかしっ! 恥ずかしいっ! まぁお母さんだから別にいいんだけど……だけど……うわっ、鳥肌立ってるし!)
悠太の脳裏に、母の半裸がフラッシュバックした。
(お母さん、お腹ゆるゆる……。無理しててもやっぱおばさんだなあ……って何考えてんだ!)
そしてまた顔を赤くする。
4.
そんな夜から二日後。隼人の告白の結果が判明した。
答えは×。みごと撃沈。
それだけなら別にどうと言うことはなかったのだが、断られた隼人はそれでも結衣に無理に迫ってしまったらしく、あと一歩でレイプというところまで突っ走った結果、事は父兄をも巻き込んで一大事となってしまったのだった。
悠太がその結果を知ったのは、思いもよらぬ相手からの情報だった。
「悠太! アンタ、隼人くんに何言ったの!?」
その日、悠太はなんとなく身体が怠かったので、朝に宿題を済ませたあと一寝入りしていた。今は冬休みである。
が、その母の声色で起こされた。
「……え? 隼人くんがどうしたの……?」
ハッキリとしない意識で聞いたところでは、
隼人が結衣を襲い、それは悠太や和真が一緒になって計画した事で、あろう事か悠太は結衣の母までも襲えと隼人を扇動したとの事、その結果、さっき結衣の母がその顛末を伝えに来たのだという。
「ゆ、結衣が襲われたっ!?」
「どういうことよ!!」
母はメチャクチャ怒って悠太を責め立てた。
だが、訳が分からないのも「どういうこと!?」なのも悠太の方である。
そりゃあ確かに結衣のお母さんにお願いしたら? とは冗談で口にしたが、なぜそんなことを結衣のお母さんが……。
しかも隼人が結衣を襲ったとは。
それが未遂に終わったことは母の情報で判ったが、単なる恋の告白のハズがなんてことだろう。
「どういうことなのって! 結衣ちゃんを襲おうとしたの!?」
「い、いや、違う違う……!」
悠太は必死に弁明したが、言い訳が難しかった。
というのも、告白話を聞いたのも、結衣のお母さんにアタックしてみれば、と言ったのも事実だし、男同士の内輪話をペラペラ母に話すわけにもいかないからだ。
その場はなんとか誤魔化して切り抜けたが、母の、
「アンタのせいでこんな事になったのよ!」
という言葉には釈然としないものが残った。
とんでもない誤解である。
隼人は罪を自分に押し付けて逃げ切ろうとしたのだろうか。
怠い身体を起こして部屋を出ると、兄の宏太が見下ろしたような笑みを浮かべて立っていた。
「結衣がさっき来てたぞ」
「……え、結衣も来てたんだ」
「悠太は最低だってさ」
ドーンという感じである。思春期の中学二年生は、ドーンと闇の中へ突き落とされてしまった。
(ひ、酷い……酷いよ、隼人くん……)
もっとも、隼人への疑いはその夜に掛かってきた隼人からの電話である程度解消するのだが、どうしてもやるせない思いは募った。
隼人曰く、断られたのが納得いかなくて、つい勢い余って押し倒してしまったが騒がれて人を呼ばれてしまい、大人に囲まれてすべてを話して許してもらうほかなかったとの事である。
だから決して悠太や和真のせいにしたつもりは無かったというのだが、結果的に悠太は結衣に嫌われただけでなく、子供のころから可愛がってもらっているおばさんにまで酷いイメージを持たれてしまった。
母にしても、怒るばかりでてんで聞く耳持たず。
キツい結末である。
だが隼人を恨む気にもなれず、父にも一通り絞られれた悠太は、お風呂に入った後、やるせなさの捌け口を求めるように宏太へ頼んだ。
「……お兄さん、明日サッカーしようよ。思いっきりボール蹴りたい……」
「へぇ? 分かった、鍛えてやるよ。あーっと、明日からじいちゃんち行くから、やるなら午前中だな」
そこでまた追い打ちを掛けるような事件が起こってしまうのである。
5.
朝、昨日とは打って変わり母は悠太に優しかった。
怒りすぎたという意識があったのだろうか。「服買ったから、これ着ておじいさんの家に行きなね」と、新しい上着とズボンを揃えてくれたりもした。
悠太の家は毎年、年末を父方の実家で過ごすことにしており、今日は午後から一家で旅立つ予定だったのだ。
だが悠太は行けなくなった。
兄と近所の公園で玉蹴りをしている時、転倒して右手の指を骨折してしまったからだ。
サッカーをしていて手の骨を折るというのも締まらない話だが、たまたま転けた場所にブロックがあり、そこに手を突いた時にポキッとやってしまったのである。
「アンタがついててどういうこと!?」
母は激怒して宏太を責めた。
最初は大して悪びれもせずにいた宏太だったが、母のその剣幕には驚き、平謝りするばかりだった。
運が悪かったのは、そのとき悠太は風邪もひき始めていてかなり熱があったために、これではとても実家へ行かせられないと、母と二人だけで家に残ることになってしまったことだった。
毎年楽しみにしている祖父の家へ行けなくなったのだ。
(あーあ、踏んだり蹴ったりとはこの事だなあ……)
悠太は自室のベッドで溜息を吐いた。
包帯が巻かれた右手に感覚が集中して、身体がだんだんそちら方向へ傾いてしまう。
(おじいさんちにいけないって事は……お年玉は……僕のお年玉はどうなるんだ……)
風邪のため、頭もボーッとして重い。まったく、なんという年の瀬だろう。
(はぁ……。コケた時、色々考えてたからなあ……。結衣のこととか……)
結衣。
幼馴染みのお姉さん。短い制服からの太ももがいやらしくなった高校生。
その結衣に最低と思われてしまった。
(しかも結衣のおばさんにも多分……。あーあ、ショック。でもしゃーないかなあ……。隼人くんだって悪気はなかったろうし……)
折れた指がピシッと痛んだ。
(でも襲うってのはなあ……。隼人くん中三で無理しすぎだよね。セックスはいくらなんでも……)
悠太は、どんどん重くなる頭で妄想した。
女性なら誰しもが隠そうとする下腹部。秘部。そこに自分の恥ずかしいものを合わせる……。
(凄いことだよなあ……)
一方その頃、夫と長男が乗る車を見送った悠太の母久美子は、台所で夕飯の準備をしながら、結衣の母である早苗との会話を思い出していた。
昨日、一件を聞いた時のことである。
「……いくらなんでも無理に押し倒すのは行き過ぎじゃない? あの子に告白するのはいいんだけどさ」
「あの隼人くんが……。信じられない」
早苗とは昔からのママ友だちで、休日には映画やショッピングを共にする仲だ。
そんな早苗から聞いた隼人の行為は、自分の子が関わっていただけにショックが大きかった。
「でも若いからこんな事もあるかな。……いいよね、若い子たちって。一番楽しい時よね、中学・高校生って!」
早苗はこの一件を特に深刻には捉えていないようで、終始和やかに話した。もちろん隼人にはそれなりの優しいお説教をくれたらしいが。
「そうだけど……でも、ねえ」
性格を知っているとはいえ、娘がレイプされそうになった母とは思えない脳天気さに呆れながら、久美子は頬杖をついた。
「実はね。あたし嬉しかったのよ。悠太クンに言われて」
「え?」
「おばさんも美人だから結衣が無理だったらおばさんにアタックしてみれば、だって! あたしもあの子達に、そんな目で見てもらえてるんだなって」
「ちょっと早苗さん」
嬉しそうに言う主婦に、久美子は空恐ろしくなった。
隼人も和真もうちの子も、まだほんの中学生である。そんな少年に女と見られて喜ぶとは……。
だが、あまり細かいことにこだわらないタイプの早苗は、こういう事も開けっ広げに言ってしまうのだ。
「隼人くんじゃなくて悠太クンだったら大歓迎なんだけど!」
「ちょっとやめてよぉ」
「いや、本気よ、本気。あたし、お兄さんより悠太クンの方に惹かれるのよねえ。可愛いから」
久美子はゾクッとする寒気を覚えながら首を振った。
早苗は久美子の一つ年上だが、同性から見ても華と美貌を持った中年女性が言う『本気』とはどういう事か、それを思うと戦慄が走ってしまいそうになる。
「元気いいわよぉ、きっと」
早苗は意味ありげな視線を久美子に寄せた。
(もう、何言ってんだか……)
早苗の脱線っぷりには呆れるしかない久美子だったが、それにしてもだ。まだ全然子供だと思っていた次男坊がそんな話を友達の前でしていたとは意外だった。
(もうそんな年頃かぁ……)
しかし、いくらそうは思っても、悠太は久美子からすれば子供も子供、まだ何も出来ない幼児である。それ故にまるで裏切られたかのような妙な焦燥感を覚えた。
あと、それだけではない。
久美子は、ずっと心に引っ掛かっていたある心配事が頭をもたげてくるのを感じた。
(……そういえばあの子、あれは……?)
母親の土壌の中で芽生えた不安は、瞬く間に大きく育っていく。
「……今の子たちって経験の早さはどうなのかな。進んでるようで、私たちの時代の方が早いんじゃない?」
「もう、やめてよ……」
首を振って応えた久美子に早苗は畳み掛ける。
「フフ、ほんと悠太クンならOKなんだけどなぁ。避妊さえキッチリしてくださるなら!」
「ちょっと! ……もぅ……」
年頃の男の子を持つ母親が吐いた溜息に、年頃の女の子を持つ母親は満足気な笑みを浮かべたのだった。
6.
(で、いざするとして。どうやるんだろうね?)
(腰動かすって、あんなAVみたいに動かせるのかなあ)
(そもそも、どこに入れればいいんだろう……。ホントに入れるとこはあるのかな……)
(まあ、こんなこと今の僕が考えても無駄なんだけどね)
目を覚ますと、薄明かりに照らされた天井が映った。
自室である。
ベッドでモゾモゾしていたら、いつの間にか眠ってしまっていたようだった。
「ん」
耳元で聞こえた、確認のような吐息に驚いて振り返ると、ベッドに手を突いて母が立ち上がるところだった。
看病してくれていたのだろうか。
おでこに乗っていたタオルを取って起き上がろうとする悠太を「もう、寝てな」と制して、母は部屋を出ていった。
上体を起こすと身体の節々が痛む。
それで思い出したというわけではないが、折れた右指がビシッと痛みを伝えた。
(アイタタタ……そうだ、骨折ってたんだった。右手かあ……やっぱ、きついなあ……)
しばらくすると、飲み物を持った母がまた枕元にやってきた。
「大丈夫、調子」
「うん。ちょっとダルいくらい」
一瞬顔を曇らせた母は、自分のおでこと悠太のおでこに手を乗せた。
(あー……こりゃ、かなり熱出てそう……。ほんとダルいもん)
その予感通り、いつもより疲れて見える母の表情は硬い。
繊細な手を額に乗せられた悠太は、兄を叱り付ける時の母の剣幕を思い出していた。
「……お兄さんたち、もう行った?」
「うん、行った。お父さんと」
「そっか。僕は?」
「アンタはだめ。行けるわけないじゃない」
言い聞かせる風でもなく、問答無用に言い切った母はもう一度立ち上がった。
「ちょっと待って。お粥持ってくるから」
「あ、降りるよ。テレビ見たいし」
「いいから。まだ右手、慣れてないでしょ」
カールが掛かった髪を揺らし、割とタイトなジーンズ姿の母を見送りながら、ここは甘えておくことにした。
時計を見ると夜7時半。パジャマは汗でびっしょりである。
少しの間ベッドで待っていると、お盆に茶碗を乗せた母が戻ってきた。
悠太は母が枕元に座ると間髪入れず口を開いた。
「お母さん。隼人くんのこと、ごめんなさい!」
「えっ? う、うん」
不意を突かれた久美子は目を見開いた後、すぐに目を逸らした。
「それから、お兄さんをあまり怒らないであげて」
そこまで言った悠太は恥ずかしさで顔を覆いたくなったが、そこはグッと絶えた。
というのも実は宏太はチャラけているように見えて、弟想いの兄なのである。
日頃から、色々難しい中学時代に兄が一緒に居てやれない事を詫び「何かあったら電話しろ」と言ってくれていたし、今回のことにしても兄から隼人に即追及の電話がいき、隼人は悠太に謝罪の電話をよこしたのである。
だが母はそれには答えず、お粥の乗ったスプーンを悠太の口元に差し出した。
アーンである。
「あ、熱っ!」
「……あ、そ?」
今度は何度もフーフーをされたお粥が悠太の口に届いた。
風邪時の空きっ腹にはちょうど良い食糧補給だ。
悠太としては左手でスプーンを持って自分で食べても良かったのだが、ちょっとした優越感が心地好くて何も言わずお母さんの手に任せた。元来甘えん坊なのである。
(いたれりつくせりだなあ……。あっ、お母さんの髪お箸に引っ掛かってる。長いと手入れもややこしそうだよね……。ま、長い髪は綺麗でいいけど)
母にこんな風に構ってもらったのはいつ以来だろう。
ボーッとする頭でそんなことを考えながら、悠太はお粥を完食した。
「もっといる?」
「ううん、もういい。ごちそうさま……またちょっと眠くなったかも」
「……そう。じゃあ薬飲んで寝なね」
心配そうな母の顔を横目に、満腹で今にも意識が飛びそうになった悠太は、右手に気を付けながらゴソゴソと布団に潜り込んだ。
その上から母が布団と毛布を丁寧に揃えてくれる。
(……あ! 寝る前は歯磨きしなきゃ。……ん、まあいいか、今日は……)
そうして寝ようかと思った矢先、下腹部に微妙な違和感を覚えた。
具体的にはチ○コの先っちょが痛んだ、というか、少し痒くなったのである。
悠太は母に気取られぬよう右手をソコに伸ばしたが、ギブスをはめていることを忘れていて布団の中でオーバーアクションをしてしまった。
「イテッ」
「どうしたの」
「あ、いや、なんでもない!」
「痛むの?」
「え? あ、うん、ちょっとね。ちょっとだけ」
白々しく顔をしかめたりしながら、悠太は恥ずかしさを必死にごまかした。
どこがどうして痛んだのか気付かれたら洒落じゃ済まない。
だが、母はじっと悠太の目を見据え、「見せてみて」と言った。
「あ、大丈夫。ちょっとピキッて痛んだだけだから。ギブスずれたのかな?」
「そうじゃなくて」
床に座り、枕元に腕を乗せた母は、もう一度言った。
「チンチン見せてみて。今、痛かったんでしょ?」
「ええっ!?」
悠太は寝ている状態でひっくり返りそうになった。
「ち、違うよ。違う。手が痛かったの!」
「いいから」
心配そうな表情を浮かべた母は、今にも布団を剥ぎ取ってしまいそうな勢いである。
「な、なんでいきなり。訳分からないし。ちょ、ちょっと痒かっただけだよ」
「じゃあ見せれるよね?」
真剣な表情を崩さない母に、悠太は困惑した。
中二にもなって母親にソコを見せられるわけがない。何を言ってるんだろう。先ほどのアーンの気軽さとは違うのである。しかも子供部屋に二人っきり。家の中でも二人っきり。ただでさえ熱を帯びて火照っていた顔は、火を噴きそうなほど赤くなる。
「そ、そんな、見せれるわけ無いじゃん。何言ってんの、お母さん」
ほんの少し痛んだだけ、しかも、これは多分……。
だが、普段とは似つかわしくない弱気な声で、
「心配なのよ……」
とこぼした母は、ベッドに乗せた腕に顎を埋めて語り始めた。
「アンタが三歳の頃なんだけど、救急車に乗って病院に行ったの覚えてる?」
「えっ! 知らない。なんで?」
「ん……。アンタが寝る前につまようじ持って遊んでて」
「ふんふん」
「寝た後にパジャマ見たら真っ赤になってて」
「ま、真っ赤!?」
「うん、血。血がいっぱい。それですぐ救急車呼んで病院に行って」
「え、なんで、なんで血が!?」
「それは……つまようじがチンチンの先に傷を付けて、そこから出血してたのよ。なんでそんな事になったかは分からないけど」
「ええっ!」
「それで一日入院したんだけど、その時の傷というか後遺症があるのかと……」
「えええーーっ!?」
初めて聞く衝撃の事実だった。
(そうだったのか……。そんなことが……!)
救急車で運ばれて、しかも一日とはいえ入院した怪我を、幼少時に負っていたとは。悠太は自分でも心配になった。
思い返すと、たまにチ○ポの先が痛むことがある。特に最近は。
しかし、なんでつまようじで遊んでいてそれがチ○コの先に入ったりなんかしたのか。
悠太の頭の中を様々な想いが過ぎった。
物心ついてない子供の頃だし、理由は母の言うとおり判らない。
もしかしたら、昔からよく転けていた僕が素っ転んだところに、たまたま折れたつまようじが落ちていて、痛まない程度にソコを傷を付けたのかも知れない。
だが、ここで確実に言えるのは、僕の初体験はつまようじ。処女喪失はつまようじ。そういうことになるのではないか――。
「……プークスクス」
「何がおかしいの!」
「あ、ううん、なにも。……で、その時の僕、どうだった? 泣いてた?」
母が言うには、寝る時間だった子悠太は救急車の中で何度も寝入りそうになったらしく、そのたびに死んでしまうと勘違いした母が大暴れで悠太を起こし、まぶたの開閉を巡る凄まじい戦いだったということである。
「もう、泣けるし……大変だった。あの時は」
「そうだったんだ……」
いつもは強気な母が少し目を伏せたのを見て、悠太は心配を掛けた自分を申し訳なく思った。
「だから、見せてみて」
「う、うん……。でも、大丈夫だと思うよ? ちょっと時々痛いって言うか、痒くなる時はあるけど……」
そこは素直な悠太である。
ここで断るのもなんだか可哀相だし、恥ずかしいけどちょっとだけ見てもらってもいいなという意識も芽生えて、布団の中でモゾモゾとパジャマを脱いだ。
「毛……生えてるけど?」
「そう」
「誰にも言わないよね?」
「誰に何を言うのよ」
悠太は信用してズボンとパンツを床に落とした。
家に二人っきりなのは逆に安心だし、こういう話になると母親というのは誰よりも信頼できる。
「ん!」
母向きになって目を瞑ると、ゆっくりと布団が持ち上げられた。ご開帳である。
「ホントだ。生えてるね」
「うん。もう生えてない奴なんて居ないよ」
母は、枕元から横目でそれを見つめた。縮こまって、まだ立派な皮で覆われている息子の子息を。そして「ふぅん……」と言いながらベッドサイドを足元に移動する。
「触っていい」
「ええっ! 汚いよ……」
「いいから」
「わっ!」
か細い指が幹に触れた瞬間、悠太は飛び上がりそうになった。
いくら母とはいえ、女性にソコを触られるなど幼少期以来の事である。それは衝撃の感触だった。
「痛い?」
「い、いや、ビックリしただけ」
「これ。ちょっとめくるよ」
「これ……?」
母の手が皮に伸ばされているのを見て、悠太は慌てて押し止めた。
「ちょっ、ダメッ! なにすんの!」
「え、でも見れないから」
「ええっ!? 見るって中まで見るの!?」
「そうよ。怪我したの中だから」
「ええぇ……」
悠太は情けない声を出して困惑した。まだ皮を剥いたことなんてないのである。
それを言うと、母も困惑の表情を浮かべた。
「そう……でも」
何か言おうとして口籠もる。
ただでさえ変なことをしている二人の間に、さらに微妙な空気が流れた。
悠太の顔位置からだと髪が垂れ下がって鼻筋ぐらいしか覗けないが、母はじっとチ○コを見つめているようだ。
(うー、やっぱり恥ずかしい……。そんなに見つめられて立っちゃったらどうしよう……)
チ○コから母の顔は二十センチほど。この至近距離でずーっと見つめられているのである。しかも、母の手の感触は興奮してしまうには十分過ぎる刺激。それを意識してしまうと、一気に血流がチ○コに集まってくるのが分かった。
「……ああっ!」
悠太は堪えきれず、叫びながら逆方向に寝返りを打った。
息子の突然の行動に驚いた母は、それで意を決したように口を開いた。
「ねぇ悠太。アレを出したことはある」
「アレ?」
はて……? アレ??
「その……精子よ」
「あぁ! って……ええっ!?」
母の口から突然飛び出した単語に悠太は飛び起きそうになった。
そんな悠太に母は顔を覗き込んでまで聞いてくる。
「出したことは?」
「う、うん……。寝てる時に何度かあるよ」
悠太は完全に勃起した自分を隠しながら答えた。
「そう。じゃあ出せるのは出せるのね」
そう言って母はホッとした表情を浮かべた。
素直に言って怒られるのかと勘違いした中学二年生は負けじとホッとしてしまう。
「じゃあ、セックスは分かるよね」
「……うん」
戸惑いながらも素直に答える。
「だったら、剥いといた方がいいんじゃない」
「え、そうなの?」
「うん。じゃないとする時困るから、きっと」
そこは大人のご指摘である。
確かに悠太も『包茎はマズい』という話を聞くたび、自分は剥けるのだろうかと不安に思っていた所ではあった。
だが、それをまさか母から言われようとは……。
「一緒に剥いてみたげよか」
「えっ! ええっ……お母さんが?」
「うん、アンタ骨折ってるでしょ」
「い、いいの? 剥けるの?」
「うん、剥いてみたげるから。ほら、こっち向く」
目的が変わってしまったような気がするが、そうは言われても勃起中の拙僧である。
さすがにそれを見せるわけにはいかないが収まる気配が一向にない。
「ほら、こっち」
まるで学校の日の朝のように母は急き立ててくる。仕方なく悠太は「立ってる」ことを打ち明けた。
「うん。いいから向いて」
分かってるから、とでもいうような母の言葉に安心して悠太は寝返りを打った。すると母の両目がしっかりとチ○コを補足したのが分かった。
しかし、あまり恥ずかしさを覚えなかったのは、さらに頭が朦朧としてこれは変な夢だと思えたからかも知れない。
「大きくなると先がちょっと剥けるのね」
「うん」
「小さいときにした方がいいのか、大きいときの方がいいのか……」
独り言のように言ったあと、母は両手をチ○コに添えた。
この場に来て悠太はもう任せっきりである。
「お母さん、汚くない?」
「いいから」
「オシッコ臭くない?」
「いいから。ゆっくりいくからね」
そう言うと母は両手でソレを包み込み、例えるならロクロで壺を作るような手つきでゆっくりと皮を押し下げ始めた。
締め付けられる痛みがじわじわ走ると同時に、初めて触れる空気がヒンヤリとした刺激を亀頭に運んでくる。
母はほんの少しでも皮がめくれるとその度に「痛い?」と聞いてきた。
「ちょっとキツくなってるけど大丈夫」
またゆっくり、シールがめくれるように皮は剥かれていく。
特に亀頭中間辺りでの締め付けは強烈で、悠太は頭の輪っかを締め付けられる孫悟空を思い出し、本当に剥けるのだろうかと心配になった。
だがその後は思ったよりスンナリといき、カリの部分を越えてめでたく亀頭は剥き出された。
お母さんに皮を剥いてもらったのである。細く繊細な女性の指に包皮を。
「すごい……」
悠太は変わり果てた己のチ○コに息を飲んだ。
(中ってこんなになってんだぁ……)
モロ出し、剥き出し、あぶり出し。
それが母の手の中で立派にそそり立っているのである。
その直後、母の指が亀頭の表面に触れ、そのヒリッとする痛みに危うくベッドから落ちそうになった。
「ヒリヒリする?」
「うん。……どうしよう、ビックリした。戻そうかな、僕の皮……」
「慣らした方がいい。すぐには慣れないと思うけど」
その言葉に頷いてチ○コをよく見ると、カリ付近には白い付着物が着いている。
(あっ……あれがチンカスさんなのかなあ……)
我ながらその存在にはショックを受けたが、母はそれにもかかわらず優しくチ○コを握り続けてくれている。
病床で母にそれを握られる。よく考えればすごい光景だ。
「なんかすごい……」
「何が?」
首を傾げて問い返す母に、悠太はそういえばと思い出した事を聞いた。
「あ、大丈夫? 僕の怪我。……先っぽの」
「あ、そうね……傷跡は残ってないみたいだけど」
母は姿勢を崩してベッドに頭を乗せ、水平から舐めるようにチ○コを見て言った。
悠太からしても特に気になる痛みはなく、あるとすればカリ下の皮の締め付けがきついくらいだ。
もしかしたら今まで時折痛んでいたのは、皮の中で窮屈になっていた亀頭の悲鳴だったのかも知れないと思えた。
「お母さん、これで大丈夫? その……」
「セックス?」
「うん」
「多分、慣らしていけば大丈夫だと思う」
「やった」
(それにしても、こんな剥き身を女の体内に入れるって凄いよね……ほんと)
悠太はそう思いながら、その剥き身の先、尿道口が母の目と鼻の先にある光景に気付いた。
思えば有り得ないことをしてもらった。お母さんにセックスを出来る準備を整えてもらえたのだ。
(これで初体験出来るかな……。結衣と……いや、それは無理か……)
しかし困るのは、未だ全く収まりの付かない勃起だ。
ただでさえ何事にも敏感な年頃である。しかも今は空気にさえ刺激を感じ、包皮では締め付けられ、簡単に収まらなくなっている。
(……やっぱり皮戻そうかな。たまに剥いて慣らしていくとして……。いつも剥いてると見られた時あだ名付けられそうだし)
火照った身体でそんな事を考えていると、ライトブラウンの後ろ髪しか見えない母が言った。
「ねえ、悠太は起きてるときに出したことはある」
「ん? 何を?」
「その、さっき言ってたヤツ。精子」
「ううん、ないけど……」
「出してみる?」
いきなりな問いに悠太は面食らった。
「だ、出してみるって……今?」
「うん。身体、怠い?」
「い、いや! それはないけど」
本当はかなり怠いのだが、悠太は強がってそう答えた。
「でも出すって言われても分からないし、それにお母さんの前でなんて、そんな」
「ちゃんと出るか確認したいのよ。気になるじゃない……。お母さんが手伝ってあげるから」
「手っ……ええーっ!? で、でも……」
当然ながら悠太は戸惑った。
そりゃ当たり前である。皮を剥いてもらうのはまだしも、それはいくらなんでも行き過ぎだ。実のお母さんを前に無理に決まってる。性行為じゃないか。
ただ、そうは思う反面、朦朧とする意識の中で心臓は激しく高鳴った。生まれてから今までにないくらい。
「それは無理……無理だよね?」
「嫌?」
「嫌って言うか、だってそれはやり過ぎかなーと。お母さんじゃ……」
それには返事をせず、母は髪を耳の後ろ側に回した。女っぽい仕草である。
「だ、出すのって怖いし、それに、興奮するし、それに……」
「いいから」
「出せるか分からないし、それにそれに、和真とかに知られたら……」
「いいから。和真君は関係ない。うちはうちなんだから」
淡々と言い切る母に、悠太のドキドキは最高潮になった。
(出してみたいかも……!)
そう思ったのである。
当然ながらオナニーの存在は知っている。でも、悪事のように思えてまだ試したことのない悠太である。後処理はどうすればいいの? ティッシュは?
だが、それを母が手伝ってくれると言うのなら……。
「どう?」
「い、いいの? 僕、出せる?」
「だから試してみよって言ってるの」
「う、うん! 出したい!」
数時間前に骨折した上、風邪で高熱を出している悠太は素直に頷いた。正直、夢見心地で現実かどうかもあやふやな状態だ。
だが、母のいつもと変わらない声……聞き慣れて落ち着いた声が安心感を与えてくれるのである。
それに、手を骨折しているこんな状況だからこそ、母はこんな事を言い出してくれているのかも知れないと思うと、素直にお願いしてもいい気がした。
「じゃあ、いい?」
「う、うん」
ティッシュ箱を素早く枕元から取り寄せた母は、固くそそり立ったチ○コをゆっーーくりしごき始めた。
元気良く腹に引っ付く勃起を垂直にして、上下にゆっくり。剥いたばかりの亀頭に刺激が行かないように気を付けてくれながら。
それは間違いなく周りから聞いたオナニーの動作で、それを母は知っていて、してくれている。
悠太は、訳も分からず押し寄せてくる不思議な快感に打ち震えた。
「気持ちよくなる?」
「うん、気持ちいい……」
それプラス、ムチャクチャ恥ずかしい……。
手の微妙な動きに呼応して、母の横髪がサラサラと揺れる。シコってもらっているのは、さっき剥いてもらったばかりのチ○コである。いつも通りの母のお澄まし顔がほんの少し上気しているように見えるのは、もしかして風邪が移ったからだろうか?
「なんか変な気持ちになるよ……?」
「うん」
素直な感想に、母は「分かってるから」という風に応じた。
射精が気持ちの良いものだというのは知っている。でも、このまま母の手によってイかされるとどんな感じなんだろう……。
怖い様で、未知の快感にとてつもなく興奮する。
ふとリズミカルにしごく母の体に視線を移した悠太は、その母が着るタートルネックの白のセーターに目を奪われた。
(ああ……おっぱいとか……見たいかも。……あっ、ヤバっ、考えちゃった!)
その時、母の指が過敏な亀頭に触れた。
「うわわわっ!!」
「あ、ごめん」
メチャクチャ痛いという程ではなかったが、まだ産みたてのウズラの卵のような器官である。
身を任せきっていた悠太は、突然の衝撃にしばらく口を開けたまま固まってしまった。
「ごめんね。痛かった? やっぱりまだ痛い?」
本気で心配した表情を浮かべ、気遣う言葉を掛けてくる母の声に応えて復活した息子は、ここぞとばかりお願いしてみた。
「ね、お母さん! おっぱい触ってみてもいい?」
「ええ?」
「おっぱい。見たくて」
その素直なお願いに珍しく動揺を示した母は、しかし、少しの間を置いて「まあ胸くらいなら」とすんなりOKをくれた。
「脱ぐの?」
「うん。ダメ?」
「いいけど」
チ○コから指を離し、セーターをするすると脱いでいく。
万歳のように両手を挙げて、タートルネックをスポンッ!
セーターの下には紫のトレーナーを着込んでいて、その表面にはハッキリと女の双峰が浮かんでいる。
ゴクリ……。
唾を飲み込む音が聞こえたワケでもないだろうが、ベッドを向いていた母は悠太に背を向けてトレーナーを脱いだ。
男のようにゴツゴツしていない柔らかそうな背中と、ベージュのブラジャーラインが現れる。
その時悠太はブラジャーのホック部分を人差し指で突き、背中に金具の型を付けてみたい衝動に駆られたが、どうにか我慢した。
そのホックに手が回され、両手で押さえられたカップがゆっくり落とされると、ナマおっぱいの登場である。
「ん」
跳ねた髪を後ろに回しながら、母は乳房を晒した。
おっきく垂れ下がった揺れるボインである。一センチ弱ツンと立った、あずき色の乳首である。
決して若くはないのが見て取れる、けど立派な母のオッパイである。
もしこれが平常時だと気持ち悪さや恥ずかしさが先立った知れないが、朦朧として前後不覚に近い悠太は素直に興奮した。
(見たことはいっぱいあるけど……こういうとき見るとやっぱり……)
横から見ると余計垂れているのが分かるそれを見て、お母さんは結構巨乳なのかも知れないと悠太は初めて思った。
あと、それと、なんというのだろう。懐かしさも覚えた。そういえば脱ぎ方からしてなんか懐かしい感じだった。
(おっぱい……)
枕元に近寄ってくれた母が待ってくれているようだったので、怖ず怖ずと左手を延ばしてみた。
柔らかい。どこまでも沈んでいきそうで、どこまでも弾き返してくれそうなユニークな質感。
さり気なく乳首も掌に入れると、こちらはコリコリと手応えがある。
母のというのがアレだが、生まれて初めて性的な意味で触るおっぱいである。
「やーらかいよ?」
「そう」
(利き腕と合わせてダブルで揉んでみたかった……)
形を確認したり、下から持ち上げたり、指で押してみたり。
怒らないよう反応も気にしつつ、とにかく物珍しくおっぱいを弄る悠太に、母は何も言わないでただ熱い手の自由にさせてくれた。
……だがしかし! ここで決して吸ってみたいと言わなかったのは、悠太が中学二年生のプライドを持ち合わせていたからである。
「……じゃあ、続けるから」
モミモミが一段落付くと、母は足元に少し移動してまたチ○コをしごき始めた。
ナマおっぱいのお陰で悠太の性欲は存分に高まり、口からは高熱の排気ガスを吐きだしている。
もちろん性を考えればもっと興味のある場所もあるわけだが、実母のそこに思いを馳せるのはいくらなんでも抵抗があった。
おっぱいにしても、母のものだからではなく、あくまで一般的なおっぱいとして興奮するのである。
「出そうになったら言って。分かったらでいいから」
「う、うん」
悠太にとっての初ミッションだった。
二人だけの空間で、二人だけの時間が流れていく。
悠太は母の手に導かれるまま興奮の階段を駆け上がった。
すると次第に尿意を催したのと似た感覚が下腹部に溜まっていく。抑えられない感覚である。
「あ……あっ? え?」
その戸惑いを悠太は声にした。
少し首を傾げながらチ○コを弄る母の手捌きが速くなる。
「出そう?」
「うん。なんか出る。出るよ?」
母は空いている手で素早く何枚かティッシュを取った。
当事者の悠太もいよいよだという思いがつのる。
腹の奥で何かが弾けて、周囲に痺れが走った。身体の奥から濁流のようなものが迫ってきた。
「出るっ。止まらないよっ!? あっ、あっ」
「ん。出して」
母は少し大きな声で応えた。
そして、その時が来た。
目が眩むような快感。それと同時に小便のような奔流がチ○コを伝っていくッ。
だが、その猛烈な勢いはカリ首の部分を輪ゴムのように締める皮によって一度押し止められる。
刹那のせめぎ合いッ!
やがて勢いに負けた皮が決壊を許すと、母が添えたティッシュの上へドロッとした体液がこぼれ出る。
それが鏑矢だった。
二撃目に放たれた精液は、ティッシュの遥か上を越え、母の乳房に勢いよく命中した。
三撃目、四撃目。
気絶しそうな快感の中、悠太は初めての意識的な射精を行った。
「ああ……ああぁ……お母さん、出るよぉ!!」
いつのまにか亀頭に巻かれていたティッシュを突き破る勢いで精液が放たれていく。母はティッシュを右手で覆って受け止める。
めくるめく快感がようやくおさまり、代わりにチ○コが鈍痛を感じ始めると、辺りはツンとした臭いで満たされた。
悠太はあまりの絶頂に言葉を失ったが、しばらくして落ち着いてくると、今度は猛烈な恥ずかしさを覚えた。
「あ、あの……お母さん……僕、出した」
「うん。ちゃんと出せたね。立派よ……立派」
母は淡々と後始末をしながら、本気で褒めてくれた。
精液は相当母の身体にも掛かってしまったらしく、乳房を始め、肩の辺りからも垂れ流れていた。
だが、それを悠太が言っても母は一瞥しただけで「いい、後で」とだけ言い、丁寧にチ○コを拭いてくれた。
「でも汚いよ。お母さんも拭かなきゃ」
「いいから」
「でも……」
チ○コからお漏らししたものを掛けて申し訳なく思う悠太。淡々と後始末をする母。
しかし母は、久美子は、その素っ気ない態度の裏で、可愛い下の子が射精をした事に深い感動を覚えていた。そのぬめりも、匂いも、落としたくないほどに。本当ならギュッと抱きしめてやりたいほどに。
「……それより、身体は大丈夫」
精液を拭いたティッシュをまとめてゴミ箱に捨て、半裸の母は息子に聞いた。
「うーん。頭が痛いのと、チ○ポもちょっと痛い」
「そう……」
眉根を寄せた母は慈しむようにチ○コを何度もさすってくれる。それが痛くてむず痒いのだが。
「ねえ、お母さん……。その白いのが、アレなんだよね?」
「そう」
「おしっこじゃないんだよね?」
「うん。精子」
保護者は、はっきりと肯定した。
「出したんだよね、僕。精子を」
「うん。出した。……出したのね、悠太が。もうそんな歳なんだ。良かった、アンタは子供のころから身体が弱かったから……」
ちょっと愁いを帯びた表情でそう感慨深げに言われると、男としては弱い子認定のようで聞き捨てならん思いを抱いたが、今日の所は黙って我慢しておくことにした。
「そんなことないし。僕強いし」
やっぱり我慢できなかった。
「そんなことある。骨ばっかり折って」
「ないし!」
そう強がったのも束の間、身体を動かしてしまったため、母の指がまた勃起したままの亀頭に触れて電気が走った。
「あ! イツツツ……」
「もう。まだヒリヒリする?」
「うん……」
次の瞬間、不意に母の顔が股間に近づき、亀頭を舐めた。ように見えた。あるいはキスだったかも知れない。ほんの少しだけの刺激が走った。
「え? 今……」
「痛い?」
「え? ううん……」
もう一度母がチ○コに顔を近づけた。今度はちゃんとベロが見えた。
(お母さん、チ○コ舐めてくれた……?)
フェラチオの存在はうっすらと知っている悠太だったが、今目の前で行われたのは性的行為と言うより「慣らし」のように感じた。
「指よりは痛くない?」
「う、うん、ムズムズしたけど……」
長い髪が垂れ落ちて視界を遮り、母が何をしているのかは良く見えない。
それからほんの数十秒ほどだろうか、悠太は恥ずかしいような興奮するような、痛いような気持ちいいような、逃げ出したいような任せたいような、奇妙な体験をした。
「じゃあ、もう寝なね」
半裸の母は、ブラジャーと服を片手に立ち上がった。さすがにお母さん、おっぱい出したくらいなら堂々としたものである。
「……ありがと、お母さん。すんごく気持ちよかった」
「ん」
「……ありがと」
さすがに限界なほど怠くなった悠太が重ねて礼を言うと、母は「もういい」と眉を下げて、強く抱きしめてきた。
ナマおっぱいにサンドイッチである。
「またしてあげるから」
「えっ……いいの?」
「うん。アンタ骨折れてるから。嫌?」
「ううん!」
「嫌ならいいけど」
「ううん。やった!」
カラ元気で喜ぶ息子を母はまた抱きしめた。
普通の子ならここで「勉強を頑張るなら」とか「宿題をちゃんとするなら」と釘を刺される所かも知れないが、親も認める勉強好きな悠太にはそれが当てはまらない。
「じゃあ、暖かくして……おやすみ」
普段は言わない「おやすみ」に心地好い戸惑いを覚えた悠太は、そこでハタと気が付いた。
「あっ!」
「なに?」
「歯みがきすんの忘れるとこだった。危ない危ない。寝る前には歯を磨かないと虫歯になるし……」
そうして親子二人っきりの初日は過ぎたのだった。
7.
そして次の日の夜。年の瀬が押し迫った翌日、結局悠太はヌいてもらえなかった。
オルガスムスを覚えたばかりの小童である。何よりも期待していたが叶わなかった。
風邪を思いっ切りこじらせてしまったのだ。
悠太自身、二度目の射精をすることはもう無いんじゃないかと思うような酷さだった。
母はそんな息子を見て甚だしく反省したらしく、終始落ち込んだ顔で、指一つ動かさなくてもいいくらいの看病をしてくれた。だが、それが悠太には不安だった。
これじゃ、もうお母さんは手伝ってくれないかも知れない……。
しかし、それを口にすると母は「絶対にしてあげるから。絶対に」と、強い口調で確約してくれた。
悠太にとってそれは何より信用できる声、言葉であった。
「……出すと疲れた?」
「ううん、疲れたってのはない……ない……けど、いや、ちょっと疲れたかな?」
「そう、やっぱり疲れるんだ……」
「あっ、でも気持ちいいから。あんなに気持ちいいことなかったからね! もうビックリ」
「……ん。じゃあ早く風邪なおすこと」
その声に安心して眠る。
その結果、翌日には風邪も一段落つき、体温も微熱程度に収まって、夜には二度目の射精をさせてもらえる段取りがついたのだった。
8.
「さっき、おじいちゃんちに電話してた?」
「うん……お父さんたち、お酒飲みまくってるみたい。宏太にも飲ませてるんだろうなぁ」
「あ、やっぱり? 伯父さんたちも集まるしね」
「まったく……。はい、じゃあ前と同じようにして」
悠太は言われたとおり、折れた右手を上にして横向きの体勢になった。
悠太の部屋である。
前と違うのは、しっかり皮が剥けたチ○コが勃起していること。
あれから二日間、隙あらば隠れようとする敏感な引き籠もりとパンツの中で格闘していたのだ。母に立派な姿を見せたいために。
「まだ痛む」
「ううん、だいぶ慣れたよ」
細く反った人差し指が悠太の亀頭にそっと触れた。その瞬間下半身がビクッと震えたが、飛び上がるほどではない。
「じゃあ、ここは?」
そう言って母は尿道口をトントンと押した。
「そこは大丈夫。……汚いよ?」
それには答えず、人差し指でまるで穴を穿つようにその周辺をマッサージしてくれる。
普段は事務をしている中々切れ者の指である。
「……あ、そうだ。お母さん、もう一回聞きたいんだけど」
「なに?」
「あの、前出したやつ、僕が。あれがセックスの、あれなんだよね?」
手でチ○コを可愛がりながら、しばらく考えた後で母は言った。
「そう。あれがそう」
「じゃあ、あれが、その、ニ、ニンシンとか……? まだ僕、よく分からないんだけど……」
「保健体育なんかで習ったでしょ。受精とか、着床とか。知ってる?」
「うん、なんとなく……意味は分からなかったけど。でも、アレがそうなんだぁ」
「そう。女の人の体調にもよるけど、赤ちゃん出来るのよ、あれで」
しっかりはっきりとした母の言葉に、悠太はちょっと感動した。
(なんか特殊能力を身に付けたみたい……!)
見た目と同じく、なんだか一皮剥けたような気分だ。
「ふーむ、凄いよねえ?」
「そうね。だからちゃんとしなくちゃいけないのよ。マナーなんかを」
「マナー?」
「うん。例えば、子供が出来ないようにするとかね」
「ああ、はいはい」
「出せるって事は、そういう事。分かる?」
少し押し付けがましい、教育者の顔で母は言った。
「……改めて、凄いね、あの汁って」
「そうね」
母はいつもと変わらぬテンションで頷いた。こんなこと年頃の彼女ならば聞けないことだろう。
「……ちゃんとしたものだった? 僕の精子」
「精子にちゃんともなんもないでしょ。大丈夫、お母さんが認めたげる。……うん、大丈夫」
自分でも確認するように大丈夫を二度言った母は、悠太のいきり立ったチ○コを扱き始めた。また射精させてくれようというのである。
「あっ……お母さん、気持ちいい。ビクッてする」
「するね」
蛍光灯の下で右手がリズミカルに動く。
今日の母はターバンのようにタオルを頭に巻いている。お風呂上がりなのだ。その母の人差し指と中指、そして親指が、幹をしっかり支えて上下に動く。
「出そうになったら言って」
「ま、まだ全然平気だよ」
それはあからさまな強がりであった。
一日我慢したせいもあるが、二日前よりも一層気持ちよく感じる手淫である。
悠太はおっぱいを見せてもらうことも忘れ、ひたすら押し寄せる快楽と戦わねばならなかった。
「我慢しなくていい。気持ちよくならない?」
「ううん、気持ちいいよ! でも……」
「でも?」
「すぐ出したくないもん……。長くしててもらいたいもん」
それは紛れもない本心、かつ男にとっては当然の欲求だったが、それを聞いた母は「んん……もぅ」と眉を下げて手の動きを早めた。
めくれた皮がカリ首を何度も何度も往復する。
それは、まだ未熟なチ○コにはあまりにも性急な責めだった。
「あ、お母さん、ダメ!」
ギプスを付けた右手で母の手を緩めようとしたその時、母の厚ぼったい唇が亀頭の中程に触れた。一瞬だが、はっきりとチ○コにキスをしたのが見えた。
「ま、また、チューした?」
「うん、唇なら痛くない?」
「う、うん。痛くなかった……」
それに答えるように、また母の唇が亀頭に触れた。
さらにもう一度、今度はしばらく口を付けたまま印鑑を押すようなキス。
唇とシッコする器官のキス。この釣り合わなさは、堰を切るのには十分すぎるほどの刺激だった。
「ああー、ごめ……出るっ、すぐ出るよ、すぐっ!」
母の顔が余裕を持ってチ○コから離れ、ティッシュがあてがわれたのと同時に、悠太は射精を始めた。
中学生故の多量な発射。止めようのない生理現象。
母はポンプのように撃ち出すその様子をじっと見守ってくれた。それが悠太にはとても心強かった。
射精後の倦怠感と病中の消耗で、悠太はしばらく上体を起こせなかった。
念入りにそこを拭いてくれた母は、精液を受けたティッシュを畳んだだけでゴミ箱に捨てた。
いつもゴミ箱を空にしてくれるのは母である。だから良いのであろう。これが自分で覚えたオナニーだったら処理に困っていたところだが。
母が片付け終わるのを待って、悠太は礼を言った。
「ありがとう、お母さん」
「何がよ。気持ちよくなった? チンチン痛くない?」
「うん。……あーあ、でも」
「なに?」
「もうちょっとして欲しかったなあ……。うん……」
悠太が後悔混じりに言うと、母は時計をしばらく見て、それからちょっと間を置いてから口を開いた。
「もう一回、出せそう?」
「え? ど、どうだろ。分かんない……。二回って出せるもんなの?」
「悠太次第じゃない。体怠い? だったらやめとくけど」
「だ、大丈夫。多分出せるよ。出せる。出す。出そう。出る。出せ……」
「じゃあ、ちょっと休んだらもう一回してあげる」
「ほんと? わーい、やった!」
悠太は無邪気に喜んだが、続けて母が事も無げに放った言葉に身震いした。
「次は口でしてみてあげるから。そっちの方が痛くないと思うし」
口って、あの物を食べるお口? それってもしかして……。
『じゃあ、また後で』
一人になった部屋で、悠太は母の声色を思い出していた。
ちょっと低くて、怒るとき以外テンションも低いけど、どう聞いても女性的な母の声である。小さい頃から誰より自分を叱ってきた声である。
(その声が出る口で? ど、どんな感じなんだろう……!)
隙あらばすぐ否定の言葉を紡ぎ出す大人の口にチンチンが入る。恐れ多い気もするが、なんといやらしい行為だろうか。
怠さや痛みなんてもうどっかへ消えていき、残るのは母への任せっきりの期待感だけ。
悠太は、クラスメイトや友だちの顔を思い浮かべて優越感を覚えた。多分、こんな事までしてもらえるヤツはいないだろう。中二にして、今から女性の唇の中にチ○コを突っ込めるのだ。
綺麗な、周りには言ってないが内心綺麗だと思っていたお母さんを持ってて良かった……。
だが一方で、まだ子供なのにそんなことまでしてもらって良いのだろうかという躊躇いが湧き上がらないでもなかった。
でもそれは母親公認という絶対的なルールですぐに掻き消される。
母が部屋を出て一時間ほどが過ぎた頃、再びドアがノックされ、悠太のハートは部屋に響き渡りそうなほど高鳴った。
「もう大丈夫そう?」
「う、うん。大丈夫。全然平気」
ピンクのパジャマに着替えた母は、ベッドのそばに横座りをした。
ロングヘアは束ねられ、後ろでお団子状になっている。
よく見ると唇にはうっすらグロスが塗られている。このために、注目されるそこへわざわざお化粧をしてきたのだろうか。
それ以外はほぼ普段と同じ格好なのに、表情や仕草の一つ一つがセクシーに見えた。
「じゃあ、また出して」
何とも言えない間の後、母の指示通りにパジャマとパンツを脱いだ悠太はベッドへと寝そべった。
もうしっかり起立しているが気にならない。
母はその勃起をまずは軽く扱いた。目を凝らしながらゆっくりと。まな板の上の悠太とその幼い息子は、これからどうされるのかと気が気じゃない状態だ。
灯りは点けたままの部屋。息遣いしか聞こえない静かな年の瀬の夜。家は今、二人っきりである。
しばらくして、先ほどと同じように、母の肉厚な唇がチ○コに触れた。
「痛む?」
「ううん、平気」
手とは全く異質の感覚。
もう一度、母は亀頭にキスをした。チュッという音がした。
首を上げると、その様子は丸見えだ。
「するよ」
次の瞬間、亀頭が口中に消えた瞬間、悠太は体の奥底に触れられた気がして激しく身悶え、「んあっ…」という気の抜けた笑い声を盛らしてしまった。
「ん、痛かった?」
「い、いや、すご……気持ちよくてびっくりした。うん」
母は頷き、ベロを出して亀頭を舐め始めた。
特に尿道を念入りに。その度にゾワッゾワッという快感が背筋を通り過ぎていく。
さっき出した精子が残っているかも知れないのに……。先ほども思った、オシッコと口という掛け離れたものの接着が異様にいやらしい。
チュパッという小さな音がして、また母の口にチ○コが包まれた。
今度はもっと奥まで。竿の途中辺りまで。
まるで味わったことのない感覚に悠太は思った。
(食べられてる、チ○ポがっ……!)
これが紛うことのないフェラチオなのである。
(スゲッ……! 大人のプレイ、すごいッ……!)
まさに大人の女マジックである。
母は亀頭を口に含んで何かしている。口の中で何かをされている!
その急所から来るこそばゆい感触に耐えきれなくなり、悠太は上体を起こして脚をベッドから降ろし、ベッド横に腰掛ける体勢を取った。
「もう、なに」
振り回された形の母の唇から、唾液で滑ったチ○コが排出される。
衝撃的な光景である。
「い、いや、こちょばくて……。だってスゴいんだもん。このカッコでもいい?」
「うん。痛かったりしたら言いなね」
そして母は再び股ぐらに顔を埋めた。
「……ね、お母さん。これがフェラって言うんだよね」
「……ん。知らないけど。そうなんじゃない」
母は喋る時、一度チ○コを唇からニュルンと出し、喋った後、少しだけ出したベロで亀頭を舐め上げてからまた口に含む。
座ったため前より見えにくくなったが、唇に我が純白のミートバーが締められる様子も少しだけ見て取れる。
母の、というか女性の髪をこんな間近で見下ろしたことはない。その母のライトブラウンの髪が上下し始める。
チ○コが母の口に入り、ゆっくりと出る。またゆっくりと入り、ゆっくりと出る。
どうしてこんな動きをするんだろう。なんといういやらしい動きだろう。
ねぶられているのである。大人の女にねぶられているのである。
その刺激は、天にも昇ってしまいそうな心地よさだった。
「ん……んん……きっ、気持ちいい、お母さん!」
悠太はどうしていいか分からない快感を伝えた。
すると母は、キスをするときのような蕾型の唇をして亀頭を抜き出し、悠太の腹を見たまま、
「そう。良かった。感覚はちゃんと伝わってるんだ」
と言って、傍らにあったティッシュ箱から手慣れた手つきで数枚ティッシュを取り出した。
そしてまたチ○コを口に含む。
悠太がベッドに腰掛け、母が床に座った体勢で味わうフェラチオ。
悠太は自分が今、奉仕されているんだということを意識した。
(メ、メッチャ気持ちいい……。お母さん、こんなこと出来るんだあ……!)
それが素直な驚きであった。
あの家事をして、仕事をして、ちょっとだけ怖い僕のお母さんが、こんなAV女優がするような行為を出来るなんて。
あの味にはうるさいお母さんが、しっかりチ○コを舐めてる。しっかりチ○コを味わってる。手を使わず、わざわざ口を使うことがエロ過ぎて信じられない!
今、悠太の尿道口は、母の喉に向けられている。
それはショックと感動が入り交じった不思議な気分だった。
ソコを温められ、まるでフニャフニャに溶かされてしまいそうな感覚に陥ると、嫌でも絶頂が近いことを悟らされる。
母の律動は続く。
(この頭の動きがやらしい……!)
少し凹んだ頬が、頭頂のうずがいやらしい。
そんな悠太の動向を窺うためか、母がチラッと悠太の顔を見上げた。だが一瞬だけ。目があった瞬間、すぐにマスカラの塗られたまつげを閉じる。
その意外な視線の近さにドキッとした悠太は、そこまで迫った絶頂感を紛らわそうと口を開いた。
「お、お母さん」
「……ん?」
「コロみたい」
コロとは、亡くなった悠太家の元飼い犬であった。
近寄ってベロを出す仕草がフェラをする姿とダブり、つい口にしてしまったのだ。
母は驚いた顔をしてまた上目遣いに悠太を見ると、ゆっくりとチ○コを抜き出して眉根を寄せ、いつものローテンションな声で言った。
「コロの話は止めて」
ちょっと機嫌を損ねてしまったようだった。
コロは何より母が可愛がっていた犬で、普段話題に出すのは憚られたのである。
悠太もコロを思い出してホロッとした気分になった。
そしてまた母はチ○コを口に含んでしゃぶり始める。いやらしい律動が再開される。その直後。
「あっ、あれ……?」
コロの話が引き波にでもなったのか、当人である悠太もビックリするぐらい突然、高速な津波が下腹部を伝った。
「お、お母さん」
「……ん?」
「出るかも」
言ったときにはもう快感が始まっていた。
母の口に納めたまま、気持ちよくなっていた。
まさかと疑い、すぐにしまったと確信したが、その対象が顔に埋まっているため確認が取れない。
(や、やっちゃった……!?)
だが、母の頭は動いたまま……。
(あれ……?)
その動きが止まった。しばしの静止があった。そこから眉間に皺が寄り、目をギュッとつぶった母の顔が股間から離れたのはすぐだった。
解き放たれた己からは白いものが噴水のように飛び出てくる。
「……むん……ん……」「わあっ!」
鼻声のような溜息のような声が母から漏れるのと、悠太が声を上げたのが同時だった。
「……ご、ごめん……」
これは大変なことをしでかしてしまった。だいぶ口に出しちゃった。
謝っても精液の噴出は止まらない。派手に舞い上がり、悠太の下腹部周辺に降り注いでいく。あまりに突然の絶頂だったのだ。
母は真後ろを向くように顔を背けながら、それでもチ○ポから手を離さないでくれていた。
「……ごめんなさぁい……」
ようやく快楽の波が止み、泣きそうになりながら謝った悠太だったが、母は上体を曲げたまま「待って」と言うだけだった。明らかに口の中に何かを含んでいる声で。
その体勢がどのくらい続いただろうか。
どうすれば良いか分からず混乱する悠太に、今度は幾分すっきりとした声色で母は「待って」と言った。
そしてようやく顔を戻した母は、手に持っていたティッシュで悠太のペニス周りを手早く拭いた。その表情には先ほどのような驚愕も、無論怒りもない。
「ごめんなさあい、お母さん……」
悠太は本気で泣きそうになった。
それだけは気を付けないとと思っていたことを、思いっ切りしでかしてしまったのだから。
「ごめんなさあい……」
「ん。我慢できなかったんだよね。……もう、コロの話なんてするから」
立ち上がった母はベッドに腰掛け悠太に寄り添った。
だが、そうは言われても悠太からすれば大失態である。口の中に出して良いような物ではないのだ。お母さんがあんな目をつぶってびっくりしたとこなんて見たことが無い。
「なんかいきなり来て、すぐ出ちゃってて……うう」
「いい。うん、いいの。なんも悪くない」
母親は息子を自分の方に抱き寄せた。
「だけどマズいよね? 飲めないよね、あんなもん……。うがいしてくる?」
「そりゃあ美味しくはないけど、大丈夫。お母さん相手なんだから気にしない」
「でも……」
久美子は落ち込んでいる悠太の肩を強く抱いた。
違うのである。
母親からしてみたら違うのである。
出させてしまった、のだ。自分がうかつだったばっかりに、子供に中途半端な射精をさせてしまった。なんというミステイクだろう。
当たり前だがもっと様子を見ながらやらなければならなかったし、仕方ないなら仕方ないでせめて……。せめて……。
だが、お互い後悔しても遅い。
母に抱かれる悠太の鼻には、自分が出したものからであろうツンとした香りがオイタをした証として残された。
母は肩から腕を解いて立ち上がると、その残滓を枕元のティッシュを使って拭き取っていく。
チ○コ周り、床、シーツ。
ただ見てるだけの悠太からしたら無駄も見落としもない、さすが家事のプロといえる素早い拭きっぷりだった。
一通り拭き終わったティッシュマスターはまた悠太の傍らに座った。
「あ、そうだ。悠太、今日は胸良かった?」
「むね……?」
一瞬何のことかと思ったが、すぐにそれはおっぱいのことだと判った。そういえば今日は脱いでもらってない。
「あ……忘れてた」
「もう、言わないから。じゃあ、ほら、揉んで」
久美子は離れた方になる悠太の左手を握り、まるで失敗を忘れさせるように自分の胸へと導いた。
パジャマ越しだが、ハッキリと柔らかさと弾力が伝わってくる。ノーブラなのだろう。
悠太は二度の射精で疲れた所為もあり、そのまま胸に頭を投げ出してしまった。
母はそれをしっかりと受け止め、柔らかい乳房に抱き込んだ。
「……もう、可愛いし……」
精子を飲ませた母が小さな声でそう言ったように聞こえたが、空耳だったかも知れない。
しばらくそのまま身を預けた悠太は、素直な感謝の言葉を告げた。
「お母さん、こんなことまでしてもらってありがとう」
「なにが」
「んと、フェラとか……」
「ああ、うん。悠太のチンチンに感覚があるか確かめられたし……お母さんじゃない」
……だからこそマズいんじゃない?
そういう気持ちも少しだけ湧き上がったが、それ以上に悠太の心は納得の気持ちで占められた。
中二の子供にこんな事、他の誰がしてくれるというのだろう。誰とだったらしても良いのだろう。何の責任も取れない子供なのである。
それが母親だったら……。お母さんなら……。そう考えるとしっくりくるのだ。
「お母さん、僕、ちゃんと、その」
「なに」
「大人になって、セ、セックス出来そう?」
「……大丈夫。痛みもなく出せるんだから」
「大きさとかは大丈夫?」
「大きさって……なに気にしてんの。十分でしょ」
「そか」
母のその素っ気ない言葉に悠太は安堵した。
それは、小さい方が恥ずかしくないと信じていた少年が迎えた、大艦巨砲主義へのターニングポイントであった。
そしてチ○コのことやセックスのことに思いを馳せると、今度はそれと対になるもの……すなわち女性のあそこについての興味が湧き上がった。
それはそうだ。エロ妄想するとなると一番想像するのは女性器のことなのだから。
悠太はゴクリと唾を飲んだ。
真横にはピンクのパジャマを着た母がいる。本当は優しい母が居る。僕よりずっとがっちりした太ももとお尻周りがある。当然お母さんはオンナ、座ってオシッコするオンナである。
上がノーブラなら、もしかして下も……。そんな考えが浮かんだが、すぐにそれはダメと打ち消した。
そこはあまりに大人の世界だったから。
悠太の世界ではない。女性の世界。
家族計画とか、生理云々とか、保健体育で聞くような現実があって、フェラなどとは全然違うのだ。しかも母はもうおばさんである。下着だって大人用のそれだろう。
一瞬の間だったがそんなことを考えた悠太は、母の腕に包まれたまま、骨折した右手を太ももの上に置くのが精いっぱいだった。
「……じゃあ、そろそろ寝なね。疲れたでしょ」
「……うん」
名残惜しそうに、二人は身体を離した。
心地好い母の残り香が心をざわめかせる。
悠太は、部屋を出ようとする母の、桃のようなピンクの尻から目が離せなかった。
「……お母さん……」
我慢できず、悠太は呟くほどの声で呼び止める。
「なに?」
「……」
「もう、なに?」
母は早足でベッドに戻り、また悠太の肩をギュッと抱いた。
悠太は消え入りそうな声でお願いした。
「お尻触ってみてもいい……?」
母は驚いて目を見開いた。
「お尻って、どこを!?」
「どこをって……んーと、お尻。パジャマの」
「ああ。……ん、いいよ。はい」
すぐに立ち上がった母は、ベッドに腰掛けている悠太の目の前に後ろ向きで立った。突き出すのではなく、大きさを隠すように背中を反らせ気味にして。それでもピンクのパジャマに包まれた迫力の逆ピーチが悠太の眼窩を襲う。
アラフォーのケツである。
「大きいでしょ。いいよ、パンチしたりしても」
その言葉に従って、柔らかく握った左手で突いてみる。少し垂れ気味のお尻がボヨンと跳ね返る。今度は手のひらで掴んでみる。スライムのように尻肉が逃げて手からこぼれ落ちる。おっばいとはまた違う弾力だ。
「クラスの女の子より大きい?」
「うん、多分」
「当たり前じゃない」
自分で聞いて自分で怒る母に、悠太の方が尻込みしそうになった。
(……これがお母さんのお尻か……。ちょっと恥ずかしいけど良い感触……。……でもホントは前を……)
首を振った悠太は、下着の起伏を感じさせない大人の尻を撫で回した。
つくづく右手を使えないのが惜しい。
中学二年生にして女性のケツを触りまくる。さほど緊張を感じないのは二度出したからか、それともお母さんの尻だからか。
さすがに割れ目に手を差し入れたりまではしなかったが、悠太は気が済むまでむっちりヒップの二つの山を味わった。
「もういい?」
「うん。なんかすごい良かった」
「なにがよ。あー、恥ずかしい」
珍しく母は照れ笑いを浮かべ、悠太の髪の毛をくしゃくしゃに混ぜた。
そう言われると悠太も恥ずかしくなる。母子でお尻お触りタイムを開いていたなんて。
母の手はいつの間にか前後に動き、いわゆる撫で撫でに変わっていた。
「確かに恥ずかしいね」
「ね」
二人は、二人だけの家の中で、二人だけが分かるような笑みを交わした。
「ありがと、お母さん」
「ん」
そして母は子供部屋を出ていった。
9.
悠太は翌日も「もしかしてお母さんは来てくれるかも……」と心の隅で期待したがまた叶わなかった。
翌日、父と兄が田舎から帰ってきてしまったのだ。
父は「やっぱり家族が揃って年を越さないと寂しいしなあ」と言った。兄は、言葉ではからかいながらも折れた右手を気遣ってくれた。
父、母、長男、次男が揃った家。
こうしてプチ逢瀬は終わったのである。
冷静になって考えると行き過ぎたことをしてもらったとも思うが、それで母との絆はさらに深まった気がした。以前より目を合わせられなくなってしまったけれども。
……あれは僕のお母さんだから、してもらえたこと……。
そして少しの時が流れた。
続く