<名取ノ老女>国立能楽堂で復活上演へ
東日本大震災から5年の節目となる来年3月、国立能楽堂(東京)で特別企画の能「名取ノ老女」が上演される。熊野信仰を背景とする名取老女伝説を基にした500年以上前の作品。明治初期を最後に上演が途絶えていたが、被災地の「祈り」をテーマに復活する。出演する人間国宝で観世流シテ方の梅若玄祥さん(67)ら能楽師4人が30日、宮城県名取市内のゆかりの地を視察した。
4人は能楽堂のスタッフと共に高舘地区の名取熊野三山(熊野本宮社、熊野神社、熊野那智神社)や閖上地区などを視察し、作品のイメージを膨らませた。梅若さんは「全てが失われた被災地を見て自然の恐ろしさを実感した。どういう思いでわれわれが能をつくれるのか、責任を感じている」と話した。
名取熊野三山は全国で唯一、紀州熊野を忠実に模し、中世から近世にかけて東北太平洋側の熊野信仰の布教拠点になった。勧請したのが、信仰心の厚い名取老女だったと伝えられる。
年老いて紀州に参詣できなくなった老女に、夢で神託を受けた熊野三山の山伏が対面し、梛(なぎ)の葉を手渡す。そこには虫食い跡でできた和歌が浮かんでいた-。物語はそんな伝説を基に描かれる。老女が閖上浜などを紹介する「名所教え」の創作も加えた。
国立能楽堂によると、「名取ノ老女」は能楽を大成した世阿弥のおいの音阿弥(おんあみ)が寛正5(1464)年に上演した記録があるが、明治時代初頭を最後に上演されなくなった。能楽堂は「震災5年の節目に復活し、現代における宗教的救済とは何なのかを世に問いたい」と話す。
公演は来年3月25、26の両日。毛越寺(岩手県平泉町)の延年「老女」を同時上演する。連絡先は国立能楽堂03(3423)1331。