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津田大介・ツイッターで「人」を見抜く

2014年01月24日 公開

津田大介(ジャーナリスト、メディア・アクティビスト)

 

ツイッターでは「素」があらわになる

 これまで、ネット上では匿名、あるいはハンドルネームでの発言が可能なため、発信者の人柄を見抜くのが難しいとされていました。その発言は、実際の本人とは違うだれかを演じたもの、つまり、現実とはまったくの別人格になりきっている可能性を排除できないからです。

 たしかにプログの文章などは、どこかよそ行きのスーツを着ているような感じを受けることがあります。やはり人間は、あらたまって長い文章を書こうというときには、どこかかしこまってしまうものだし、カッコつけたくもなるでしょう。

 けれども、ツイッターやフェイスブックでは、ちょっと印象が違います。ツイッターはとくにそうですが、140字という少ない字数で、しかもそのとき起こっていることに対して即座に反応して書くので、その人の「素」が出やすい。

 いい例が、震災直後のツイッターでした。

 「この人ってこんなにデマに動かされやすい人だったのか」

 「優しい印象があったけど、案外、性格悪いんだな」

 「ふだんのツイートを見てると口は悪いけど、この人、じつはいい人だったんだ」

 といった具合に「素」がよくも悪くもあらわになった。

 短いツイートは1つひとつを見れば、その人のごく1点だけを表現したものにすぎません。けれども、1個1個の点がどんどん集積していくことで、点描画のように少しずつ、その人の人格が浮き出てくるようなおもしろさがツイッターにはあります。プログや著書ではかしこまっているために1割くらいしか見えなかったその人の人間性が、ツイッターの140字のつぶやきを継続的に迫っていくことで、4割は見えてくる、といった感じです。

 これについては、ある編集者がおもしろいことをツイートしていました。

 「ツイッターはいい書き手を探すためのツールではない。仕事を頼んではいけない書き手を見分けるためのツールなんだ」

 たしかにツイッターを見ていると、「この人、こんなヤバイ人だったんだ」と思わされる書き手は多い。著書を見ているかぎりではものすごくいい書き手でも、人格的にはこんなにひどいのか、こんなに締め切りにルーズなのか……といった裏の面が丸見えになってしまうのです(ぼくも原稿の締め切りにはかなりルーズなので、人のことはまったくいえませんが……)。

 一度に書ける文章が短く、瞬発力を要するので、特定のキャラを演じつづけることが難しい。結果として、その人の「素」があらわになってしまう――これがソーシャルメディアの特徴です。ツイッターやフェイスブックである程度、長くウオッチしていれば、その人の「本音」と「建て前」のような複雑な人間性を垣間見ることができるようになるのです。

 

人脈は「広げる」から「深める」へ

 最近ぼくのまわりでは、ツイッターをきっかけに転職するケースが増えてきました。

 ある投資コンサルタントは、ツイートの内容を読んだ投資会社の社長に「いい目をしているな」と見込まれてヘッドハントされました。

 音楽業界で働きたいとの希望をもちながら、通信系の会社で働いていた知り合いの女性は、ツイッターで交流を増やしていくなかで、ある音楽会社の社長と知り合いました。たまたま社長が福岡に出張しているときに、その女性は旅行で福岡にいた。せっかくだからちょっと会おうか、という話になり、「おもしろい」と認められて転職の声がかかり、念願の音楽業界入りを果たしたのです。

 ツイッターが転職に役立つのは、前述したように、ソーシャルメディアではその人をいろいろな角度から知ることができるからです。

 履歴書や面接の場では演じることもできますが、ツイッターでフォローして継続的に発言を見ていれば、その人の人間性をかなり見て取れます。そこで「この人といっしょに仕事がしたい」と感じられたら、それは正しいことが多い。そのうえで実際に会って話をすれば、通常のありきたりな採用活動よりずっと深く相手を知ることができるのです。

 ぼく自身も、ツイッター上の交流が新しい仕事につながることがあります。といっても、それだけで決まることはあまりありません。やはりツイッターで知り合った人とリアルに会い、そこではじめて「こんなことはできませんか?」「これをやってみたらおもしろいのでは?」と対話をすることで、仕事の話がもちあがるのです。

 これまではネットを仕事に活用するとか、ツイツターでキャリアを開拓するというと、「ソーシャルメディアでは多くの人とつながることができ、人脈を飛躍的に広げることができる」といった考え方が主流でした。

 もちろん、それも間違いではないと思いますが、人間関係を構築していくうえでのソーシャルメディアの最大のメリットは、人脈を「広げる」ことよりも「深める」ところにあるとぼくは考えています。

 ソーシャルメディアという「素」が出やすい場で、継続的かつ、多面的にその人を見ることで、リアルで会う前に、その人の人間性を見極めるための情報を集めて予習することができる。逆も然りで、リアルで出会ったときには挨拶くらいしかしなかった相手なのに、儀礼的にツイッターをフォローしてみたら、ものすごくおもしろい人だと気づいた――そんなことだってありえます。

 ソーシャルメディアでの交流は、一見、人間関係の入り口を広げているだけだと思われがちなのですが、じつはリアルでの交流とは違ったアプローチで、深い人間関係をつくるきっかけになっているのです。

 ここまでいくつかの事例や現象を見てきました。これらから読み解けることは、ソーシャルメディア時代の情報リテラシーとは「人を見る力」であるということです。そしてこれは同時に、自分という「人」がソーシャルメディアを通じて見られていることを意識しなければならない、ということにもなります。

 ネット上のサービスが充実し、スマホをはじめとするハードも進歩していくなかで、情報の収集・発信の起点となる「人」がますます重要になっていくのです。

 


<書籍紹介>

ゴミ情報の海から宝石を見つけ出す

これからのソーシャルメディア航海術

津田大介 著

「ツイッターはむしろ人の素があらわになる」――キュレーターの第一人者がだからこその発想を公開。これからのソーシャルメディア活用法。

 

<著者紹介>

津田大介

(つだ・だいすけ)

ジャーナリスト、メディア・アクティビスト、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事

1973年生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。メディア、ジャーナリズム、I T・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまなかたちで実践。ポップカルチャーのニュースサイト「ナタリー」の創業運営にも携わる。世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2013」に選出される。現在、大阪経済大学客員教授、早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師、東京工業大学リベラルアーツセンター非常勤講師。また、J-WAVE「JAM THE WORLD」ナビゲーター、NHKラジオ第1「すっぴん!」パーソナリティなども務める。
おもな著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書y)、共著に『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)など多数。
2011年9月より週刊有料メールマガジン「津田大介の『メディアの現場」」を配信
中。

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