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津田大介・ツイッターで「人」を見抜く

2014年01月24日 公開

津田大介(ジャーナリスト、メディア・アクティビスト)

《PHPビジネス新書『ゴミ情報の海から宝石を見つけ出す』より》
[写真撮影]Daisuke Miura(go relax E more)

 

情報の質は「人」の選び方で変わる

 ツィッターやフェイスブックのタイムラインで、どんどん流れてくる情報を見ていると、つい時間を忘れてしまうことが多くなります。没頭してやめられなくなるわけですね。スマホが普及したことで、「ネット依存」的に日常のかなりの時間を費やしてしまう人は増える一方です。

 ソーシャルメディアだけではなく、ネットニュース、有名人のブログ、各種情報サイトなどなど、自分が興味のある情報を追っていくだけでも、時間がいくらあっても足りません。

 だれもが押し寄せる情報に溺れそうになるなかで、注目されるようになったのが「キュレーター」の存在です。

 ネット上にある膨大な情報のなかから価値ある情報を選別し、編集して紹介する目利きであり情報屋のような役割がキュレーターです。世の中の多くの人はニュースを選別・編集するのに充分な時間がありません。そこで代わりに、自分の専門分野ではない領域の情報について、良し悪しを判断するきっかけを与えてくれる優れたキュレーターが重宝されるようになりました。

 覚えなければいけない専門的な知識の多い、雑誌や新聞の編集者や記者の仕事は、だれもがすぐできるものではありませんが、キュレーターになるのはコツさえつかめば難しくありません。すでにツイッターで自分が気になったニュースにコメントをつけてつぶやいている人、「はてなブックマーク」でおもしろいと思ったウェブ上の記事を紹介している人はたくさんいます。

 作家の佐々木俊尚さんはこのような状況を指して、「一億総キュレーター時代」と評しています。

 そうなると問題になってくるのは、キュレーターの選別です。情報が大量にあって取捨選択するのが難しいから人々はキュレーターに頼るわけですが、キュレーターの数が多くなると、今度はキュレーターの「質」を見極めなければならなくなるのです。

 実際、ツイッターやフェイスブックを使っている人のなかには、自分に興味がある記事を頻繁に紹介してくれる人をフォローする、仕事に役立つ情報を流してくれる人をリストにする、といった使い方をしている人が多いはずです。逆にいえば、ソーシャルメディアを情報のインプット装置ととらえている人からすれば、不確かな情報を平気でリツイート(RT)する人や、感情的な意見ばかりつぶやく人は「ノイズ」になり、フォローをはずすのではないでしょうか。

 ここで行われているのは「人」に対する信頼性の判断であり、情報源となってくれる「人」を意識的に選択しているのです。

 

自分で「世間」を構築するツール

 ソーシャルメディアを使っている最中に、ネットの世界と現実の世界とのズレに気づいた経験がある人は多いのではないでしょうか。

 たとえば、先ほど話題にした参院選。ツイッターをやっていた人は、おそらくツイッター上での選挙に対する反応、注目度と、実際の選挙結果――史上3番目に低い投票率とのギャップに驚いたはずです。自分のタイムラインにいる人はみんな選挙に行っている様子なのに、なぜ……となる。

 こういったことが起きた原因は何か。1つには、ネットの利用者層が偏っていることでしょう。ツイッターなどで情報を集めてうまく利用しようと考える人は、言ってしまえば「意識が高い層」です。ツイッターにはそもそも投票に行くことを前提としている人が集まっている可能性が高い。

 ちなみに、ツイッターやフェイスブックが一般化したといっても、地方ではまだまだミクシィユーザーのほうが多かったりします。こうした隔たり――「デジタル・ディバイド」とも表現されますが、これは、ネットを深く利用している人ほど気づきにくいものなのです。

 とくにツイッターやフェイスブックの場合、自分と考えが近い人、共感しやすい人とつながりやすいがために、この隔たりをさらに大きくしているといえます。その結果、自分と似た意見が世間の多数派に見えてしまうことさえあります。

 こうした現象をメディア学の世界では「エコーチャンバー(共鳴室)効果」と表現します。ソーシャルメディアを通じて多様な意見にふれているような気になっているが、そのじつ、自分の声が反響しているだけの空間にいる――自分と価値観が近い人の意見にしかふれないことで、自分の意見が多数派だと勘違いしてしまうわけですね。

 そうならないように、意識して自分とは異なる考えの人を積極的にフォローするようにしている人もいるでしょう。もちろん、そのこと自体はとてもいいことなのですが、それだけで隔たりが埋まるわけではありません。選挙の例でいえば、自分とは政治的な立場が正反対の人をフォローしたとしても、やはりその人も、「投票に行こうとしている人」だからです。

 ソーシャルメディアは自分だけの「世間」をつくるサービスです。自分にとって都合のいい、は言いすぎかもしれませんが、自分が許容できる、自分がおもしろいと思える人とつながって、「世間」を自分で構築する。いい意味でも悪い意味でも、そうした特徴があることを頭に入れたうえで利用する必要があるのです。

 ネットの世界と現実の世界には隔たりがある一方、利用者がそれぞれの「世間」を自分で都合よくつくれるようになったことで、ネットで得たつながりや情報をもとに、自分の考え方や発言、世界観が変化してしまうようなことが起こるようになりました。

 よく言われるネット上の「リテラシー」の意味も変わってきています。もともとリテラシーとは「読み書き」という意味でしたが、だれとつながるかによって情報の見え方がまったく違ってくるという現実を踏まえて考えると、これからの情報リテラシーは「人を見る力」「人を選ぶ力」という要素が強くなるのではないでしょうか。

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