(2015年9月28日放送)
御嶽山の噴火から1年。登山者58人が死亡、いまだに5人の行方がわかっていません。
御嶽山で起きたのは、マグマが直接吹き出すのではなく、マグマの熱で地下の水が熱せられて高温高圧となり、土砂や火山灰とともに噴き上がる「水蒸気噴火」と呼ばれるものでした。
御嶽山の水蒸気噴火のメカニズムを探る研究が、さまざまな専門家によって進められています。
その最新の成果を名古屋放送局の田中絵里記者が取材しました。
突然の噴火
去年9月27日。突然登山客を襲った御嶽山の水蒸気噴火は、どのようにして起きたのか。
この1年、さまざまな研究者が分析を始めています。
その1人、名古屋大学の加藤愛太郎准教授は、御嶽山周辺に設置された13の地震計の記録を細かく分析し、噴火の前から地下で起きていたごく小さな地震2000個あまりの震源の位置を突き止めました。
噴火直前に何が
すると、噴火直前の地下の変化が見えてきました。
噴火の前兆と見られる地震が観測されたのは約10分前。そして、最後の4分間でこの震源が一気に浅くなり、地表に近づいていったことが分かったのです。
この4分間の震源の上昇は、水蒸気が岩盤を割りながら急激に上がっていく動きを示していると、加藤准教授は考えています。
加藤准教授は「火口に向かって一気に水蒸気が上昇し、その後、山頂の中央までいたって噴火したというふうに考えています。
何が水蒸気の動きを支配しているのかということに関してはまだ手がかりが無い状態で、その点は今後さらに研究を進めて明らかにしていくべきだ」と話しています。
水蒸気はどこから
いったい、噴火した水蒸気はどこから来たのか。
その解明に、地震や火山ガスといった火山に関わる4人の専門家が挑んでいます。
4人が手がかりにしたのは、噴火の10か月前に偶然、御嶽山で行われていた調査のデータでした。
砂防対策を目的に国土交通省が地中に電気を流して山の構造を調べたものです。
調査は、御嶽山の両端にケーブルを設置して大きな電流を流し、それによってに発生した磁場をヘリコプターで空中から測定するという方法で行われました。
磁場は、電気が通りにくい層では弱く、通りやすい層では強く出る性質があるといい、それを利用したのです。
調査の結果、御嶽山では「電気の通りやすい層」が地表近く、比較的浅い部分にあることがわかりました。
このことから研究者たちは、このあたりに電気が通りやすい「水」の層があると考えました。
帯水層とは
では、水の層はどのくらいの深さにあるのか。
研究者が参考にしたのは、20年あまり前、御嶽山が噴火した後に取ったガスのデータでした。
このガスには水蒸気が含まれているため、解析することによって水の温度や位置を推測できるといいます。
分析の結果を重ねあわせると、御嶽山の地下約500メートルに、水を多く含んだ層の存在が浮かびあがりました。こうした層は「帯水層」と呼ばれています。
水蒸気噴火につながる帯水層とはどんなものか。
帯水層が地表に現れているのが、富士山の山麓、白糸の滝です。
帯水層は、白糸の滝のように地下の岩の切れ目に大量の水がたまっている層だと考えられています。
見えてきた噴火の過程
各専門家の研究成果から御嶽山の噴火の過程が見えてきました。
まず、地下深くにあるマグマの熱で帯水層が温められます。
帯水層の水は徐々に高温高圧になり、水蒸気が岩盤を割り始めたのが約10分前。この動きが地震として観測されました。
この水蒸気がさらに熱せられ、地表へ向けて急上昇したのが噴火4分前からの地震。
その勢いのまま水蒸気は一気に噴出し、多くの登山客を巻き込んだ―――。
あくまでひとつの仮説ですが、そんな可能性が見えてきました。
名古屋大学の山岡耕春教授は「帯水層の深さが500メートルくらいしかないと、水蒸気が地表にまで到達するまでの時間は本当に短い。やはり逃げる暇がなかったのではないか」と話しています。
噴火の予知には
帯水層が浅い場所にある山では、地震が起きてからでは対策が間に合いません。
研究者たちは、噴火の兆候をつかむには、地震に加えてガスや水温の観測を行う必要があると考えています。
北海道大学の茂木透特任教授は予知のポイントとして、「仮に浅いところに熱い水の層ができたとすれば、そういうところの温度がどう変わったかを観測するのが有効だ」と話しました。
また、産業技術総合研究所の及川輝樹主任研究員は「今までは地殻変動や地震などを中心に見ていたが、それ以外に地磁気とかガスといったものも含めた総合的な観測を進めていく必要がある」と指摘しています。