[FT]マカオのカジノ産業に広がる投資家離れ

　世界最大のギャンブルの都、マカオでは長年、ジャンケットと呼ばれる黒子のような仲介業者が法的制限をくぐり抜けながらカジノ産業の成長を加速させ、米国のカジノ王シェルドン・アドルソン氏とスティーブ・ウィン氏、そして中国のカジノ王の仲間たちに何十億ドルもの金を生み出してきた。

カジノの前を歩く中国人観光客（マカオ）＝ロイター

　しかし、マカオのジャンケット事業者は今、その一社であるドーア・エンターテインメントが数百万ドルの盗難に遭ってから最大の試練に直面している。マカオがすでに中国本土の反腐敗運動と経済減速に大きな打撃を受けていたところへ盗難事件が加わり、投資家たちの信頼が揺らいで抗議デモまで起きた。

■規制強化の検討へ

　ポルトガル植民地から中国の特別行政区となったマカオは中国で唯一、カジノが合法化された都市であり、マカオ特区政府は規制強化の検討に乗り出している。ジャンケット事業者が厳しい先行きの見通しを示すなか、ジャンケットに出資していた投資家が資金を引き揚げる動きが広がっている。

　「ジャンケットへの投資家は、しばらく前から市場が崩れていくのを見ながら不安を感じていた」と、調査会社ユニオン・ゲーミング・リサーチ・マカオのアナリスト、グラント・ガバートセン氏は言う。「そこにドーアの盗難事件が持ち上がり、ジャンケット投資家に『もう降りる』と言わせる理由がさらに加わった」

　香港上場のジャンケット最大手の一社、ネプチューンは、財務状況が「極めて弱い」なかで膨らむ損失を早急に減らすという「緊急の問題」に直面しており、事業撤退もあり得ると警告している。世界的な株安を引き起こした「中国経済に対する不安の高まり」により「事業戦略の幅広い見直しを余儀なく」されているという。他のジャンケット事業者はすでにマカオの外に目を移し始め、バヌアツやアフリカのカーボベルデなどでのカジノ計画を打ち出している。

　中国の習近平国家主席が反腐敗運動を開始した2013年までの10年間、マカオのカジノ産業は目まぐるしいほどの速さで拡大した。カジノ収入は13年に史上最高の450億ドルに達したが、その大部分はジャンケットに世話されてＶＩＰルームで遊ぶ大口顧客からの収入だった。他の国では通常、カジノ自身がＶＩＰ客に資金を貸すが、マカオではそれができない。中国政府による通貨統制のほか、賭けを助長する行為が禁止されていること、賭けによる負債の取り立てが合法と見なされないことが理由だ。

　上場企業や著名人、闇の世界とつながりを持つ個人が運営するジャンケット事業は、さまざまな制約を乗り越えて、カジノ収入の過半を占めるＶＩＰ客の85％を引き寄せている。