ツタヤ図書館の可能性と限界
ツタヤ図書館が、開館した武雄市や海老名市で騒動を起こしている。武雄市では貴重な郷土史を捨てていたり、明らかにツタヤの不良在庫と思われる本を何冊も購入していたりしていた。海老名市では選書も相変わらずだが、何より分類がめちゃくちゃで、ネット上ではもはや、トンデモ分類を探すゲームと化している。
海老名市中央図書館の謎分類メモ (Togetter記事)
そしてついに、小牧市では住民投票の結果、僅差ながら建設反対が賛成を上回った。市長は慎重に検討するとしている。
それにしても、ツタヤを経営するCCC高橋聡館長のコメントはひどすぎた。「武雄市図書館の時はド素人でした」と述べられたのだが、介護に参入した企業で虐待が発覚したとき、”ド素人"では済まされないのだけれど、図書館という市民の知的資産を扱い責任を持つ業務では許されるの?
「武雄市図書館の時はド素人でした」 海老名市でオープンした2館目のTSUTAYA図書館は何が違う?(ハフィントンポスト日本版記事)
騒動のさなか、私はツイッターで次のようにつぶやいた。
「案外、図書館戦争は近い未来に、「無益図書」を捨てようとする民営化された図書館と、それを奪還しようとする民兵組織との間で起きるのかもしれない。」
「言うてたらリアルに図書館戦争起こってしまったな。市民の手に蔵書を取り戻すたたかい。」
しかし、功罪きちんと評価するならば、武雄市においては、新図書館がにぎわいを創出し、市民の憩いの場をつくった、という意見もある(例えば上山 信一「武雄市図書館をけなすヒマがあるなら、読書人口を増やせ」:「競合共創モデル」が生み出す広大なブルーオーシャン)。
そこで、武雄市での図書館利用者数の推移を追ってみた。(データはCCC発表及び佐賀新聞記事より。以下を参照。http://www.ccc.co.jp/news/2014/20140401_004462.html http://dechnostick.hatenablog.com/entry/2015/04/09/020224)
2011年度
来館者数 867人 貸出冊数 1,153冊 貸出者数 280人
2013年度
来館者数 2,529人 貸出冊数 1,494冊 貸出者数 460人
2014年度
来館者数 2,193人 貸出冊数 1,315冊 貸出者数 421人
※すべて一日平均。
確かに来館者数は依然として高い水準だが、貸し出し利用者数・図書貸出数は確実にリニューアル前に戻りつつある。
つまり、カフェやツタヤを使うため、図書を借りる以外の目的で来館する人は増えているのは確かだ。それは地域外からの視察も含めてであり、それが貸出冊数にも影響している可能性はある。
しかしそれが人口10万を超える都市で必要な機能かと言われると大いに疑問だ。小牧市の住民の判断は大いに共感できるものがある。それは図書館でなくてもできる。
なにより、図書館の可能性を逆に狭めてしまっている可能性もある。
いつもいつも「出羽の神」で恐縮なのだが、トロント市の図書館は移民向けの語学サービスを始め、市民向けのワークショップを無料で実施していた。とくに語学教室はいつでもすぐに満席になる。さらに、アウトリーチ活動も盛んで、まちなかでの各種のイベントでは、いつでも図書館のブースを見かけた。そして、例えばLGBTのお祭りである「プライド」の会場では、LGBTを考える本をセレクトして、そのリストを配布するなどしていた。
要は、非営利組織や公共施設の運営で考えたとき、「その組織のミッション(使命=存在目的)は何なのか」ということだろう。
「にぎやかし」をして、市外から見学者を増やすことが目的なのか。それとも、市民の知的満足を見たし、教養水準を上げ、リテラシーを高めることが目的なのか。
今回の件は、市民に、図書館のあり方について再考を促したと言うことで、意味はあったのかも知れない。既存の図書館のあり方で決してよいというわけではないかも知れない。そしてそのときに、専門家としての司書をないがしろにしている図書行政のあり方についても、再考が求められるだろう。
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