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DeNA南場智子氏がサービス開発の悟りを講演「UXをまず作り込む。ビジネスモデルやマーケティングは後でいい」

UIデザイナー向けイベント「UI Crunch Under25」基調講演
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2015/10/05 14:00

Permissionless:承認なしでリリース

新しいサービスの作り方って、ふつうこうですよね(下図)。

新しいサービスを開発しリリースする場合の一般的なプロセス
新しいサービスを開発しリリースする場合の一般的なプロセス

企画をして、その企画がよくできていたら経営会議に持っていき、経営会議で吟味するかな。そこで「いいんじゃない、この企画」あるいは「全然ダメだよ、こんなの。うちの他のサービスと全く同じじゃん」といろんなことを議論するんです。そして、「これでいったいどれくらいの事業になるの?」「規模はどれくらいなの?」「だいたい誰がやるの?そんなリソースあるの?」「競合がやっているこういうサービスと一緒じゃん」とかですね、いろんなダメ出しを食らうわけですよ。

うちの経営会議、 結構きつい。もう締められるっていうの? ロジカルに。

でも、(このプロセスでは)何にも作れないやつが偉そうにする。これ、よくない感じですね。でも、そういう経営会議ってあるんだよ。

それで、経営会議が終わって「よしやろう」となったら開発が始まる。開発が始まって「ああよくできたね」となったら、もう1回経営会議に持ってって、みんなの2倍もある年齢の私とかから「んー、これちょっとわかりにくいよね」「字がちょっと小さすぎない?」みたいなことを言われる。「これでいいんじゃな〜い」となったらリリースする。これが今までの古ーいトラディショナルなフローだったんです。

これで大失敗を、私は何度もやらかしました。

わかりやすい例として……あるサービスの提案を若手のチームがしてきました。それを私が見てですね、「え?このサービスだったら、うちのモバオク[2]でいいじゃん。うちのモバオクのせり上げ方式じゃないやつ——定価で落札する「一発落札」っていう機能があるんですけど——それ使えばいいじゃない。モバオクの中でできることを、なぜ新規事業でやるの?」という話をして、それで却下してしまったんです。

[2]: DeNAのモバイル向けに最適化されたオークションサービス。

それから数ヶ月経ってから、別の会社が全く同じ概念のサービスを始めて、むちゃくちゃ伸び始めた。「あー、あのチームのあの若手のメンバーには、私が見えていないものが見えていたんだ」ということですね。50歳を過ぎた私がダメ出ししてて、こうなったんだ。会社の将来を1つ狭めてしまったな、という話ですね。

それで大胆に「やめよう、経営会議。やめる。勝手に作れ。考えながら作れ」とした。考えながら作って、考えながら出せ。アプリなんかそうだよね。App Storeに出してしまえ。ただし、弊社は上場企業ですから違法なことはできません——上場企業じゃなくてもできませんけど(笑)。それから、公序良俗に反すること。(これらについて)法務部による簡単なチェックが入ります。「これ、全然違法なものじゃないです。公序良俗に反するもんじゃありません」それだけです。法務部は、これ成功するとか失敗するとか、絶対言っちゃダメ。法律的に大丈夫かどうか、コンプライアンス的に大丈夫かどうか、それだけ。それでもう出してくれ、勝手に。

そうするとどうなるの、というと「出してきて(リリースして)から持ってきてよ、経営会議に」。で、何を持ってくるのって、「サービスは持ってこなくていいです、数字を持ってきて」。サービスを持ってきても、こんな私みたいにセンスのない人が、ものを作れない人がジャッジをする、これダメだよね。数字を持ってきてください。何を見るのか。リピート率。1回使った人が、どれくらい使い続けてくれているか。

会社のバックアップなしに勝手に始めたサービスで、どうやってユーザーを増やしていくかというと、みんな、友達とか家族とか会社の同僚とかに頼み込んで使ってもらう。いいサービスだったら、使い続けてくれんだよね。あと、友達紹介の機能があったら、その機能を使ってどれだけ新しい友達がきてくれるか。また、新しく来たユーザーがどれくらい定着するか。1回来たら何分使ってくれるか。そういう数字を見るの。

それで(数字が)よかったら、自動的にスケールしようよ。

スケールするって何なのか。10億円使って、全国でTVコマーシャルのキャンペーンやろうとか、あるいは我が社のサンフランシスコとかベトナムとか南米とかシンガポールとか、世界各地にある拠点を活用して全世界で一斉ロールアウトしようとか。これも10億円以上のコストがかかります。それをかけてですね、ロールアウトしよう。どんなに私が「これダメじゃない?」と思うサービスでも、「数字がよければそれ(スケールさせることを)決めようよ、自動的に」ということであります。

何なのかというと、「サービスが成功するかどうか、アクセルを踏むかどうかの審判を年寄りにやらせるな」ということです。アクセルを踏むかどうか。会社が本気になってバックアップするかどうか。この審判を経営会議がやるな。経営会議じゃなく、肩書きだけ偉い人ではなく、本当に偉い人——ユーザーですね。「ユーザーの審判を仰ごうじゃないか。それができる時代だよね」っていうことです。これを我々は——横文字で恐縮ですが「Permissionless」と呼んでます。自分で書けっていわれたら絶対スペルミスしそうですけど、Permissionlessと呼んでいます。Permissionというのは許可っていう意味ですから「許可なし」ですね。許可なしでやっちゃえと。やって、審判は経営会議でも社長でもなく、ユーザーに審判を仰ごうと。そういうやり方です。

ユーザーに審判を仰ぐという新しいやり方、増えてきていますね、私らの中で。でも、全部じゃない。大きい資本が最初から絡むもの、たとえば、遺伝子検査サービスはラボを作んないと検査もできませんが、ラボを作んのには何億円もかかりますんで。こういったサービスにはPermissionless型はそぐわないですが、アプリとかですね、多くのサービスにおいてこの方針(Permissionless)をとっています。

Permission型からPermissionless型へ
Permission型からPermissionless型へ

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著者プロフィール

  • 市古 明典(編集部)(イチゴ アキノリ)

    CodeZine編集部2年目の43歳。宝飾店の売り子、辞書専門編集プロダクションの編集者(兼MS Access担当)を経て、2000年に株式会社翔泳社に入社。月刊DBマガジン(休刊)、IT系技術書・資格学習書の編集を担当後、2014年4月より現職。9月から翌年2月まではNFL観戦のため、常時寝不足。

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