ノーベル文学賞の有力候補として注目される作家村上春樹さん(66)が、兵庫県立神戸高校(神戸市灘区)に在学中、フランスの作家ジョゼフ・ケッセル(1898~1979年)の著作に読みふけっていたことを示す、図書室の帯出者カード3枚が見つかった。同校で廃棄寸前になっていた蔵書を整理中に元教員が発見。世界的作家の早熟な読書体験の一端がうかがえる。(平松正子)
見つけたのは同校の校史編集に携わる元社会科教諭の永田實さん(69)。同校は昨年、1万冊を超す古い図書を県立図書館(明石市)に寄贈したが、今年に入って不要な数千冊が返却されていた。夏休み中の8月に永田さんらが整理していたところ、3冊の巻末から村上さんの名前が書かれたカードが出てきたという。
村上さんが借りたのはケッセル著、堀口大学訳「現代世界文学全集ケッセル『幸福の後に来るもの』」1、2巻(1955年、新潮社刊)。1巻を64年6月22~25日、2冊あった2巻のうち一方を同月25~26日、別の1冊を同月26~29日に借りていた。いずれも高校1年生の1学期だった。
「幸福の後に来るもの」はケッセルの代表作で、第1次大戦後のパリを舞台に青春期の男女を描いた大長編。ケッセル作品は、67年に「昼顔」がカトリーヌ・ドヌーブ主演で映画化されて日本でも有名になるが、村上さんはそれ以前に読んでいたことになる。
教育史にも詳しい永田さんは「なぜ2巻を2度借りたかは不明だが、高校1年でこんな大作を読んでいたのは確かだ。当時の高校生は読書好きだったが、このカードにある他の生徒は2、3年生が多く、村上さんはやはり格別だったようだ」と話している。