先ごろ、大阪を訪れたときのことだ。空港で入国審査を待つ列で韓国の若者2人が何やら話しながら、しきりに後ろを振り返った。やがて決まりが悪そうに「あのぅ、『卿』という字はどう書くんでしたっけ」と尋ねた。入国書類に自分の名前を漢字で書けなかったのだ。家族はかつて子どもが生まれ、どんな名前を付けようかとあれこれ悩んだはずだが、漢字離れがこれほど進んでいるとは知らなかった。
文章が上手だとして選ばれた大学生の作文に点数を付けたことがある。こういう文があった。「国軍の将兵がわれわれを『昼撤不夜』献身しているという事実…」「階層を『追越』した共同体意識」。正しくは「不撤昼夜(昼夜問わずの意)」「超越」で、漢字を正しく知っていれば、こんな間違いは犯さなかったはずだ。
そのさまを見て、最近インターネット上で流行している「綴り間違いネタ」シリーズを思い出した。例えば「日就月将(イルチュイウォルチャン=日々成長・発展する)」という単語をハングルで「イルチオルチャン」と表記するようなケースだ。エアコンの「室外機(シルウェギ)」を「シレギ」と表記した例もそうだ。元の漢字を知らないまま、聞こえるままにハングルで表記すれば、こうなってしまうのかもしれない。しかし、笑ってばかりもいられない。
学校から漢字教育が消え、漢字ができない人が増えたことで、韓国人の言語生活はますます貧困になっている。韓国語の語彙の70%を占める漢字語をまともに知らないために、語彙力、読解力が低下する。経済協力開発機構(OECD)加盟国を対象に文章理解力を測定した調査で、韓国は最下位だった。漢字を活用した造語力が低下し、英語の専門用語を翻訳できないケースが相次いだ。
見るに見かねた教育部(省に相当)は、2018年から初等学校(小学校)で漢字教育を復活させる計画を立て、このほど公聴会が開かれた。初等学校で漢字300-600字を覚えることを目標とし、教科書にハングルと漢字を併記する案が検討されている。しかし、漢字教育に反対する団体が公聴会の名称を問題視し、壇上を占拠したため、賛否両勢力の間で口論となり、小競り合いも起きたという。
漢字教育論者で経済学者だった故・林元沢(イム・ウォンテク)教授はこう話していた。「なぜ人々はハングルと漢字をコーヒーと紅茶のように二者択一しようとするのか。コーヒーと砂糖、紅茶と砂糖のような補完関係とは考えられないものか」。言語生活で漢字を敬遠したことで、ハングルが韓国語をうまく表現できない文字になってしまえば、ハングルの立派な価値がむしろ低下しかねない。今こそ論争から脱却すべきだ。漢字を教えることがハングルの力を育てる道だ、と考えを改めるべきだ。