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shi3zの長文日記 RSSフィード Twitter

2015-10-04

その男はなぜ、ヒトのように思考する機械―コンピュータ―を創りだしたのか 07:58


 いろいろ忙しくて中々見れなかった映画「イミテーションゲーム」を見た。

 今は少し前の映画もネットで配信されてるから便利だ。


 イミテーションゲームは、コンピュータの発明者、アラン・チューリングを主人公とした儚くも悲しい物語である。


 子供の頃は虐めにあい、大人になってからも周囲から煙たがられ、はみ出し者として生きるアラン。

 少年時代に出会った親友、クリストファーに恋をするが、感染症でクリストファーは死んでしまう。

 アランは「神はいない」と悟って、研究に没頭する。


 アラン・チューリングがコンピュータの基礎理論である「計算可能数、ならびにそのヒルベルトの決定問題への応用」を書いたのは23歳。


 アランはナチスのエニグマ暗号を解読するために設置された政府暗号学校で自動的に組み合わせを発見するための暗号解読器を開発する。


 まるで人のように考え、人のように動くそれを、アランは「クリストファー」と名付けた。


 美しい女性数学者ジョーン・クラークとの出会いも、アランを仕事に熱中させた。


 アラン・チューリングは同性愛者であるが、ジョーン・クラークはアランが死ぬまで傍で苦楽を分かちあった。クラーク自身は一度アランと婚約するが、アラン自身によって破棄されたため、彼女はアランの死の二年前に結婚している。


 アランはひたすら「人のように考える機械」の開発に没頭した。

 それは一度失ってしまった初恋の人、クリストファーを取り戻そうとする旅だった。

 

 人工知能の最初期の話題のひとつに「チューリングテスト」というのがある(本作ではイミテーションゲームと呼ばれている)。


 それは、3つの部屋を使う。一つ目の部屋には、人間が入る。もう一つの部屋にはコンピュータが入り、最後の一つの部屋には被験者が入る。


 被験者の部屋と人間の部屋とコンピュータの部屋はそれぞれキーボードで会話ができるように接続されており、被験者は人間かコンピュータ、両方と話をする。


 被験者には、どちらが人間でどちらがコンピュータかは知らされていない。

 もし被験者がどちらかをコンピュータであるか判別できないとしたら、そのコンピュータには知性があるはずだ、というのが「チューリングテスト」の大まかな内容である。


 実際にはこれは時代をさほどおかずに、「このテストではコンピュータに知性があるとは判別できない」ことがわかっている。人間はかなり単純なプログラムでも騙されてしまうからだ。


 この、チューリングテストをパスするような単純なプログラムを日本では人工無能と呼ぶ。知能がないからだ。


 これは現在はtwitterボットとして知られているものと原理的にはそう変わらない。Microsoftのりんなもその類だろう。



 チューリングがひたすらヒトのように思考する機械を求めた理由が、若くして失った恋人のクリストファーを取り戻すためだ、というのは極めてロマンチックなストーリーだ。


 これと同様の構図を持ったストーリーが、新世紀エヴァンゲリオンである。エヴァンゲリオンでは、特務機関NERVを設立し、人類補完計画を遂行する碇ゲンドウは、補完計画そのものを失った妻、碇ユイを取り戻すという目的にすり替えてしまう。


 チューリングがなぜチューリングテストを考えたのか。

 想像するしかないが、たとえそれがニセモノ(イミテーション)の魂であったとしても、自分の愛した人とまた語り合いたかったのだろう。


 コンピュータの進化の歴史と人工知能の研究の歴史がこれほど密接に結びついているのは、そういうわけなのだ。


 そしてたぶんコンピュータが人の興味を引く理由も、おそらくそういうわけなのだろう。


 コンピュータ誕生の秘密を知りたい人にお勧め。