TSUTAYA管理の海老名市立中央図書館を観察してきた
久しぶりにブログを更新する。
本日2015年10月3日、海老名市立中央図書館に行ってみた。佐賀県武雄市の図書館に続いて、レンタルチェーンのTSUTAYAが指定管理者となり管理を行う2つめの図書館で、この10/1にTSUTAYA管理下で稼働し始めた。
武雄市の図書館は不明瞭な選書や、貴重資料の破棄など色々な問題が噴出している。
私は仕事がら近隣の複数の図書館を頻繁に利用しているので、TSUTAYA問題は他人事ではない。図書館が図書館として機能しなくなったならば、私にとって死活問題である。このため指定管理者としてのTSUTAYAにはどの程度の能力があるのかには大変興味があり、2時間半ほど滞在して可能な限り観察してきた。
私の結論を先に書くと、海老名市立中央図書館で見たものは、図書館の形をした図書館ではないものであった。手塚治虫が「マグマ大使」で描いた“人間モドキ”が人間ではないように、そこにあるのは図書館ではない“図書館モドキ”である。
ひとつ、午後9時まで開館しているという美点があるが、それも図書館が図書館として機能していればこそ意味があることだ。
海老名市立図書館は4階建て。1階が“売り”であるスターバックスとTSUTAYA書店、地下階(おそらくはかつての閉架式書庫)が文芸、2階と3階がその他の書籍で、4階が児童書という構成になっている。玄関入ったところの一等地をTSUTAYAの商業スペースが占めており、本来もっとも入りやすい場所にあるべき児童書が4階というあたりに、TSUTAYAの図書館に対する姿勢がはっきりと出ているように思える。
また図書販売と図書館のスペースは床の色を変えるなどして画然と分けるべきが別れていない。4Fの児童書のところにも販売スペースがあり、ここも視覚的に販売と図書館が分離していない。子どもはかなり戸惑うだろう。
ただし、児童書コーナーは棚も机も低く、子どもに合わせてある。以前から建物の設計がそうなっていたのか、それともTSUTAYAが意図してそうしたのかは不明である。
この図書館最大の問題は、欲しい情報に行き着くのが通常の公立図書館と比べて難しいということだ。図書館本来の機能が損なわれているのである。
まず、本は通常の日本十進分類表(NDC)ではなく独自の分類で配列されている。これがかなりいい加減で、どの本がどこにあるか分かり難い。
NDCはなかなか良く出来た分類で、これに従っている限りどこの図書館にいってもどのあたりにどんな本があるか見当が付くものだが、海老名市立図書館では全く見当がつかない。分類は「旅行・暮らし・趣味」「料理」「建築」などのキーワードで行われているが、どうも分類は内容を見ずにタイトルで機械的に行っているらしく、本が変な棚に分類されているのを多々発見した。
こうなると、目的の本を探すには検索機を使うことになる。が、これがまた色々問題含み。
検索機は本棚に埋め込んだタッチパネル形式のもの。まず、トップメニューに、図書館蔵書と1階のTSUTAYA書店の在庫の検索が同じ大きさで表示されている(ここは“本屋も附属する図書館”であり“図書館の附属する本屋”ではないはずだが)。
そこで蔵書を検索すると、「どこにその本があるよ」というディスプレイ表示が出るが、この表示がわかりにくい。
検索機には印刷機能があるので、感熱紙のプリントアウトを出して、本を探すことになる。ところがこれもまた非常にわかりにくい。
左は、検索機のプリントアウト。例に取ったのは、拙著の「コダワリ人のおもちゃ箱」(エクスナレッジ刊)だ。まず、印刷された館内地図が分かり難い。NDC分類だと本の番号がわかればそれを頼りに書棚を探し、番号順にたどることで本を見付けられるが、独自分類を行っているので通常の手段が使えない。
プリントアウトには本棚の番号が記載されているので、これを頼りに場所を探すことになる。ところが、これで分かるのは棚の位置だけで、「棚の中のどの位置に本があるか」は片っ端から見ていかなければならない。
やっと探し当てた「コダワリ人のおもちゃ箱」は、パソコンの棚にあった。この本は趣味を追求して突き抜けてしまった人々を訪ね歩いたノンフィクションなのだが、なぜかパソコンの棚に入っていたわけである。
プリントアウトには拙著がNDC分類で504(技術・工学の論文集. 評論集. 講演集)に分類されていることがはっきり記してある。内部的にはNDC分類も記録してあるらしい。
どうも、本の整理方法はTSUTAYA書店のものをそのまま流用しているのではないかと思われる。おそらく最大限に本を売るために作り上げた書店用の整理手段を、そのまま機能が異なる図書館に適用してしまったのではなかろうか。
図書館は必要とする情報を、すぐに引き出せることが第一である。この機能を持っていない以上、TSUTAYAが管理する海老名市立図書館は、図書館ではない。“図書館モドキ”と形容する所以だ。
その他、すでに色々指摘されている選書を初めとして、問題は数多い。以下、図書館内の観察しつつ書いたメモを整理して掲載する。
- なぜか旅行ガイドブック類が多い。大量の「地球の歩き方」があったが、同じ地域が3冊も4冊もあり、しかも年次がばらばら。例えばアメリカ版では2011年版が入っていてた。以下、中国も2011年版、スイスは2009年版があった。一年違うと役に立たないものだし、資料的価値があるとしても、これは地方図書館が限られた書架スペースを使って収蔵すべきものではない。
- すでに指摘がある通り、IT・パソコンの棚は死屍累々。Windows98、Me、XPの解説書などが収蔵されている。以下確認できた限りで、Mac OS7.6やMacOSX 10.1、Word2000、Office2003、Photoshop5.0 /6.0の解説書など。一番古い本は、と思ってざっと見ていくと1997年のフリーウエア解説書や、よくわかるThe CARD for Windows95 などという本もあった。
これらは、TSUTAYAが管理者として入る以前からあったのかも知れないが、リニューアルで選書・破棄できたはず。以前からあったならTSUTAYAは管理者として適切な選書ができていないし、TSUTAYAが新規に海老名市に購入させたものならば、図書館にどのような本を収蔵すべきかのポリシーがまるでなっていないということになる。 - 資格試験類のHow Toものの棚に1994年及び1998年版「資格の取り方」があった。「資格試験ガイドブック2002年度版」も。イミダスはなぜか2007年度版のみがあった(現在イミダスは紙の出版を終了してネット上へと移行している)。
- 本の並び。なぜか殺人関連のノンフィクションと戦記ものが並びになっている。気象・地学と天文学の棚が全く別の場所にある。日本動物誌(日本に住む動物の一覧)と、アイザック・アシモフの選集とUFO関連図書が同じ「エコロジー」の棚に並んでいる。時計関連は技術ものもまとめてファッションの棚にある。
- 地下の文芸関連の書棚で、全集はほとんどが手の届かない高い棚に置かれている(以前は閉架にあったものか?)。下から見上げると一番上の棚は本の題名も読みにくい。開架になっている意味なし。
現在の公立図書館に様々な問題があることは知っているし、TSUTAYAがその問題に対する解決策としてこのような図書館運営を提案したことも理解できる。が、私が今日見たものは図書館のふりをした図書館ではないものだ。
一番恐ろしいのは、このような図書館モドキが普及し、人々が「これが図書館だ」と思い込んでしまい、本来の図書館を忘れてしまうことだ。その時、本来の図書館は「こんな辛気くさい場所は図書館ではない」と一般からの攻撃の対象になるだろう。
私は図書館には図書館の機能を求める。本が欲しければ本屋に行くし、コーヒーが飲みたければスターバックスに行く。本を買うため、コーヒーを飲むために図書館には行かない。
図書館は長い歴史の中で培われ、知の集積場所としての機能を洗練させてきた。TSUTAYAのこの事業の担当者はそのことを知らないのか、知ろうとしないのか、図書館ではないものを図書館でであるとして、図書館の運営に悩む地方自治体に売り込もうとしている。
かつて拙著「電子書籍についての15の考察~次世代にいかに情報を引き継ぐべきか」の中で、電子書籍時代に図書館はどうあるべきかという問題を論じた。まさか現実において「電子書籍とどう向き合うか」という問題以前のところで、「コーヒーショップとしての図書館モドキ」が出現するとは思ってもいなかった。
参考リンク
・海老名市立図書館に行ってみた
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