厚生労働省は9月上旬、「児童福祉司」の国家資格化など、児童虐待の対応強化策を盛り込んだ報告書を公表した。報道によると、厚労省はこれを受けて、来年の通常国会で児童福祉法の改正案を提出する方針だという。
児童福祉司は、虐待や家庭の不和、非行などに悩む親や子どもから相談を受け、問題解決をはかる児童相談所の職員だ。現在は、大学で心理学や社会学を専攻し、児童相談所で1年以上の実務経験を積むなどすれば資格を得られる。報告書は、児童福祉司の専門性を高め、児童虐待への対応を強化するために、国家資格化を検討すべきだと明記している。
このほか、報告書では、虐待の見落としや対応の遅れなどを防ぐために、関係機関同士の連携強化を提言。また、虐待を予防するためには、妊娠期からリスクに着目して支援につなげるべきだとして、望まない妊娠をした女性の情報を把握することや、妊娠期〜子育て期にわたる継続した支援の必要性などを挙げている。
今回、厚労省が出した報告書の内容は、児童虐待を防ぐ切り札になるのだろうか。児童虐待の問題に関わる榎本清弁護士に意見を聞いた。
●国家資格化のメリットとは?
「本報告書には、従来から論文や報告書で指摘されてきた問題点が網羅されています。具体的には、児童福祉司の人数不足、関係諸機関の連携の不十分さ等の現行の児童虐待防止の制度面・運用面の当面の問題点、改善点です。
さらに現場の声を踏まえて検討を深めたものとなっており、この報告書にある提言が実施できれば、その効果は十分期待できるものと思われます」
このように榎本弁護士は評価するが、問題点も指摘する。
「報告書の性質上やむを得ないことではありますが、抽象論にとどまっているものが多くなっています。実施するにあたっては、具体化が不可欠なので、さらなる議論の深化が期待されます。
児童福祉司の国家資格化については、児童福祉司の専門性を入口の時点で一定程度確保できるというメリットがあります。
しかし、国家資格化は、その制度設計や運用の仕方にもよりますが、間口を狭めることにもつながりかねません。児童福祉司に関するもう一つの課題である人数不足の解消という面では逆効果ではないかという指摘もあります」
榎本弁護士は、児童福祉司の国家資格化をどう評価するのだろうか。
「現在すでに存在する社会福祉士や精神保健福祉士という資格との関係を考えると、新たに同種の国家資格を創設するのは不経済ともいえます。むしろ既存のそれらの資格を有効活用するほうがより効率的に専門性を向上できるのではないか、という指摘もあります。
児童福祉司の専門性の向上のためには、国家資格化を検討する必要はあります。しかし同時に、児童福祉司の専門職採用や専門研修制度の拡充という点も考慮しつつ、検討する必要があります」
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