大雨:「ゴォー」うなり声の濁流 決壊・鬼怒川の堤防

毎日新聞 2015年09月10日 20時41分(最終更新 09月11日 01時50分)

塀の上で避難する男性=茨城県常総市若宮戸で2015年9月10日午前8時15分ごろ、庭木茂視撮影
塀の上で避難する男性=茨城県常総市若宮戸で2015年9月10日午前8時15分ごろ、庭木茂視撮影

 ゴォー、ゴオーと地の底から響くような低い「うなり声」に聞こえる濁流が渦巻きながら流れた。台風18号から変わった温帯低気圧と日本の東の海上を北上している台風17号の影響で、関東と東北地方南部は10日も大雨が続いた。茨城県常総市若宮戸の鬼怒川の堤防を越えた濁流のため、逃げ遅れ、ブロック塀の上で過ごして4時間がたった10日午前11時ごろからは、水かさが増え、勢いも増してきた。堅固と考えて逃げ場に選んだブロック塀が小刻みに揺れ始めた。

 この日の朝、茨城県筑西市で避難指示が出て、取材のため、同市川島へ向かった。しかし、常総市の鬼怒川堤防から水があふれ始め、進路を常総市若宮戸に変えた。堤防へ向かおうとしたところ、渋滞があり、前の車の運転手さんは「Uターンした方がいいよ」。消防ポンプ車の消防士から堤防への行き方を聞き、道を引き返す。

 堤防近くへ行くと、常総署のパトカーがいた。「写真を撮ったらすぐに逃げて」と警察官。他の報道陣とともに、川の水があふれた越水現場近くで、写真撮影を終えた。

 現場を離れようとしたら、民家の脇を歩く、高齢の腰の曲がった女性の姿が目に入った。「水が出て危ないですよ。避難しましょう」と声をかけた。女性は「本当か? 家の中に夫もいる」と答えた。通りの次の角から濁った水が出てきたのが見え、あせりを感じた。「逃げないと水に囲まれる」。常総署に電話を入れ、「高齢者2人が越水現場近くの民家にいます。救出をお願いします」と求めたが、同署は「もう現場に行かれません。民家の2階に避難するように声をかけてあげてください」。女性を家の中に入るように促し、家の中の男性に「2階に逃げてください」と声をかけた。そうこうするうちに、玄関に水が流れ込んできた。車の駐車場所まで行こうと女性宅の門を出た。

 ブロック塀が音を立てて崩れた。「怖い。ダメかな」と思い、必死に走った。水が道路にも増え出していた。車を急いで発進した。前を走る2人乗りの軽トラックの後ろについた。数メートル進むうちにドアの窓の高さまで濁った水が見えた。軽トラックが止まり、32歳と34歳の男性会社員が降りてきて、記者にも降りるように促した。1分前にはなかった濁流は一気に腰の高さとまでなった。目の前の学校給食用米飯製造所まで逃げられずに、高さ約1.8メートルのブロック塀を堅固と考え、3人でよじ登った。

 塀は幅20センチほど。揺れ出したころ、目を遠くにやると、民家の納屋の1階が水しぶきを上げながら濁流にのまれていった。ブロック塀のある民家の庭の植木が根こそぎ流された。少したつと、塀の横に建つ2階建て納屋のトタン製の壁がめくれ上がり、2階の床を濁流が流れ出始めた。濁流が塀の上に届きだしそうになってきた。

 塀が崩れるのも時間の問題と考え、2人と一緒に塀と納屋の間に立つ大きな木に登った。頭上を飛ぶヘリが増え、1機がはるか遠くで人を引き上げて救出するのも見えた。午前11時40分すぎ、県警機動隊のレスキュー隊のボートが3人を発見してくれた。

 男性会社員の2人には感謝している。「もう少しで(救助隊が)来るよ」「どのような形でも助かればうれしい」などと励まし合った。2人がいなければ、待ち続けることができなかったかもしれない。【つくば支局・庭木茂視】

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