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新日鉄住金が韓国の鉄鋼大手ポスコを相手取って損害賠償を求めていた「産業…
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新日鉄住金が韓国の鉄鋼大手ポスコを相手取って損害賠償を求めていた「産業スパイ事件」で、両者が和解した。ポスコは昨年の純利益の半分ほどに当たる300億円を新日鉄住金に支払う。さらに、公表されてはいないが、新日鉄側に対象技術のライセンス料を支払うことなどでも合意した模様だ。
海外企業への技術漏洩(ろうえい)が今回のように裁判で明らかにされるのは珍しい。犯罪の特定が難しく泣き寝入りする企業が少なくなかった。技術進歩が速い情報技術分野などでは、裁判に訴えてもコスト面で割に合わないとみなされてもきた。今回、新日鉄住金が訴訟に踏み切ったことで、重要な技術情報が産業スパイを通じてライバル企業に渡った不正行為の実態が明らかになった意味は大きい。漏洩への備えが甘かった多くの企業に有益な警鐘となったのではないか。
新日鉄住金から漏洩した技術は、電気を家庭に送るための変圧器の材料となる「方向性電磁鋼板」。電力が不足している新興国で需要が急増しており、世界でも数えるほどのメーカーしか作れない高度技術だ。
なかでも最高水準とされる新日鉄住金の技術は40年以上かけて開発され、製造設備には社員でもめったに近寄れないほど管理を徹底していた。
その門外不出の技術の漏洩は意外な形で発覚した。同じ技術をもつポスコの元技術者が中国の鉄鋼大手に技術を横流ししていた。韓国検察に捕まったその元技術者は裁判で「技術はもともと新日鉄のものだった」と暴露したのだ。
不心得者はどんな組織にもいる。そのなかで企業が機密情報をどう守るのかは重い課題だ。
この事件をきっかけに罰則強化が必要だという声が高まり、今年7月に産業スパイを防ぐための改正不正競争防止法が成立した。情報漏洩の罰金額の上限を個人3千万円、法人10億円と、従来の3倍ほどに引き上げ、機密情報を不正に取得して得た収益は没収できるようになる。法律で抑止効果を高める方向は評価できる。
それでも不正行為を完全に止めることは難しい。企業は重要情報を社外に簡単に持ち出せない管理システム、退職技術者との秘密保持契約といった対策をこれまで以上に強化する必要がある。締め付けだけではない。社員の発明や研究開発の成果に対し、報酬面でもきちんと報いることが求められるだろう。
情報を守るには大きなコストがかかる。今回の事件が企業に与えた教訓である。
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