日本に住むすべての人に12ケタの番号が割り当てられる「マイナンバー」制度が始まる。10月5日にマイナンバー法が施行され、中旬以降、全国約5400万世帯に一人ひとりの番号を知らせる通知が簡易書留で届く。来年1月からは希望者に番号カードが交付される。

 省庁や自治体ごとに管理していた個人情報を番号で結びつけ、社会保障給付も徴税も公平にするのが狙いだ。しかし、制度には国民の懸念も強い。重要な仕組みだと言うなら、まず、懸念を払拭(ふっしょく)して国民が納得できるように、国は努めるべきだ。

 巨額の債務を抱える日本の財政は深刻だ。少子高齢化が進むなか、個人や世帯ごとに社会保障給付の必要性と税の負担能力が分かるよう、所得を把握する仕組みは確かに必要だろう。

 今後は確定申告や配当金の支払いなどの手続きの際、個人番号の記載が必要になるから、例えば複数から収入を得ている人の合計所得は、今より把握しやすくなる。

 しかし、導入に向けた態勢が万全とは言い難い。

 まず、個人情報の取り扱いだ。内閣府が今夏に実施した調査では、不正利用や漏洩(ろうえい)を懸念する回答が7割以上だった。

 5月には日本年金機構で個人情報が流出、サイバー攻撃への備えの甘さが明らかになった。マイナンバーで個人情報が芋づる式に盗まれるのでは、と国民が懸念するのは当然である。

 マイナンバーでは、暗号化技術などを使って簡単には情報が抜かれない工夫はされている。

 しかし、ネット上の情報を完璧に守る技術はない。情報管理にたずさわる職員が末端に至るまで知識と責任感が行き渡っていなければ、年金機構のような事態はどこでも起こりうる。国の機関はもちろん、17年7月からネットワークへの接続が予定されている自治体レベルでの対策や訓練が不可欠だ。

 さらに、周知不足も懸念材料だ。内閣府調査では制度の内容を知らないと答える人が5割を超えている。

 身分証明に使ったり行政への手続きを簡単にできたりする正式の番号カードが欲しければ、送られてきた書類に写真を添えて申請する必要がある。総務省は問い合わせ用の電話サービスを設けているが、交付窓口となる自治体での混乱を心配する声は少なくない。

 これからの社会保障を支えるツールとなり得る制度である。国は国民の懸念を払拭し、納得できる仕組みになるよう最善を尽くしてほしい。