ロシアとの和解に動く米国
中ロの結束が崩れるのも時間の問題か
「制裁を解除することもあり得る」という言葉がケリーから出たことは、多くのロシア人を驚かせた。
両国は、まず「利害が一致する問題」から協力を開始する。それが、「イラン核問題」だった。米ロは協力して、長年の課題だった「イラン核問題」を解決した。
<〈イラン核交渉〉最終合意 ウラン濃縮制限、経済制裁を解除
【ウィーン和田浩明、田中龍士、坂口裕彦】イラン核問題の包括的解決を目指し、ウィーンで交渉を続けてきた6カ国(米英仏露中独)とイランは14日、「包括的共同行動計画」で最終合意した。
イランのウラン濃縮能力を大幅に制限し、厳しい監視下に置くことで核武装への道を閉ざす一方、対イラン制裁を解除する。>(毎日新聞 7月14日(火)22時1分配信)
次に米ロ共通の課題になったのが、「イスラム国」である。米国もロシアも、「イスラム国は大問題」であることで合意している。しかし、オバマは、シリアのアサド政権を支持できない。
なんといっても彼は13年8月、「化学兵器を使用したこと」を理由に、「シリア(アサド政権)を攻撃する」と宣言した過去がある(後に戦争をドタキャンして、世界を驚かせた)。
一方、プーチンは、「アサド政権を支援し強化することで、イスラム国と戦わせる」戦略をとる。プーチンは、「イスラム国と戦うために、シリア(アサド政権)、イランを含む『幅広い反テロ連合』をつくろう」と提案している。米国は反対しているが、プーチンは、たとえ単独でも「アサドを助けてイスラム国と戦う」決意を示した。
そして、ロシアは9月30日、シリア空爆を開始した。
彼の目的は、ウクライナの親ロシア・ヤヌコビッチ政権を守りたかったのと同じである。つまり、親ロシアのアサドを守りたいのだ。このまま放置しておけば、アサドは必ずイスラム国にやられてしまう。問題は欧米がどう出るかだ。筆者は、大きな反対は出ないと思う。
まず米国。米国には、3つの大きな敵がいる。中国、ロシア、イスラム国だ。「AIIB事件」後、米国にとって、中国が最大の敵になった。それでロシアと和解に動いているのだが、それでも「敵は敵」である。そして、イスラム国も敵だ。
米国の敵であるロシアとイスラム国が戦う。表向きはどうあれ、米国にとってこんなおいしい状況はない(しかし、表面的にはイザコザも予想される。米国は、ロシアが「『イスラム国』ではなく『反アサド派』を空爆している」と批判している。ロシアから見ると、「イスラム国」も「反アサド派」も、両方「反アサド」という意味で「同じ穴のムジナ」である。そして、米国が、支援している「反アサド派」への空爆でロシアを批判するのも、また当然だ)。
では、欧州はどうだろうか?欧州からも強い反対は出ないだろう。なぜなら、欧州は今、シリアからの大量難民問題で苦しんでいる。難民問題を根本的に解決するためには、イスラム国を退治し、シリアを安定化させるしかない。
しかし、それを自分でやると大金がかかる。プーチンは、「俺がやる」と手を挙げてくれた。だから、表向きは批判しても、「プーチンにやってもらおう」と思っていることだろう。
いずれにしても、世界は今、「米中対立」を軸に回りはじめている。米ロが和解に向かえば、中ロの結束も自然と崩れていくだろう。こういう構図は、「尖閣・沖縄」を「自国領」と主張する中国と対峙する日本にとっては、極めて都合がいい。