菅官房長官の「子ども産んで国家に貢献を」→日本で子ども産めば世界最悪の女性賃金差別=男性のわずか39%、OECD30カ国平均の半分

菅義偉官房長官の「子どもを産んで、国家に貢献して」という発言は、70年前の「産めよ増やせよ」という国家主義と同時に、現在の新自由主義政策として、女性の低賃金労働を「活用」するという側面も客観的事実としてあると思います。

下のグラフは、『OECDジェンダー白書――今こそ男女格差解消に向けた取り組みを!』を見ていて、私が最も衝撃を受けたデータをわかりやすく私がグラフにしたものです。

グラフを見てわかるように、子どもを持つ女性労働者の賃金差別が最も激しいのが日本です。16歳未満の子どもを持つ25歳から44歳の男女のフルタイム労働者の平均賃金で男性賃金を100とした場合の女性賃金で、日本はOECD30カ国中、最低の数字で男性賃金のわずか39%、OECDの平均78%の半分という異常な数字です。

OECDは『ジェンダー白書』の中で、男女賃金格差は、「賃金決定に関する政策と仕組み、制度的慣習、公的保育サービスと育児休暇政策などの家族政策の実施」が大きく影響を与えているとしながら、「男女賃金格差に関する説明できない要因の1つの側面として、差別が考えられる。」「賃金格差は若い女性の間では小さいが、子どもを持つ女性には賃金ペナルティ(wage penalty)が存在する。」と明言しています。そう、今の日本に世界で最も激しい差別が存在しているのです。日本は子どもを持つ女性に対する賃金差別が世界で最も激しい国であることがデータで裏付けられているのです。子どもを持つと世界で最も激しく賃金差別され、賃金ペナルティがある日本という国は、女性が子どもを産み育て働き続けることが最も困難な国なのです。

それから、この世界最悪の賃金差別によって生み出されている惨状をあらわすのが、上のグラフになります。上のグラフは、OECDのデータから私が作成したものですが、ひとり親が働いている世帯の貧困率を見たものです。OECD33カ国の中で、日本は50.9%とイギリス4.8%の10倍以上、33カ国平均20.9%の2.4倍という突出して異常に高い貧困率になっています。このひとり親世帯には15%を占める父子世帯が含まれたものですから、おそらく母子世帯のみを国際比較すればもっと酷い数字が出ることになるのではないでしょうか。

しかも日本は、ひとり親が働いていない世帯の貧困率は50.4%ですが、ひとり親が働いている世帯では50.9%となり、逆に貧困率が上昇しているのです。ひとり親が働いているのに貧困率が上がっている国は日本だけです。OECD33カ国平均の貧困率は、働いていない場合の58%に対し、働いている場合は20.9%と低くなっています。そして、日本の母子世帯の就労率は85.4%(2011年)です。他の先進主要国は、アメリカ73.8%、イギリス56.2%、フランス70.1%、イタリア78.0%、オランダ56.9%、ドイツ62.0%、OECD平均70.6%ですから、日本の母子世帯の就労率85.4%も異常に高いのです。

また、厚労省の「全国母子世帯等調査」(5年ごとの調査で直近は2011年の調査)によると、母子世帯は推計値で123.8万世帯(父子世帯は22.3万世帯)。そうすると、ひとり親世帯は、146.1万世帯でそのうちの84.7%が母子世帯、15.2%が父子世帯ということになります。

就業状況は、母子世帯80.6%(父子世帯91.3%)で、平均就労年収は母子世帯181万円(父子世帯360万円)です。驚くのは、父子世帯では正規労働(自営業含む)が82.8%(非正規労働は8.0%)ですが、母子世帯では正規労働が44.2%しかなく、非正規労働が52.1%と非正規率の方が高いことです。この調査をさかのぼって見てみると、1998年には母子世帯の正規労働も56.4%と半分以上が正規労働で、非正規労働は38.3%でした。ところが、この13年間で、正規労働は12.2ポイント減り、非正規労働は13.8ポイントも増え、正規と非正規の割合が逆転し、非正規労働の方が52.1%と半分以上になってしまっているのです。そうすると、母子世帯の所得状況はどうなっているかというと、下の表のように、母子世帯の所得は「全世帯」の46%と半分以下で、「児童のいる世帯」の36%しかないのです。その原因は「稼働所得」が少ないことで、母子世帯の稼働所得は「児童のいる世帯」の29%、――3分の1以下になっているのです。

加えて、日本の多くの労働者が低賃金で長時間労働を強いられていますが、シングルマザーはひとりで子育てしなければいけないのに、さらなる低賃金と長時間労働を強いられています。そのことを労働政策研究・研修機構(JILPT)も「シングルマザーの就業と経済的自立」という報告書の中で次のように指摘しています。

日本のシングルマザーは、子育てをしながらも仕事に大きな比重を置いてきた。8割以上の就業率、フルタイム就業に近い平均就業時間数は、その証拠となる。仕事と育児をひとり親でこなさなければならないため、自分の余暇や睡眠時間を削る母親も少なくない。JILPT「就業・社会参加調査 2006」によると、シングルマザーの1日あたり平均睡眠時間はわずか5.8時間で、有配偶者女性より0.64時間短い。つまり、シングルマザーは経済的にだけではなく、時間的にも貧困状況に陥っている可能性が高い。さらに心配なことは、時間的貧困が子育てに及ぼす影響である。同JILPT調査によると有業シングルマザーが1日の育児に当てた平均時間は0.58時間に過ぎず、同専業主婦の母の半分未満(1.31時間)である。育児時間の定義について回答者の間に受け止め方の違いはあるものの、シングルマザーの育児時間が専業主婦に比べ、著しく少ないことはこのデータから読み取れる。

出典:労働政策研究・研修機構(JILPT)「シングルマザーの就業と経済的自立」

以上、見て来たように、日本のシングルマザーには、世界でも異常な経済的な貧困と時間的な貧困がダブルで襲っています。そうした中で、子どもの貧困が深刻化しているわけです。シングルマザーが働いても働いても貧困状態に置かれるのは、日本政府の雇用労働政策に一番の問題があります。安倍政権は女性が輝く社会をつくるとか女性が活躍できる社会をつくると言うのなら、真っ先に、このシングルマザーの貧困状態を改善するために、普通に働けば貧困状態に陥らないような最低賃金の大幅賃上げや、ヨーロッパ諸国では当たり前の非正規労働者の均等待遇などをいますぐ行うべきです。そして、そうしたことにまったく逆行して現在よりさらに低賃金・長時間労働を強制し、多くの労働者の貧困化を加速することになる「生涯派遣・正社員ゼロ」の労働者派遣法案改悪を安倍政権は強行しました。安倍首相による「女性が輝く社会」とか「女性活躍社会」、そして、今回の「1億総活躍社会」をめざすというのは、じつは「女性貧困化社会」「1億総貧困化社会(1%の富裕層のみ豊かな社会)をめざすという意味にすぎないことになります。

上のグラフは、内閣府「男女共同参画白書」2015年版からです。グラフにあるように、安倍政権になって、男女においても年齢階層別においても、あらゆる角度から見て、非正規雇用率が史上最大になってるわけです。これが何をもたらすかというと、厚生労働省みずからも「非正規雇用には、雇用が不安定、賃金が低い、能力開発機会が乏しい、セーフティネットが不十分等の課題があります」と指摘して以下のグラフをあげています。

そして、日本は2000年代半ばの国際比較でも下のグラフにあるように、ひとり親世帯の貧困率はOECD30カ国の中で突出して一番高いのです。2000年代半ば以降も低賃金で雇用が不安定な非正規雇用が激増しているのですから現在は一層深刻な事態になっていることは明らかでしょう。

そして、下のグラフ(内閣府「少子化社会対策白書」2015年版)にあるように、「理想の子供数を持たない理由」で一番多いのは「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」ですから、菅義偉官房長官が「子ども産んで、国家に貢献して」などといくら叫ぼうが「少子化」は深刻化する一方だと思います。

▼関連
日本のひとり親世帯の貧困は世界最悪、生活保護受給は世界最小、子どもの貧困を生み出す日本政府

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井上 伸月刊誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)本部書記、国家公務員一般労働組合(国公一般)執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、月刊誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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コメント

    • 安木 麻貴
    • 2015年 10月 02日

    とてもわかりやすい記事でした。
    NPOしんぐるまざあず・ふぉーらむ・関西のフェイスブックにシェアさせていただきました。

    • 安木さん、フェイスブックシェア、どうもありがとうございます。m(__)m

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