国民一人一人に番号を割り当てるマイナンバー制度は、十月から個人番号の通知が始まる。仕組み自体に危うさはないのか、あらためて問い直したい。
十二桁の数字が並んだ個人番号の「通知カード」が十月以降、各家庭に簡易書留で届くだろう。税と社会保障、災害対策関連の個人情報をこの番号で結びつけるのが、マイナンバー制度だ。法人にも番号が付けられる。実際の制度運用は来年一月以降だ。
行政事務の効率化が、この制度の最大の目的だが、国民にとっても社会保障給付の申請手続きで各種の証明書が不要になるなどのメリットが語られる。
◆通知で混乱の予想も
IC(集積回路)チップ付きの「マイナンバーカード」も希望すれば、来年から自治体窓口で発行される。名前と住所、生年月日、性別、顔写真が載るので、本人確認のための身分証明に使える。
いずれ「マイポータル」といって、インターネットを使い、自宅にいながら、さまざまな手続きができるともいわれている。行政側から各種案内や通知文書がマイポータルを活用して届くようになることなども計画されている。
利点として、政府は所得情報をより的確に把握できるとも説明する。過少申告や扶養控除のチェックが効率化し、社会保障の不正受給や不正還付などを防止することができるともいう。
だが、この制度はバラ色の世界を創り出すものだろうか。問題点は通知の段階から起きる。住民票のある住所に郵送されるので、通知カードを受け取れない人も数多く生まれるはずなのだ。
児童手当などの給付申請に個人番号は必要になるし、勤務先にも伝えなければならない番号だ。さまざまな事情でやむなく住民票の住所に居られない人たちに対して、どのような対応をとるのだろうか。混乱も予想される。
◆国民管理の道具になる
今回の国会で成立した改正法では、任意ではあるが、預金口座にも個人番号が付けられることになった。将来は義務化も検討していると聞く。個人の預金をチェックする狙いがあるのだろう。だが、日本には人口の十倍もの預金口座が存在するといわれる。そのすべてに真正な個人番号を付けることは可能なのだろうか。
仮に税務当局が一つ一つの入金・送金記録を確認したとしても、その性質が必要経費なのか、個人消費なのか、貸し付けなのか、判断できはしない。一件一件、聞き取り調査が必要になる。この作業を公平・平等に行うことは至難の業に近かろう。
もちろん海外の銀行には、この制度は及ばないので、海外で資産運用する富裕層には無関係である。むしろ、資産の海外逃避が加速するかもしれない。この制度によって、税の不公平がなくなると考えるのは早計である。
そもそも預金口座は国民にとって、お金の“日記帳”のようなものだ。脱税をしていない一般国民の通帳を国家が自由に閲覧することは、不当な行為なのではないかという疑いもある。もっと議論が尽くされていい論点だ。
元をたどれば一九六〇年代から検討された「国民総背番号制」だ。国民のためというより、国家が国民監視を強める作用の方が大きい仕組みといえる。国民管理の道具であることは間違いない。
「マイポータルによって、行政側から国民に通知するプッシュ型サービスが提供できる」とも宣伝される。だが、生活保護の受給ハードルが高い中で、「生活保護が受けられますよ」と役所がわざわざ知らせてくれるのだろうか。
企業側も従業員や扶養家族の個人番号を集め、適切に管理しなければならない。契約社員やアルバイトへの支払いにも番号は必要だ。システム構築に費用も手間もかかる。その対応が十分とはとてもいえまい。
証券口座はむろん、将来は健康保険証やパスポート、戸籍、クレジットカード機能を持たせることも想定している。
しかし、さまざまな個人情報を集積させることは、情報流出のリスクと背中合わせだ。日本年金機構から大量の個人情報が流出したように、情報管理が完璧でない限り、事故はいつでも起こりうる。
◆システムは破られる
むしろ破られないシステムなどありえないと考えるべきだ。それだけプライバシー侵害の恐れをはらむ。仮にある特定のデータマッチングが行われれば、個人は“丸裸”同然になってしまう。
初期投資だけで約三千億円も投じた国家プロジェクトである。ランニングコストは20%というから、数百億円も毎年かかる。それだけの費用対効果は見込まれるのか。見切り発車は危険だ。
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