子どもの心は思ってるより綺麗でない。
純粋な残酷さを生々しく表現。
あらすじ(Amazonより引用)
海辺の町、小学生の慎一と春也はヤドカリを神様に見立てた願い事遊びを考え出す。無邪気な儀式ごっこはいつしか切実な祈りに変わり、母のない少女・鳴海を加えた三人の関係も揺らいでゆく。「大人になるのって、ほんと難しいよね」―誰もが通る“子供時代の終わり”が鮮やかに胸に蘇る長篇。直木賞受賞作。
感想
幼い日の様々な感情。
仲間はずれ、嫉妬、自意識過剰など、負の感情が生々しく描かれている。
周りに取り残されている自分を、恥ずかしく、そして禍々しいほどの嫉妬の感情を覚えたことを思い出した。
変な焦燥感、切迫感の表現が心に突き刺さる。
どうにもならない現実。
今では、受け流すことができるようになった。
しかし、幼い日々の自分は、真っすぐに受けとめ、感情を屈折させることでなんとか耐えてきたのかもしれない。
狭い世界で、閉塞感を感じながら、狭い価値観を屈折させながら、大人になっていく。
その心の葛藤の表現が繊細で丁寧で、見事としか言えない。
子どもの純粋な残酷さにも焦点が当てられている。
ヤドカリを炙るシーンがあるのだが、子どもたちにとってその行為は、願いを叶えるための遊びだ。
大人の事情から逃れたい一心で、こんな残酷なことを遊び感覚でやってしまう。
「子ども」というものは残酷なまでに純粋で、純粋に残酷だ。
ヤドカリを炙る表現と相まって、不気味な雰囲気で気持ち悪い。
どうにもならない現状に対する子どもの黒い感情。
そして現実に決着をつけようともがいていく。
その中で激しく揺れる感情が非常に丁寧に描かれている「月と蟹」。
欝々とした世界が単調に丁寧に描かれている。
ラストは幸せでも不幸でもない。
ただ彼らの踏み出す一歩は大人への階段なのかもしれない。
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