士(サムライ)の思想―日本型組織と個人の自立 (同時代ライブラリー (309))
世界に類をみない日本の役所や企業の慣習に、稟議がある。たとえば役所の法案は課長補佐が起案し、課長が関係各課と調整して稟議書を回し、局長が政治家に持って行く。公式の職階では最下層の官僚からボトムアップで意思決定が行なわれ、事務次官まで上がったときは拒否できない。

これは江戸時代にできた制度だが、なぜこういう奇妙な意思決定が行なわれるのかを、著者は『主君「押込」の構造』で説明する。主君押込とは暴君を家臣が座敷牢などに幽閉する(あるいは逆に改革派の大名を守旧派の家臣が幽閉する)慣習で、著者が発見したものだが、その後の研究で意外に多いことがわかってきた。

しかしこういう「事件」になることはリスクが大きいので、あらかじめ合意形成するため、たとえば裁判に関する制度は町奉行が起案し、多くの関係者が稟議書に署名捺印して、大名が最終的に決定した。これはきわめて民主的で紛争は少ないが、意思決定が行政の中で完結する行政一元構造で、部分最適になりやすい。今でも法案は閣議決定されたら終わりで、国会は文句をつけるだけだ。

このシステムができた原因は、ほぼ同時期のヨーロッパには国王と封建領主の対立があり、領主が国王を法的に拘束する立法機関としての議会ができたのに対して、日本にはそういう対立がなかったので、行政の内部で処理する稟議になったのだという。

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