これは「獺祭ショック」である――テクノロジーで作った酒は酒じゃない!?

By : 藤沢 文太 , Oct 01, 2015 05:20 PM JST

関連タグ | 酒造, 獺祭, 杜氏
  • print

最近、こんな言葉を目にする機会があった。「テクノロジーで作られた高級酒は食文化のポリシーに反する為、当店では取り扱いません」。

誰が最初に言いだしたのかは分からない。調べてみると既に色んなところで同じようなことが言われており、特定の誰かだけがそう主張しているわけではなさそうだ。ただ、これが何を指しているか、は分かる。間違いなく、日本酒「獺祭(だっさい)」のことである。

Like Us on Facebook


獺祭は、山口県岩国市の地酒だ。旭酒造株式会社という蔵元が作っている。その獺祭の何がテクノロジーで作られた酒なのか。旭酒造は、かつて深刻な経営危機に見舞われ、1999年、杜氏(とうじ)に逃げられた。杜氏とは日本酒作りを専門とする職人である。杜氏がいないと日本酒は作れない。それまでは、それが常識であった。だが旭酒造は、思い切った改革に踏み切った。それまでは杜氏の職人芸として秘伝であった酒造の技術をコンピュータで分析し、全工程をIT化したのである。

酒造りの秘伝の中でも重要なのは、温度管理の技術だ。江戸時代、酒蔵に入って酒の温度を調べた者(現代で言うところの産業スパイ)は、その手を切り落とされたと言われる。だが、旭酒造はそれも調べ上げ、コンピュータ管理にしてしまった。

結果としては、大成功であった。獺祭は日本国内だけではなく、海外のレストランなどからも注文があり、高い評価を受けているという。また、日本酒には「同じ蔵の同じ銘柄でも年によって出来不出来に違いがある」という厄介な問題があるのだが、獺祭はIT化によってそれも克服してしまい、毎年同じ品質の酒を作れるようになった。旭酒造に注目しているのは顧客だけではない。他の酒造元からの視察なども引きを切らない。

さて。以上が「テクノロジーで作られた高級酒」のなんたるかである。このムーブメントが広まれば、日本中でコンピュータが酒を作るようになって、杜氏というものは絶滅するかもいれない。食文化のポリシー云々、と言っている人々の危機意識もそこにあるようである。「杜氏の育成を応援します」などと添え書きしているところもある。

昔話をしよう。ご存知であろうが、昔、産業革命というものがあった。何の産業が革命を起こしたかというと、綿工業、である。産業革命より昔、人々は家内制手工業で糸や布を作っていた。その一大生産国だったのはインドである。

産業革命はインドの織布職人たちを地獄に叩き込んだ。比喩ではない。文字通り、地獄に叩き込んだ。当時インドを治めていた英国人の総督はこう書いたそうだ。「木綿織布工たちの骨が、インドの平原を白くしている」。

もちろん、木綿織布工が殲滅されるまでには各地で抵抗があった。紡績工場に対してテロ活動が行われたこともあった。しかし、その戦いの結果がどうなったかは、書くまでもないことである。

もう一つ、昔話をしよう。昔、御木本幸吉という日本人が、真珠の養殖技術を確立した。これは宝飾史における革命であったと言っていい。無論、真珠が養殖されれば、それによって割を食う人間も出る。「ミキモトの真珠は偽物だ」と触れ回る者たちが現れた。最終的に、裁判になった。世に言う「パリ真珠裁判」である。結局、ミキモトが勝ち、「養殖の真珠は本物の真珠である」と、世界が認めるところとなった。

技術の進歩には、犠牲が付き物である。酒造技術の進歩も、犠牲を産むかもしれない。しかし、あえて言い切ろう。「人間が作ろうとコンピュータが作ろうと、酒は酒である」。

  • print
関連タグ | 酒造, 獺祭, 杜氏

Copyright ⓒ 2015 Tech Times All rights reserved.

最新ニュース

もっと見る

Tech Timesをフォローする


  • Facebook

  • Tweet

  • Google+

  • RSS

人気記事

ピックアップ

注目アプリ

Real Time Analytics