MOCVD法とサファイア基板という2つの決定
MIS型で暗く電圧が高いものの、一応は青色LEDまで実現したGaNだが、その後も世界的に研究が活気を帯びたとは言い難い。「良質なGaN単結晶を作ることが難しく、p型化(p型伝導)が困難だったため」(天野氏)だ。
GaN単結晶を作ることが難しい理由について、赤崎氏はこう語る。
「GaNは、窒素の蒸気圧が極めて高く、また融点も高く、バルク単結晶を作るのは極めて難しい。基板結晶がないので、(異種基板上への)ヘテロエピタキシャル成長によらざるを得ない。しかも、サファイア基板とのミスマッチはGaAs基板上にZnSeを成長させる場合よりはるかに大きい」(「知的創造社会へのメッセージ」、『発明』、2000年6月号)。
そのため、当時のGaN単結晶は表面の凹凸が激しく、多数のクラック(ひび割れ)やピット(微小なくぼみ)を含んでいて結晶性が悪かった。おまけに、p型化の方法も見つからないことから、世界のほとんどの研究者がGaNから撤退したり、中止したり、材料をZnSeに替えたりしたのだ。
だが、GaN系青色発光デバイスの研究をライフワークとした赤崎氏は、決してGaNを見放すことはしなかった。同研究を開始した翌年の1974年、赤崎氏のグループはMBE(分子線エピタキシャル成長)法により、不均一ながらGaN単結晶を作製する。このときのMBE装置は古い真空蒸着装置を改造したものだったという。
その後、同氏が当時の通商産業省に提案した研究プロジェクトが審査を通り、1975年から3年間の研究プロジェクト「青色発光素子に関する応用研究」に対して補助金を得て、新規のMBE装置を購入して実験を続けたが、GaN単結晶の品質は向上しなかった。その上、MBE法は結晶の成長速度も遅いという弱点もあって、赤崎氏のグループはRCA研究所のMuruska氏やPankove氏らが採用したHVPE法をMBE法と併用することにした。その結果、1978年に赤崎氏のグループは外部量子効率が0.12%と、Pankove氏らが作製したものよりも明るいMIS型青色LEDの実現にこぎ着けた。これは1981年に松下技研で約1万個が作製され、サンプル出荷までされたが、歩留まりが低くて商品化はされなかったという。
こうして、GaN単結晶の作製にHVPE法を採用した赤崎氏だが、1979年にさらに新たな結晶成長法の導入を決定する。現在主流のMOCVD(有機金属化学気相成長)法だ。この決定について同氏は先の「夢の青色発光デバイスの実現を語る」の中でこう記述する。
「GaNは窒素蒸気圧が極めて高いので、超高真空中で行うMBE法は(急しゅんな界面作製など優れた点は多いが)GaNに関する限り、最適とはいえない。HVPE法は成長速度が速すぎ、また一部可逆反応を伴うので、高品質化には不向きと考えた。一方、OMVPE(注:MOCVDと同じ意味)法は、当時GaNにはほとんど用いられていなかったが、単一温度領域での不可逆反応を用いる方法で、成長速度も前二者(注:MBE法とHVPE法のこと)の中間であり、GaN成長には最適と考え、1979年以降、この方法を中心に成長を行うことにした」。
NEXT ≫ サファイア基板の使用を決定
【技術者塾】アナログ回路に必須、オペアンプを完全理解
(2015年10月23日(金))
アナログ回路に必須ともいえるオペアンプについて、十分に理解していますか? オペアンプを基礎から十分に理解できていなければ、アナログ回路を設計したり応用したりすることはできません。本講座では、オペアンプの回路の詳細設計から性能評価までを丁寧に解説します。 詳細は、こちら。
日時:2015年10月23日(金)10:00~17:00
会場:エッサム神田ホール 5階(東京・神田)
主催:日経エレクトロニクス