お年寄りの人生の「聞き書き」が介護現場を変えた!

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   ◆介護民俗学へようこそ!―「すまいるほーむ」の物語―(六車由実著、新潮社)

   「介護民俗学」とは著者の造語。著者の定義によれば「民俗学で培われてきたものの見方や聞き書きによって、介護現場のお年寄りたちの歩んできた人生に真摯に向き合うことで、人が生きることの意味や人間の営みの豊かさについて考えていくための方法」だという。

   著者は、前著「驚きの介護民俗学」で、大規模な高齢者施設において「聞き書き」を実践した経験を通じて、介護民俗学の可能性を提起。その後、理解ある介護事業所の経営者(村松誠氏)の誘いを受け、静岡県沼津市にある小規模デイサービス「すまいるほーむ」の管理者に転身。そこのスタッフとともに、利用者一人ひとりに寄り添うことができる小規模施設の良さを生かして、「聞き書き」を大きく発展させた。

   本書では、「すまいるほーむ」利用者への聞き書きを通じて、「思い出の味」を再現したり、「人生すごろく」を作り、皆で楽しむといった、介護民俗学の新たな実践を紹介している。こうしたアプローチによって、閉鎖的になりがちな介護現場の在り様が柔軟で開かれたものへと変わっていく様子が具体的なエピソードをもって綴られている。

  • 介護民俗学へようこそ!―「すまいるほーむ」の物語―
    介護民俗学へようこそ!―「すまいるほーむ」の物語―

人生すごろく―みんなでお年寄りの人生を追体験し、感動を共有する―

   この春、評者は、ジャーナリスト、障害福祉事業所の友人たちと「すまいるほーむ」を訪問した。民家を改造した小さな事業所(定員10名)だったが、小規模であるだけに、利用者もスタッフもみな気心が知れている感じで、とても居心地がよい。午前中は、一人の利用者の「思い出の味」の握りずしと茶碗蒸しを全員で作り、午後からは本書にも出てくる「靖子さん」の「人生すごろく」を楽しませていただいた。

   とりわけ、「人生すごろく」は面白かった。詳しくは本書をお読みいただきたいが、ほーむの利用者である靖子さんの人生を聞き書きし、エポックとなる出来事などをすごろくのマスに書き込んだものだ。例えば、こんな感じ。

「小学校6年生の時、蚕の品評会で(杉本家が)沼津で1位となる。『おめでとう!』と3回言いましょう」

   誰かがサイコロを振って、このマスに停まると、全員で靖子さんに向かって「おめでとう」を3回大きな声で叫ぶのだ。

   靖子さんの父親の勘太郎さんが俵担ぎ競走の沼津代表となったマスでは、「杉本家バンザイ!」を3回、夫が亡くなってから自宅近くの畑を借りてサツマイモや野菜を育て始めたというマスでは、「靖子さんのサツマイモは最高!」を3回、叫ぶことになる。

   そのたびに認知症状のある靖子さんは、手を合わせて深々と何度もお辞儀をする。とてもうれしそうだ。そんな様子を見て、参加者はますます盛り上がり、叫び声のトーンが上がる。

   靖子さんの人生をその場にいるみんなで追体験し、肯定し、受け入れていく様子は、実に感動的だった。

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