アリさんマークで知られる「引越社」のグループ会社「引越社関東」で、営業職として働いていた男性社員(34)が、労働組合に加入したことをきっかけに、「追い出し部屋」への異動を命じられたとして、命令の無効などを求めて同社を提訴した。第1回口頭弁論が9月30日、東京地裁で開かれ、男性本人が意見陳述をおこなった。
●解雇理由を「罪状」と書いた紙を貼り出された
意見陳述などによると、男性は2011年1月、「引越社」のグループ会社である「引越社関東」に入社。セールスドライバーなどを経て営業職になったが、長時間労働だったにもかかわらず、残業代は支払われなかったという。男性が今年1月に営業車を運転中に車両事故を起こすと、会社から48万円の弁償金を求められ、毎月1万円を給与から天引きされるようになった。
男性は今年3月、個人加盟の労働組合「プレカリアートユニオン」に加入。その後、未払い賃金や弁償金の返還などを求めて団体交渉を申し入れると、5月に本社の「アポイント部」に配置転換になった。さらに6月には、「遅刻した」という理由で、一日中立ちっぱなしの「シュレッダー係」への異動を命じられた。
男性は7月下旬、命令を無効とする地位確認訴訟を起こした。すると、8月中旬に、「会社の名誉を害して、信用を傷付け、莫大な損害を与えた」として、一方的に懲戒解雇された。その際、80人くらいの従業員がいる前で、懲戒解雇の通知書を読み上げられたという。
また、男性の氏名と顔写真入りで、解雇理由を「罪状」と題した紙を、「引越社」グループ全店に貼りだされ、社内報にも掲載された。しかし、男性側が仮処分の申立てや未払い賃金の請求訴訟を次々と起こすと、会社側は9月下旬に懲戒解雇を撤回して復職が決まった。
●原告「長時間労働に追いやられる『アリ地獄』」
男性はこの日の口頭弁論で、「本来、会社が負うべき経営上のリスクである、仕事中の荷物破損や車両事故の弁償を従業員の給与から天引きしたり、高額の借金として負わせるというシステムが横行している」「長時間労働のせいで、注意力が落ち、事故を起こしてしまうと、弁償金により給与が減り、長時間労働に追いやられる悪循環に陥っている。これを従業員たちは『アリ地獄』と呼んでいる」と過酷な実態も訴えた。
口頭弁論後、男性は東京・霞が関の厚生労働省で記者会見を開き、「ほかの従業員に対する見せしめのようにした会社の態度に怒りを感じている」「会社には、もっと従業員がしっかり働ける環境をつくってもらいたい。決して私一人だけの問題ではない」と述べた。
男性の代理人をつとめる佐々木亮弁護士によると、男性の復職日は10月1日。だが、復職する業務は「シュレッダー係」のままだという。男性は「復職するが、会社からは謝罪もなく、私の心はまったく癒やされていない。早く営業職に戻りたい」と話していた。
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