ビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ、ベルギー)は今月16日、同業2位の英SABミラーに買収を提案すると発表した。実現すれば同社の世界シェアは30%に達する。
ABインベブは、1989年の時点では「ブラーマ」というブラジルの小さな会社だった。だが、投資銀行出身の3人が経営権を握って以降、全く違う会社に変わった。ライバル社との合併により成長し、10年余りで世界市場5位に浮上、2004年には当時3位だったベルギーのインターブリューと合併した。最初はインターブリューがこの会社(当時の社名はアンベブ)を買収したのだと思っていたが、数年後には大株主も経営陣もブラジル人ばかりになっていた。世界的な金融危機に見舞われた08年、当時世界1位だった米アンハイザー・ブッシュまでも買収し、競争にピリオドを打ったかに思われたが、その後も立ち止まることなく走り続けた。そしてついに、SABミラーに買収を打診するに至ったのだ。
世界経営に味を占めた3人の大株主は、金融危機のあおりで安く売りに出された米企業を買収するため、米国投資専門の投資ファンドをつくり、ハインツ、バーガーキング、クラフト・フーズなど伝統ある米国の食品メーカーやハンバーガーチェーンを掌握した。もちろん、不透明な支配構造、買収・合併後の過酷なリストラ、一部で指摘される品質低下など、批判の声も多い。だが金融危機という環境をチャンスとして活用した勝者には違いない。
08年の旧盆連休中、米投資銀行大手リーマン・ブラザーズが倒産したと聞いたときは、韓国企業こそがこうしたストーリーの主人公になるものと考えていた。韓国は当時、アジア通貨危機を受けた10年間の厳しいリストラを経たばかりだった。長きにわたる好況の中で放漫な経営をしてきたグローバル企業が破綻するなら、その穴を韓国企業が埋められるものと期待したのだ。企業は内部に積み上げた現金で新たな成長エンジンとなる海外企業・技術を手に入れ、「失われた10年」を取り戻すものと思っていた。