竹中平蔵氏:金融政策の出番、もう1回ある-補正に続き追加緩和を
2015/09/30 06:00 JST
(ブルームバーグ):産業競争力会議の民間議員を務める竹中平蔵慶応大学教授(元経済財政担当相)は、2%の物価安定目標達成に向け、日本銀行は補正予算の編成など政府の対応を見極めながら、追加緩和の時期を探るべきだとの考えを明らかにした。
竹中氏は29日のブルームバーグのインタビューで、デフレ脱却という目標を達成するため、「金融政策の出番はもう1回はある」と発言。最大限効果を発揮させるため、「補正を秋にして、様子を見て追加緩和をすればいい」と提言した。日銀が動くべき具体的な時期については明言しなかった。
補正予算の規模は国内総生産(GDP)の1%にあたる5兆円程度の規模が望ましいとし、環太平洋連携協定(TPP)交渉が合意した場合の構造改革や、外国人観光客受け入れのためのインフラ整備に充てるべきだとの認識を示した。
原油価格の下落により、日本銀行が15、16年度の生鮮食品を除くコア消費者物価(CPI)の見通しの下方修正を検討していることがブルームバーグの関係者への取材で分かっている。2%達成時期を後ずれさせる可能性も高まっているという。日銀は10月30日に経済・物価情勢の展望(展望リポート)を発表する。
竹中氏は「金融政策だけで動くことを日銀は避けたい。やれる余地がだんだん少なくなってくるから、やる限りは有効にやりたいから、そこはやはり財政政策とセットになってやりたいわけだ」とも指摘した。
さらに、米連邦準備制度理事会(FRB)が年内に利上げを行う可能性は「当然ある」と発言。長年のデフレを克服するために金融緩和に踏み切った日本と異なり、米国はリーマン・ショックでパニック状態に陥った経済に対応するために金融緩和を行ったと説明し、米経済が改善した現在、「金融を正常化するというのは、世界のためにもやったほうがいい」と述べた。
ドル・円相場はインタビューを実施した29日午前、1ドル=119円台で推移。竹中氏はこの水準は「カンファタブル(心地良い)」と評価し、「続くことを期待している」と話した。「110円台後半から120円くらいはレンジとしては悪くない線」とも述べた。
新3本の矢安倍晋三首相は24日の会見で、「1億総活躍社会」を目指し、希望を生み出す強い経済、夢をつむぐ子育て支援、安心につながる社会保障をアベノミクスの「新3本の矢」と位置付けて政権運営する方針を表明。国内総生産(GDP)600兆円の達成などを目指す方針も示した。これまでの3本の矢は、金融政策、財政政策、成長戦略だった。
竹中氏は、新3本の矢は今までの3本の矢の「延長線上にある」と解釈する。これまでの政策では成長戦略と財政再建への取り組みが不十分だったとして、「新しい第1の矢は成長戦略を強化するということ。3本目は絶対財政再建をします。そのための社会保障改革をするということ」と説明。2本目の子育て支援は「成長戦略と社会保障改革のつなぎの役割」と位置付けられ、それによって女性の労働参加率が高まればGDPの増加につながるとの見方も示した。
安倍首相が掲げたGDP600兆円の目標について竹中氏は、「全然驚かない。名目で3%成長すれば、5年とか6年でいく」と発言した。
一方、経済同友会の小林喜光代表幹事は29日の会見で、「現在の潜在成長率を前提とすると、GDP600兆円はあり得ない」と言明。「政治的なメッセージ」ととらえると話した。
TPPTPP閣僚会合が30日から米アトランタで開かれる。安倍首相は25日の主要閣僚会合で、TPPは「アベノミクスの成長戦略の核」だとして、「今回の閣僚会合を最後の閣僚会合にしたい」と決意を表明した。
竹中氏は「アメリカも日本もTPPの受益者だ。なんとかやり遂げてもらいたい」と期待感を示す。「アメリカと合意したからこれはやらないと仕方ない」という圧力をTPPはもたらすとし、そうした圧力が国内改革を進めるにあたり必要となるとの考えを示した。
TPPが合意された場合に最も改革が期待される分野として農業を挙げる。「株式会社が堂々と農業に入って行けるような環境を作らないと生産性は上がらない」と指摘。日本の農産物は高品質で、輸出産業に成長させることが可能であるのに、農業関係者が改革を拒んでいるとして、「自らが自らの首を絞めている」と語った。
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更新日時: 2015/09/30 06:00 JST