【新国立競技場】ザハ・ハディド女史ついに公募参加を断念 逆襲の一手はあるのか?
仕切り直しとなった2020年東京五輪・パラリンピックのメーン会場となる新国立競技場の建設に絡み、見直し前のデザインを担当した英国の女性建築家、ザハ・ハディド氏の“次の一手”に注目が集まっている。9月中旬に締め切られた設計・施工を一体的に担う業者の公募では、パートナーの施工業者が見つからず参加断念を余儀なくされたが、建設業界では「ハディド氏は本当に参入をあきらめるのか」と半信半疑だ。新国立には設計関連業務も多く、何らかの形で関与するとの見方は消えていない。
競技場のデザインに2年を費やしたのに…ハディド氏側から“嘆き節”
「現在のデザインチームには参加の機会が閉ざされた」「2年を費やした競技場のデザインをこれ以上進展させられず失望している」-。
新国立の事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)が業者公募を締め切った9月18日。参加への強い意欲と自信を示していたハディド氏の建築事務所は参加断念を知らせるコメントの中で“恨み節”をにじませた。
「キールアーチ」と呼ばれる2本の巨大な弓形の柱を特徴とする流線形のデザインで平成24年の新国立競技場をめぐる国際コンペを勝ち抜いたハディド氏。総工費が当初の1300億円から2520億円に膨張する中で批判が高まり、今年7月に白紙撤回が決まった。しかし、新国立参入への意欲は衰えず、9月7日に旧整備計画で設計業務を担当した日建設計とのチーム結成を発表し、業界を驚かせた。
その際、「(見直し前の)取り組みと知見を基に、包括的で十分にコストを考慮したデザインを短期間に展開できる」とのコメントを発表し、公募参加実現への自信をのぞかせたが、結局パートナーとなる施工業者が見つからず、再挑戦の夢はついえた。
「アドバンテージある」「イメージが…」 戸惑うゼネコン
行く手を阻んだのは設計・施工を一体で受け付ける新公募のルールだった。JSCは設計と施工を分離した前回の公募で、施工にかかるコストを度外視したデザインが問題の引き金になったとして、設計コストを抑制するため施工と一体化した「デザインビルド方式」を採用した。
これに不満を持ったのがハディド氏側だった。日建設計との合同チームで提携先の施工業者探しに奔走するが、折衝はいずれも難航。17日には「スタジアムの建設ができる施工業者が限られており、今の(われわれの)デザインチームには公募の参加機会が閉ざされるだろう」と新公募ルールを批判するコメントまで出した。
実際、1500億円規模のスタジアムを建設できる施工業者は国内では大成建設など大手ゼネコン5社ぐらいしかない。
ただ、ゼネコン側からは冷めた声も漏れる。「確かに2年間も新国立に関与しており、他の設計会社に比べアドバンテージはある。しかし、多くの批判を集め、一度白紙になった業者と組むのは難しい…」とゼネコン関係者はつぶやく。別の業界関係者からは「どうして手を挙げられるのか。旧計画の設計に関する知見を持ち出すのはフェアではない」と憤る声も聞かれた。
関連業務は多岐にわたる…まだあきらめない?
仕切り直しとなった新国立参入の可能性が閉ざされたハディド氏。このまま将来の東京五輪の舞台から離れていくのか。
「公募の道は絶たれたが、まだ関与する可能性はある」と話すのは国内の設計事務所関係者。総工費の上限を1550億円とする新国立は、国内最大級の国家プロジェクトであることは間違いない。そこには設計分野でもハディド氏が関与できる関連業務が少なくないというのだ。
「実際にハディド氏がどう動くかわからないので現段階では未定」というが、今後もその動向から目が離せないことは確かだ。
安倍晋三首相が急転直下で決めた旧整備計画の白紙撤回に伴い、ハディド氏側から損害賠償請求が起されるリスクも残ったままだ。その意味でもハディド氏と新国立の関係が終局を迎えたとは言い切れない。