ロシアとの粘り強い対話は維持すべきだ。同時に、国際情勢を踏まえたより広い視野で、対ロ外交を考えることの重要性も忘れてはならない。

 訪米中の安倍首相が、国連総会の合間をぬってロシアのプーチン大統領と会談した。

 懸案の北方領土問題で進展は見られなかった。

 会談で首相は「プーチン氏の訪日をベストなタイミングで実現したい」と述べた。そのために、平和条約交渉を中心とする政治分野や経済分野で「成果を準備したい」と語った。プーチン氏は「日ロ間の経済協力には大きな潜在力があると信じている」と、日本の経済協力に期待感を示した。

 北方領土問題を打開し、日ロ関係を長期的に安定させるためには対話が欠かせない。首脳同士がひんぱんに会い、信頼関係を築くことが効果を持ちうるのは首相の言う通りだろう。

 一方で、日本が忘れてはならない原則がある。ウクライナ危機で顕在化したロシアの「力による現状変更」は決して容認できない、ということだ。

 米欧が経済制裁を強め、ロシアに国際秩序への復帰を迫るなか、日本としても国際社会の結束を重視する必要がある。

 世界がいま、注視しているのは、シリア内戦にかかわるロシアの活発な動きだ。

 シリアなどで活動する過激派組織「イスラム国」を抑えるため、ロシアは、現在のアサド政権を支援するよう主張する。これに対し、米国は、シリア安定化のためアサド大統領の退陣を求めて対立している。

 内戦の犠牲者や欧州に押し寄せる難民を減らすためには、地域に大きな影響力を持つロシアとの対話が重要な意味をもつ。オバマ米大統領がプーチン氏との2年ぶりの本格的な首脳会談に臨んだのはそのためだが、対立は容易に解けそうもない。

 ここにきて、ロシアがシリアに積極的に介入しようとする背景には、ウクライナ問題から国際社会の目をそらすとともに、ロシアの発言力を高めようとする意図もうかがえる。

 国連総会に限らず、最近の米国とロシアは、ウクライナとシリアの二つの問題をめぐって、つばぜり合いを演じている。

 日本独自の対ロ外交も、こうした国際情勢の大きな流れと無縁ではいられない。

 大切なのは、二国間の政治的な成果を焦ることではない。米欧と協調し、国際秩序を尊重する姿勢を示すことこそ、長期的には北方領土に関する日本の主張の正当性を強めるはずだ。