牧太郎の青い空白い雲 連載518
テレビ朝日の「報道ステーション」に官邸から圧力が掛かった! と大騒ぎだが......今の日本は「戦時中」とは違う。 まだまだ「自由」はある。
それが証拠に前回、(失礼にも)「安倍さんは傲慢症候群!」と病人扱いしたが、"お咎(とが)め"はない。週刊誌ごときの安倍批判は無視する魂胆なのだろう。
であれば、安倍さんのもう一つの致命的な病、「虚栄心症候群」にも言及しなければならない。国賓待遇で訪米する「我が宰相」に対して、老大国アメリカは「アベは虚栄心の塊だから御し易(やす)い」と舌を出しているからだ。
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1990年初頭、ソ連が崩壊し、アメリカは経済、軍事の唯一の超大国になった。世界はアメリカの「一存」で全てが決定した。しかし「唯一の超大国」になった瞬間から「モンスター・アメリカの終焉(しゆうえん)」が徐々に始まっていた。
「ソ連の崩壊」と時を同じにした「レーガノミクスの破綻」。アメリカは史上最大の借金国に転落した。 苦し紛れのプラザ合意、ブラックマンデー......アフガン戦争、イラク戦争、リーマン・ショック。21世紀に入ってから、アメリカは経済的には、バブルと破綻の悪循環。軍事面は誤算続き。最近では、標的のアルカイダがアフガニスタンを去り、拠点をパキスタン、イエメンに移し、イエメンの内乱でアメリカは自国民に撤退を指示する事態に追い込まれている。
もはや「アメリカ一極支配」ではない。それを世界は知っている。
中国主導の「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」をめぐる動き。アメリカは各国に不参加するように呼びかけたが、イギリスもフランスもドイツも、韓国、オーストラリアでさえ、続々とAIIBに参加を表明した。だというのに、日本だけがアメリカに盲従する。
なぜだろう?
答えは簡単だ。安倍さんが国賓待遇で訪米する。アメリカ議会で演説する。その「夢」を壊したくないから、盲従する。
安倍さんの「並外れて肥満した虚栄心」を満足させるために、日本はAIIBに不参加を決めた。
「夢の議会演説」は世界の果てまで出かけて行って見せた「カネ配り外交」の総決算なのだ。
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アメリカ人は安倍演説を歓迎しているだろうか? 米国務省、CIAを経てレーガン大統領特別補佐官、国家安全保障会議アジア部長を歴任してきたダグラス・パール(カーネギー国際平和財団副所長)が月刊誌『選択』4月号のインタビューで、こう話している。
「安倍晋三首相訪米について米国では誰も関心を払っていないし、興味もない。私自身は、安倍首相が米議会で演説することについて戸惑っている。戦後七十年間の平和の歩みについて語り、日米同盟の果たした役割を強調するというが、そんなことに一体どんな価値があるのか。少なくとも米国のメディアはなんらニュース価値を見出せないだろう」
オバマ政権は安倍外交をほとんど評価していない。中国や韓国との余計な摩擦を生み出している安倍さんは「トラブルメーカー」なのだ。にもかかわらず、アメリカが議会での演説を許したのは(本当はパートナーと認めていない相手だが)安倍さんが「盲従の姿勢」を見せ、日本国内の富をそっくり、落ち目のアメリカに差し出す「バカ殿」であるからだ。
議会演説はオバマが「虚栄心の塊」に用意した「お駄賃」なのだろう。
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虚栄心症候群は「自分に自信のない人間」に発症する病だ。相手の意見を根拠なく否定する。自分の意見を無理にでも通そうとする。周りから見れば「子供っぽい奴(やつ)」である。
嘘(うそ)をつく。でも、すぐ見破られる。それでも、自分が正しい、と言い張り、素直に間違いを認めることができない。
「虚栄心の塊」は困った病気だが......老大国は、その安倍さんの病を最大限、利用しようとしている。もし、である。アメリカが日本を置き去りに、AIIBに参加したら......日本は赤っ恥をかくだけだ。
◆太郎の青空スポット 家康と一緒に歩こう
今年は徳川家康没後400年。「記念さわやかウォーキング」が企画されている。4月19日は「家康公ゆかりの港町周辺と三保松原を訪ねて」。約15キロ。3時間半。25日は「若き日の家康と浜松城出世物語を歩く」。6月7日までに8コース。天下泰平が実現して400年? 青空の下で「平和」を満喫しよう。JR東海テレフォンセンター 電話050―3772―3910
◇毎日新聞夕刊にコラム「大きな声では言えないが...」を連載中