負けるわけにゃいきまっせんばい! 71
<やっと咲いた遅咲きの花>
この第一作、「激突・殺人拳!」ではじめて舞台挨拶というものを、東映の宣伝課から依頼されまして、なんとも、驚き、桃の木、山椒の木ですよ。 つい先日、「石橋さんは俳優さんですか?」なんて、同じ会社の人にとぼけられたのですから……。ひととの損得勘定を露骨に値踏みする浮世の駆け引きなど、私のような凡人には測りかねます。もっとも、その当人に何の取得も無ければ、これは論外かもしれませんけど、しかしそんな人はまずいません。それなのに俗世の仕事なんて大方はそんな所で成立しているんです。こいつと組んで儲かるか儲からないか。仲間意識。それと素晴らしい才能を持つブレーン。そこから外れた人は、この競争社会では落ちこぼれと言われちゃうんですかね。でも最終的には純粋な心の繋がりでしょう。それが無かったら、人間、孤独で寂しいものじゃないですか。ギブ・アンド・テークで仕事をしているときだけの人間関係なんて――。 明けて昭和四十九年(1974)二月二日(土曜日)。「激突・殺人拳!」封切りの当日、凄かったですよ。宣伝課もやりますからね。「世界的ブームの真っ只中、あえて叩きつける本場の迫力」「世界的ブームの真っ只中、突く! 蹴る! 裂く! 砕く! 千葉真一快心の闘技が凄まじい迫力と興奮を呼んで襲いかかる!」なーんて、センセーショナルなキャッチフレーズを大々的に叩きつけて。お客様は映画館の前に長蛇の列。 さて、お客様へご挨拶のため、千葉真一氏、志穂美悦子さん、それに私たちは、東映の直営館、東京の丸の内東映を皮切りに、東京都内と、大阪市内数箇所の映画館を駆け回るといった強行軍。空手の型を披露したり、トークをしたり。とにかくどこの映画館に行っても、私を充足させてくれたのは、昭和三十年代、映画産業全盛期を髣髴とさせる、溢れるばかりのお客様でした。 喜んでくださる大勢のお客様を前にして、本当に辛抱して、この仕事を続けててよかったなあと実感したものです。 時に満四十歳。いろんな人に助けられ、我が儘を押し通し、妻をはじめ、母、弟たち、と、周りの人たちに迷惑と苦労を強いて、やっと開いた遅咲きの花。誰に感謝すればよいのか、謝ればいいのか。素直に、みんなに頭を下げるべきでしょう。 東映ひさびさのヒットに、時の東映社長岡田茂氏は、直ちに第二弾を製作してシリーズ化しろとの指示を飛ばし、空前の空手映画ブームを生んで、「激突・殺人拳!」シリーズ、「空手バカ一代・喧嘩空手」シリーズ、「女必殺拳」シリーズ等、その他類似作品で、三年半も東映映画は活気を取り戻したのでありますが、やはりテレビの影響や、多様化したレジャーに押されて、再び邦画は衰退の一途を辿り、映画会社以外の出資による製作など、映画の製作形態は大きく変貌していくのであります。 いろんな作品が作られ、いろんな人が出演してスクリーンを賑わしましたが、このアクション映画で残ったのは、千葉真一氏は別格ですが、主演女優になった志穂美の悦っちゃんと、敵役として定着した私だけではないでしょうか。 いずれにしても、この一連の空手映画が、私の俳優人生の流れを変えたことは紛れもないことで、そんな万感の思いを込めて、本格的な日本空手映画の第一作として作られた、「激突・殺人拳!」の台本は、昭和四十八年の十月以来、今もセピア色に変色しながら、私の手許で大切にされているのです。 ■
[PR] by masashi-ishibashi | 2008-08-10 14:21
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