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アルゲートオンライン~侍が参る異世界道中~ 作者:桐野紡
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第11話 もふもふ

 翌日、回収部隊が魔石の取り出しや解体を始める段になると討伐隊のパーティは暇になる。帰りは一緒に帰って凱旋するのが習わしだった。

 リキオーは暇なので昨日、スカーウルフが突然、湧いて出たように現れた地点に行ってみた。

『なんか不自然だったよなあ。マッドホーンは魔力溜まりにいたのに、スカーウルフは何であんな所にいたんだ?』

 スカーウルフのいたと思われるところには大きな木が雷で真っ二つに裂けたように倒れていて、そこからフニャア、フミャアと子猫のような鳴き声が聞こえてくる。見れば、瓦礫の下にまだ彼の両手にも満たない大きさの子狼がうずくまっていた。

「これか。ってことは親だったのか。それが魔力溜まりの影響を受けて、か」

 リキオーはこれが成長したらモフモフになるんではないか作戦を思いついた。しかし、テイム、飼い慣らし方の方法が分からない。

「まあテイムの方法は回収班の人が詳しいかな。聞いてみよう」

 リキオーはまだちっこい子狼を掬い上げると懐に抱え込み、みーみー言う子狼を連れて回収班のところに戻って、テイムについて詳しい人がいないか聞いてみた。

「うん? テイム、その子狼を飼い慣らそうって? 知ってるよ。ただ、普通の人はどうかな。魔力が続かないんだ。やり方は一応、聞いておくかい」

 回収班にいた馬車の専属メンテナンスを請け負っている技師がテイムのやり方を教えてくれた。やり方は簡単。獣が子供のうちに飼い主との間で魔力回路を形成してやればいい。そのために魔力の干渉のないところで一昼夜、魔力を与え続ければいいとのこと。

 魔力の干渉のないところは森以外ならどこでもいいらしい。人の集まっているところは避ける。宿屋の部屋とかは理想的だという。
 魔力を維持し続けるのが普通の人には無理なのである。だから、テイム出来る人は魔法を普段から使っていてMPの余裕が有る人が多い。リキオーのような純然たる戦士系ジョブでは難しいらしい。

『まあ、フツーに維持できるけどな。そういえばこの討伐行でかなり経験値ウマウマだったんじゃないか。レベル上がってるよな。確認してみよう……ステータスっと』

 ぴろっ、と目の前に出てきたステータス画面。どうせ他の人には見えないのでお構いなしだが、空中で指を動かしてたり、スキルポイントを振るのに画面操作してたり画面をスクロールさせてたりしたら、馬鹿に見えるかもしれない。

『おおっ、すげっ、26! 一気に7も上がってる。しかも前回、19になったとき導火覚えてたのか。てゆーか【生活魔法】sって何よ? 「s」って』

 普通にレベル上げしてるだけではランクSなんて絶対無理で、レベルカンスト後の経験値変換でポイントアップして上げるだけでもランクCからSなんて血を吐くような努力の結果でしか見られない。
 それが外で生活魔法の練習してただけで上がってしまったのは、かなり異常な事態だ。

 リキオー自身は気づいていないが、一度こう! と決まってしまったことを変化させて新しいことを生み出すというのはそれだけで偉業なのだ。普通の人は生活魔法と魔法系ジョブが使う魔法を全く別のものと認識している。

 しかし、リキオーは現代日本人で魔法というとファンタジーで一括りにしているため、この違いを認識していない。
 それ故に普通の人は生活魔法を変化させたり、倍力で使ったり維持したりということをしない。というか、出来ないと思い込んでいる。その差が生み出しているのがこのランクSなのだ。
 最も本人はランク上がってラッキーぐらいにしか考えていないのだが。この勘違いは以後ずっと続く。

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>>status_
name:リキオー(17)
class:自由人
job:侍

level:26
lp:62 hp:152 mp:64 

str:51 vit:38 dex:42 agi:22 int:17 mnd:17 luk:19

skill_point:8
job_skill:【両手刀】b
weapon_skill:【刀技必殺之壱・疾風】c、【刀技必殺之弐・導火】c
active_skill:【投擲】c、【明鏡止水】c、【生活魔法】s、【弓術】c
passive_skill:【受け流し】d、【見切り】c、【鑑定】c、【翻訳】a、【鷹の目】c、【警戒】c
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New!!
レベルが上がりました。19 >> 26
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『スキルポイント、何に振ろうかなー。8あるから2ずつで三つ取るとしたら、やっぱ【覇気】と【峰打ち】と【心眼】かねえ。それは幻だって出来るじゃん。って駄目じゃん! 三つとも必要ポイント3じゃんよ~まあ、幻は置いといて順当に【覇気】と【峰打ち】にしておくか』

 などと悩んでいたが【覇気】と【峰打ち】は結局、武器を使うか使わないかで同じ効果ということもあり、【峰打ち】と【心眼】に落ち着いた。

 【覇気】は「気合を相手にぶつけスタンさせる」技だ。もっとも発動率はあまり高くない。

 【峰打ち】は武器を持っていることが前提条件の技だ。刀の背で敵を打ち据えてスタンさせる為に行動阻害効果があるし、スタンさせて武器を落とさせる武器装備解除効果も低いが一応備えている。

 【心眼】は分身を作り、攻撃を避ける技で、これぞ侍の真価という代表的なスキルである。

『この子狼、テイムするにしても宿屋はペット禁止だったら、このクエストの報酬で家でも借りるかな』

 テンションが下がってくると、やはりというかボケてるリキオーはオーナーの専横で危ない橋を渡るは目になり、村を出ていこう、なんて思ったことは忘れているのだった。
 悪くないと言いつつも、宿屋のオヤジの作る食事に気に入って満足してもいた。

『そうしたら。親父の店に食いに行くかな』

 家を借りても自分で料理をつくる気は毛頭なさそうである。
 懐の子狼がいつか成長して、モフモフになる夢を見ながらぼんやりしていると、マッドホーンの解体が終わったらしい。

 マッドホーンは角が特に高価なので戦闘で欠けてしまうのは避けたい部位なのだが、そこが弱点になっていて壊したほうが倒しやすいという困った魔物でもある。
 今回はリキオーの対魔武器のお陰で毛皮はだいぶ損耗したが、肝心の角が大分残っていたため、かなりの高報酬が望めるらしい。
 また、スカーウルフの牙も高額報酬につながるアイテムである。獣と違い、魔物の肉は魔力があり、食用に向かないらしい。

 解体は最後に魔石を取り除くことが重要だ。魔物の体は魔石によって維持されており、魔力の供給が途絶えた時点で魔石という魔物の魂とは無関係の形として世界に認められ存在が固定されるらしい。
 そのため、先に魔石を抜き取ってしまうと素材が回収できず崩れ去ってしまうのだ。

 そして、最大の収穫物はやはり魔石ということになる。特に巨体なモンスターの魔石は大きくなるのですごい額で取引されるらしい。実際マッドホーンの魔石も今までにないほど巨大なものだったらしい。

 この世界では魔石は、普通に誰もが使うもので、主な使用法は電池みたいな用途である。灯りはその顕著な例で、王都では街灯のエネルギー源として使われてるぐらいだ。
 大きなものだと、船の動力としても用いられる。普通の家庭でも魔力を与えると光る石による照明が当たり前に普及している。

 まあ、彼とは無縁な話なので関心がない。今は回収部隊とともに凱旋の途中だ。モフモフ妄想に囚われて、かなりダメ人間になっているリキオーだった。
 が、それも馬車が村に着くまでの話だ。村では代表として討伐行に出たものが誰も欠けること無く戻ってきたというので、ちょっとしたお祭り状態になっていた。
 ユシュト村のギルドでも、一階のカフェテリアでは誰もが無礼講になって酒と喧騒が飛び交っていた。

 カウンターに向かうと、リティアが満面の笑顔で出迎えてくれた。

「おかえりなさい、リキオーくん。無事戻ってきてくれて嬉しいわ」
「ありがとうございます。なんとか生きて帰ってきました」
「凄いわ。大きなマッドホーンを殆ど一人で倒したらしいじゃない。やっぱり、リキオーくんはとても強かったのね」
「はあ、装備が良かったんですよ。相性もよかったのかも」
「ウフフッ、もっと自信を持っていいことを、あなたはやり遂げたのよ」

 そんな風に持ち上げられてもリキオーにはあまり実感がなかった。ただ、周りが楽しそうなのでその気分に水を差すのも悪いので、そそくさと宿屋に引っ込んで子狼のテイムに取り掛かりたかったというのが本音だった。

 ギルドをそっと出て宿屋に向かう。

「よう、無事戻ってきたな」
「オヤジさん。ええ、なんとか乗り切りましたよ」
「くっくっくっ、お前はいつもと変わんねえなあ。今日ぐらいはハメ外してもいいんたぜ」

 宿屋のヒゲおやじは、からかい甲斐のないリキオーのいつもの表情を、面白そうに笑っていた。

「そうだ、オヤジさん。この宿ってペットの持ち込みはいいの? 狼とか」
「いや、ダメだな。匂いが着いちまうと色々困るからな」
「わかりました。仕方がないな」
「ん? その手に持ってるのは何だ」
「ああ、森で子狼拾ったんでテイムしようと思ってたんだけど、この宿じゃダメなら他を当たるよ」

 オヤジは子狼を見ると渋い顔をした。

「仕方ねえな、せっかく無事戻ってきた新米卒業冒険者を追い出すわけにもいかねえし。裏庭なら置いといてもいいぜ。当分の間ならな」

「すいません」

 やっと部屋に戻ってきて一人きりになると、懐から子狼を取り出して、みぃみぃ、と泣いているその頭にそっと、手をかざして魔力を込めた。すると、すぐ変化が起こった。

 今まで、みぃみぃと泣いているだけだった子狼が泣くのをやめて頭をリキオーの頭にピッタリとくっつけたのだ。できるだけ楽な姿勢で、かと言って眠ってしまって魔力の供給が止まるのも困るのでと思っていると腕が痺れてきた。

『ぐあ、これ思ったよりも面倒だ』

 そのうち腕の感覚が無くなってきたが、代わりに自分とその小さな命が繋がっている感覚が伝わってきて不思議な感覚に囚われていた。

『お、こいつと俺、今繋がってるんだ。俺の命がこいつの中に流れ込んでいく……』

 今までに味わったことのない世界との繋がりを意識して、自分という小さな器を超えて枠というか殻というか、そういう自分を定義するものが曖昧になっていく感覚に驚いていた。そして、知覚する範囲が宿屋の壁を超えて広がっていった。

 宿屋のオヤジも心底、リキオーが帰ってきてことを喜んでくれていることが伝わってきた。それはあのアイテムショップのオバちゃんも同様だった。ギルドカウンターのリティナも、そしてあまり嬉しくないが賢者のアルティオも……。

『魔力ってこの世界のすべてのつながり……』

 ぼんやりと、自分でも意味を把握できない言葉が浮かんでくる。それは一種のトランス状態で、今もし、リキオーの姿を見る者がいたら驚いただろう。リキオーの輪郭が薄れてぼんやりと光っていたのだから。

 そして、ハッ、と覚醒して自分に自分が戻ってきた感覚と、痺れていた腕に纏わりつく毛玉的存在……。

「おお!」

 ついさっきまで、未熟児かって感じで、そのまま死んでしまっても不思議でない弱々しい存在だったものが、真っ白い産毛に包まれて狼の顔形をして、きょとんとした顔でリキオーを見上げているのだった。
 昨日見た時とは体のサイズが全然違う。昨日は頭の大きさもせいぜい指二本がいいとこだったのに、今は完全に子狼として抱えられる形をしていたのだ。

「くぅン?」

 クリクリした目でリキオーを見上げている仔狼には、頭から鼻筋にかけての毛並みに青い筋が一線入っていて、それは親でありながら魔物となってしまったスカーウルフの猛々しさも感じさせた。
 それはまるで暴風のような、それでいて神々しさも合わせ持っていた。

「ハヤテ、ああ、お前の名前は疾風(ハヤテ)だ」

 頭に浮かんだイメージそのものの名前だった。ハヤテと命名された子狼はそれが自分の名前だとわかったようで、リキオーの手に頭をこすりつけて目を細めていた。
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