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  ▽抑留の史実継承 役割重く 

 約10カ月ぶりにリニューアルオープンした28日、舞鶴引揚記念館(舞鶴市平)には引き揚げ体験者や子どもたち1029人が訪れた。570点の所蔵資料が、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界記憶遺産に登録されるかどうか。決定が10月初旬に迫り期待が高まる中、戦争を知らない世代にシベリア抑留や引き揚げの史実を継承する役割は一層重くなる。

 「見違えるように立派になり、感慨無量」。シベリアに約4年間抑留された後に舞鶴に引き揚げ、その経験の語り部をしている原田二郎さん(90)=綾部市=は、一新された記念館を訪れ満足そうだった。今後も記念館などで体験を語り続けるつもりで、「戦争の悲惨さを次の世代に感じてもらいたい」と述べた。

 山下美晴館長も若い世代へのアピールを意識し、「引き揚げの史実を全国に発信するため、特に教育旅行や平和学習に力を入れていきたい」と話した。

 こうした思いに対して、地元、若浦中学校3年で生徒会長の畑山純慶(あつよし)さん(15)は記念のセレモニーで、「引き揚げの事実と地域の人たちの心の豊かさやあたたかさ、戦争の歴史を心に深く刻み、舞鶴に住む私たち若い世代が責任をもって継承していくことを誓います」とのメッセージを披露。やはり地元の大浦小学校6年の児童会副会長、粟野詩可(うた・か)さん(12)は「以前の展示と比べて、解説がわかりやすくなった。(タッチパネルの)クイズをやってみたが全然わからなかったので、これから勉強したい」と話した。

 これから舞鶴市や記念館の果たす役割が重くなると指摘するのは、市の有識者会議メンバーで、資料の保存について助言している国立民族学博物館の園田直子教授だ。「記憶遺産に登録されれば、資料を貸してほしいという要望も増えるだろう。保存と活用を両立させ、資料をきちんと次の時代に残していくことも重要だ」とする。

 そんな中、関係者の観光客増加への期待は大きい。山下館長は「記憶遺産候補となったことや京都縦貫道全通の効果か、団体客の予約が増えている」と手応えを語る。京都交通は記念館と引揚桟橋を往復するシャトルバスを10、11月の土日祝日に7便運行。「海軍ゆかりの港めぐり遊覧船」も10月10日の午後2時発の便は、引き揚げ船が入った平地区や引揚桟橋をのぞむ特別コースで運航する。