思いだすままに……(16)
京都地裁の判決を待った。
勿論、勝訴の知らせだ。
確信もある。
弁護士も裁判所での最終打ち合わせ時、
「裁判官が、息子さんの年収金額を確認した事は、こちら側の申し立てを認めていると思います」
と言った。
当然だ!
どう考えても、どう見ても、実況見分調書は西○運○、高○英○の嘘で出来上がったものなのだ。
正義は勝つ!
神も仏も見ている!
西○運○、高○英○!事故係り、佐○!待ってろ!
恐れ戦きながら日々暮らしていろ!
京都地裁の判決を待った。
数ヶ月後、京都地方裁判所より判決文が届いた。
「今回の事故については、実況見分調書通りと認め、西○運○が被った大型貨物車の修理代金並びに休車損害費用、二百数十万円を支払え」
全てが空虚で空しく、心に大きな穴が開いた。
身体から力が抜けて行く。
高○英○の証言内容や、実況見分調書に虚偽があるのは、誰が見ても分かる!
何故、常識と言うものが通用しないのだ!
何とかして……、何とかして……、息子の正義を証明してやらねば……
予想もしていなかった敗訴と言う、途方も無い大きな壁が立ち塞がった。
数日後、大阪は淀屋橋の弁護士事務所を訪問した。
「私も、いろいろと調べて見ましたが、ドイツにデクラ社と言う世界的に権威のある事故解析、鑑定をする会社があります。
そこに日○工○鑑定センター、中○氏の鑑定書と実況見分調書を送付し、鑑定を依頼してみればと思うのですが……、
しかし、依頼をするには中○鑑定書、警察作成の実況見分調書を、まずドイツ語に翻訳したうえで送付し、返って来た書類を、再度日本語に翻訳する必要があります……
翻訳費用等考えますと結構高額になりますが……、やって見る値打ちはあると思います……、 いかがです?」
「費用はどのくらい掛かるものですか?」
「そうですねえ……、翻訳業者に確認のうえ、見積書を送らせていただきます」
「よろしくお願いします」
虚しい何かが、心を駆け抜けて行った。