思いだすままに…… （8）
ある日、突然、遺族の立場になった人間は、悲しみが心を覆い尽くし何も考えられなくなる。
しかし、無傷な相手は、冷静に冷酷に、損得勘定で物事を考えたうえで我が身有利に事を運ぼうとする。
人間として考えれば当然の事だ。
生活がある……。
将来がある……。
嘘をついてでも、必死で自分を守ろうとする人間の行動は非難できない。
しかし、相手を死亡させる程の事故を起こしておいて、虚偽申告でそれらの責任から逃れようとする人間や企業を許してはいけない。
人間の死には、真実がなければならない。
そのための真実を精査検証するのが、警察の使命である筈なのだが……。
警察の怠慢や、何らかの打算で死亡事故が歪んで処理されていたとしたら……。
死者の尊厳を踏み躙る事になる。
警察担当者にすれば、交通事故は忙しい日常業務の中の一つに過ぎないのだろう。
息子は、空手を学び、頭角を現し始めた頃から、
「社会正義、礼節、道徳」を口にするようになった……。
日々、泣き崩れる妻のために……。事故の真相は、確認してやらねばならない。
それが、父としての息子に対する責務だ。
真実が知りたい……。
何があったのか知りたい……。
知人に紹介してもらった弁護士と面談したのは、事故後一月程してからだった。
私は、自分なりに疑問を感じる部分を書面にして弁護士に提示した。
昂ぶる私の感情を抑えるように弁護士の口が開かれる。
「分かりました。早速九○署に出向き、事故内容の確認をしてきます。しかし、もう検察庁のほうに書類は送られている筈ですから、実況見分調書の内容が確認できるのは、相手高○が不起訴処分となってからですね」
落着いた事務的な声が響く……。