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思いだすままに…… (3)

毅然としなくては…… 俺がしっかりしなくては……
 父親として、主人として……
 廊下を歩く靴音がやけに大きく響く。
 突き当りを曲がれば家内と次男が待っている。
 角を曲がると、家内の食い入るような視線が待っていた。
 哀願するような家内の視線に、その時、私はゆっくりと頷いたらしい。
 家内が呻くような叫び声を上げて、手で顔を覆った。
 覆った手から溢れた涙が廊下にこぼれ落ちた。
 次男と二人で、家内を抱えるようにして息子の横たわる部屋に案内する。
 息子を見て、家内が悲鳴のような声で名を一度だけ叫んだ。
 後は、家内の嗚咽の声が部屋に響くだけだった。
 一気に時間が加速した。
 遺体の搬送。葬儀の準備。近親者への連絡。
 毅然としなくては…… 俺がしっかりしなくては……
 涙は出なかった。
 息子を自宅に連れ帰り、家族で葬儀の打ち合わせをする。
 家族だけで送ってやろう。 
 それがいい。そのほうが息子も喜ぶだろう。
 10月14日(金)夕方、事故相手の西○運○事故係り、島○時○郎が来訪した。
「お父さん、今回の事故内容はご存じですか?」
 丁寧な物言いだが、業務的な冷たさが声質と目線にあった。
「はい、警察から、うちの息子がおたくの大型貨物に対向飛び出しで、正面衝突したと聞いています」
「そうですか、そうお聞きいただいてるなら、けっこうです。又、あらためて今後の事について寄せていただきます」
 島○は、念押しするように頷くと席を立った。細面の島○の浅黒い顔に、儀礼だったのか、それとも計算があったのか、薄っすらと笑みが浮かんだような記憶がある。
 私は、黙って頭を下げた。 
 涙は出なかった。 
 葬儀の準備が事務的に進んで行く。
 私がしっかりしなくては…… 
 
 それにしても……
 何故、この時、息子の身体に一切の外傷が無かった事に疑問を感じなかったのだろうか……
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