環太平洋経済連携協定(TPP)交渉は、近く参加12カ国の閣僚会合が開かれる。

 「背水の陣」で臨んだはずの前回会合で大筋合意に失敗してから2カ月。今回も合意できないと、交渉が漂流する恐れが高まりそうだ。

 世界貿易機関(WTO)での通商自由化交渉が停滞し、軸足は各国間や地域での交渉に移っている。成長著しいアジア太平洋地域が舞台のTPPの行方は、今後の各地の交渉の動向を左右する。アジアの活力を取り込みたい日本にとっても、避けて通れない課題である。

 交渉を取り巻く政治状況は予断を許さない。

 農業や自動車の分野でカギを握る国の一つ、カナダでは10月半ばに総選挙がある。今回の閣僚会合で合意できず、カナダの政権の枠組みが大きく変わることになれば、交渉が本格的に中断しかねない。来年になると、TPPを主導する米国の大統領選が本番を迎える。民主、共和両党の妥協は難しくなり、米議会による承認まで見すえた道のりは険しくなる。

 甘利・TPP相は「今回の機を逃せば、交渉が年単位で先延ばしになりかねない」と指摘する。その危機感を他国の閣僚と共有し、会合に臨んでほしい。

 各国が対立するテーマは、次第に絞られてきている。安価な後発薬の普及を左右する新薬のデータ保護期間など、知的財産権を巡る問題。マレーシアなど一部の国にとって難題である国有企業の扱い。7月の前回会合で争点になった、乳製品などの市場開放問題だ。

 自動車の関税引き下げ・撤廃交渉に関連して、製品を「TPP産」として認める際に、TPP域内での部品調達比率をどの水準に設定するかという原産地規則を巡る協議も気がかりだ。

 日本などは、タイなどTPP域外をからめた分業を念頭に、4割程度の比率を唱えている。これに対し、メキシコとカナダは共に加わる北米自由貿易協定(NAFTA)並みの6割程度を主張しているようだ。自国の自動車産業への配慮がある。

 大詰めを迎えるにつれて、国内産業を保護しようと利害対立が激しくなるのが通商交渉の常だ。各国とも国内の雇用に一定の配慮が欠かせないとしても、広く消費者の利益を意識しないと交渉は前に進まない。

 複雑な連立方程式に挑み、妥協を図る意思と知恵があるか。交渉参加国の中で突出した経済規模を誇る米国と日本の責任は大きい。今回の会合で大筋合意にこぎ着けてほしい。