弘前市の津軽塗師・須藤賢一さん(58)が、構想から2年ほどかけて津軽塗の将棋の駒を制作した。唐(から)塗など津軽塗の代表的な4技法を施した駒には「津軽塗の可能性を広めたい」との思いが込められている。県将棋連盟を介して日本将棋連盟に駒を寄贈するため、27日に弘前市内で開かれた将棋名人戦弘前対局記念イベントの席上、地元出身の行方尚史八段に託された。
県将棋連盟の奈良岡実師範は「相手の意向もあるが、天童市将棋資料館(山形県)を軸に、おいらせ町の大山将棋記念館などでも展示したい」と話している。
須藤さんによると、小さくて制作に時間がかかる将棋の駒を津軽塗で仕上げた事例はなかったという。自身も将棋を指すことから、挑戦の意味合いも込めて制作に着手、通常の仕事の合間を縫いながら、コツコツと作り上げた。
津軽塗仕様になっているのは基本的に駒の側面。王将と金将は裏面にも施されている。王将には華やかな技法と称される錦塗、金将などには紋(もん)紗(しゃ)塗、銀将などには七(な)々(な)子(こ)塗、歩などには唐塗-と、駒の位に合わせて用いる技法を変えた。
完成した駒は、26、27の両日に市内で開かれた名人戦記念イベントで展示。参加した佐藤紳哉六段、藤田綾女流初段は早速、特製の駒で一局指したといい「感触は基本的に変わらないが、(裏面にも技法を施した)金将などはやはり違う」(佐藤六段)、「光沢があってきれい」(藤田女流初段)と感想を語った。
駒を託された行方八段は本紙取材に「将棋の駒と津軽塗。想像がつかなかったが素晴らしいものに仕上がった。ぜひ一局指してみたい」と述べた。須藤さんは「今は津軽塗さえ分からない人も多い。まずは将棋ファンから攻めて行ければ」と話した。