地方創生に向け、自治体による「総合戦略」と「人口ビジョン」作りが佳境を迎えている。

 地域の魅力アップや雇用創出でどんな策がありそうか。その結果、人口をどれぐらいにすることができるか。地方創生法などで全ての都道府県と市町村に策定の努力義務が課された。取り組みの出発点となる作業だ。

 合計特殊出生率が昨年は1・42と9年ぶりに低下し、東京圏への人口転入超は3年連続で増えて年11万人に及ぶ。縮みつつ一極集中が止まらない現状を打破する試みでもある。

■丸投げする自治体も

 しかし、小さな自治体にとっては荷が重い作業だ。国は総合戦略を評価して交付金などの配分を決める姿勢のため、へたな計画は作れない。

 だから、戦略の検討は官民のシンクタンクに頼む。国が広く地元関係者の意見を反映するよう求めているので、審議会にかけて体裁を整える。そんな例が相次いでいるとの声が、国と地方の両方から聞こえてくる。

 少子高齢化や財政難の深刻さを考えれば、役所任せではいられない。住民自ら地域の将来像を考え、行動する。そこに役所や地元企業、大学が協力して特色ある地域づくりを進める。

 そうした方向に踏み出せるのか。それとも国からの補助金・交付金の獲得競争に終わってしまうのか。地方創生は正念場を迎えている。

 住民主導の街づくりは、もちろん容易ではない。それでも、目を凝らせば、お手本はあちこちにある。

 高松市に隣接する人口2万8千人弱の香川県三木町。ここでは、くじ引きなどで選ばれた町民30人余りが主役の「百眼百考会議」が、「移住受け入れ」「結婚・出産・子育て等若年世代対策」など四つの分科会に分かれ、町役場の職員と一緒に議論を重ねている。

■役場職員と対等に

 会議が生まれて5年。シンクタンク「構想日本」の関係者らの力も借りるが、議論への助言にとどめ、対策の中身は自分たちで考える。

 国が音頭を取る地方創生について、筒井敏行町長(73)は「ニンジンをぶら下げられ、競争させられているようだ」と厳しい。それでも、法律に記された総合戦略を作らないわけにはいかない。

 そこで、百眼百考会議を戦略作りの土台にすえた。これなら町の試みと矛盾しない。「計画が国に認められなくてもムダにはならない。町民が『私のまち』と一人称で発言する町にしていきたい」と力を込める。

 三重県松阪市の場合は、「住民参加」を行政が半ば強引に進めてきた点に特徴がある。

 自治会や消防団、老人クラブ、PTAなど地域の組織がこぞって参加する住民協議会がその舞台だ。もともと市内の一部地区にあったが、平成の大合併で人口が16万8千人弱になった市全体に広げ、40を超える協議会が活動している。

 財政難で行政にも限界がある。自治会は少子高齢化で力が弱っている。縦割りを超えて地域住民が集まる仕掛けを用意し、NPO法人なども含めて「地域の経営主体」になってもらう。そんな狙いを込めて、市の職員が住民との対話を重ねてきたという。

 地域の史跡巡りとデータベース作り、植樹など公園の整備と活用策の検討、他の地区の住民を招いての1日交流会……。活動ぶりが先頭を走るという地区でも、今後の事業計画には地道な取り組みが並ぶ。協議会長を務める葉山和則さん(71)は「事業そのものより人づくりこそが目標です」と話す。

■国は地方に任せよ

 三木町と松阪市に共通するキーワードがある。「過程」の重視だ。目先の成果を急ぐより、住民が考え、行動する確かな構造を築くことに力を注ぐ。

 国は、このメッセージをどう受け止めるだろうか。

 「地方の自主性」を強調しながら、総合戦略に関して自治体に出した通知では「留意すべき事項」に加えて「施策の基本的方向の例」まで書き込んだ。

 具体的な事業でも旗を振る。地域経済の活性化策では「プレミアム付き商品券」を例示。米国の例を参考に、退職に伴い地方へ移住したいサラリーマンらを生かした街づくりでは、モデル事業を実施する。

 プレミアム商品券は98%の自治体が発行手続きを取り、モデル事業には200を超える自治体が関心を示した。国が推奨する事業ならおカネをもらえるはず。県や市町村がそう考えるのも無理はない。

 急速な少子高齢化と、地方の将来に関して国の危機感が強いことは理解できる。自治体の側に国頼みの姿勢が根強いという問題もあるだろう。

 しかし、「中央集権的な地方創生」では、真の創生はおぼつかない。住民にも、自治体にも、国にも、覚悟が要る。