インタビュー ここから「東村アキコ」 2015.09.23


「きれい。
お姫様みたい」。
去年12月に公開された映画「海月姫」。
クラゲ好きでオタクな少女がファッションデザイナーとして駆け上がっていく物語。
「あまちゃん」で注目を集めた能年玲奈さん主演で話題になりました
「死んじゃうんです」。
その原作は325万部を超える大ヒット漫画です

作者は東村アキコさん39歳
今5本の連載を持つ売れっ子漫画家です
今年3月には代表作「かくかくしかじか」がマンガ大賞2015を受賞。
書店員たちがその年に一番読んでほしい漫画に選ばれました
嫌だなと思いながら描いてたけど今はやっぱ楽しいので。
ちゃんとね大学の時にできなかった事を…
「かくかくしかじか」は東村さんの漫画家になるまでの道のりを描いた自伝的作品です

東村さんは苦労して入った金沢の美術大学で自分には才能がないという思いに苦しみます
描けない事で初めて自分と真剣に向き合った東村さん。
漫画家としての原点はそこにあるという金沢での4年間をたどります
懐かしいな。
久しぶりに来た。
どうですか。
何度見ても同じですか?そうですね。
でもなんか…まあこんなだったかな。
漫画でもこの外観って出てきません?そうですね。
結構描いてて。
描いてますよね。
このね古い建物がなんかいいんですよね今見ると。
さあではいよいよ大学…美大ですよ。
懐かしいな。
結構やっと受かった大学ですよ。
ここに入学して入ってきて…。
これやっぱ。
ニケ像ですよね。
これが「サモトラケのニケ」っていう石こう像なんですけど私これを最初に入学して見た時にすごい「わあ〜!」って感動してこれがその時はもうすっごい大きく見えて当時。
大学に入ったんだっていうすっごいそういう何ていうんですかね最初のもうドーンドーンみたいな記憶が今よみがえりましたね見てたら。
1975年東村さんは宮崎県に生まれました。
小さい頃から漫画を読むのが大好き。
このころから漫画家を目指すようになります。
絵の力がぬきんでていた東村さんは本格的に芸術を学びたいと美大を目指します。
競争率20倍の難関金沢美術工芸大学に現役で合格します
うわ〜!懐かしい。
このにおいとかがすごい懐かしいです。
これは何のにおいなんですか?ちょっと食パン?パンのにおいがしませんか?食パンを何ていうんですかねこう消しゴム代わりにしてデッサンをするのでパンの香りがするんですよ。
いいにおいが。
懐かしいです。
いろいろ石こう並んでますよね。
なんか思い入れのある石こうとかあります?これよくデッサンしたなって。
大体もうどれもすごいさせられるんですけどこれなんかはもう基礎中の基礎。
これヘルメスっていう像なんですけど受験生は絶対これをまあ何十回も描かなきゃいけないというやつですね。
ちょうど下にはデッサンされたあとなんでしょうね。
絵が…。
あっそうですね。
上手。
やっぱりデッサンは基本なんですか?うん。
そうですね。
もう絶対そこはやっといた方が後々絶対いいんですけど今デッサンあんまやらずに結構現代アートとか割ともう自由な感じで作品作られる方多いんですけど私やっぱデッサンの授業がすごい楽しかったし今の漫画にもすごい役立ってるので。
どういったところに…私かなり素人的な質問なんですけどどうなんですか?結局早くなるんですよ描く事が。
やっぱデッサンをやってない人だとえ〜っとこう顔があって腕があってこうで振り返ってたらこうでってすごい時間かかっちゃうんですけどデッサンを何年もやってると結果ね別に私の絵がうまい下手は置いといて早く描ける。
パッパッパッて描けるから。
私結構連載もいっぱいあるし月産枚数もすごいやっぱ多いんですけどデッサンやってたから早いからこなせてるところがあるんでそれが一番私にとってはラッキーな事だったと思うんですけど。
専門の油絵の授業に入ると東村さんは思わぬ壁にぶつかります
それぞれなんかスペースが与えられている?そうですね。
なんか一区画ずつスペースもらって。
だからここだったら私がここの主でここから入ってこないでねみたいなここから入ってきたらあかんでみたいな感じでテープ貼って陣地取りしてやってましたね。
なんか自分の城みたいですね。
そうなんですよ。
すごいうれしくって。
結構だって広いですもん。
アパートの部屋より広いぐらいじゃないですかこんなもらったら。
ここで思う存分制作をしなさいという事でもらうんですけど。
油絵の具って乾かないから出しっ放しにできるんですよね。
このにおいを嗅ぐと思い出す事とかあります?焦って明日までに提出しなければいけないから焦って焦って描くんだけど乾かないから失敗しちゃって上に塗ろうと思ってもベチャベチャしてるからどんどんどんどんどつぼにはまっていくっていうか迷うとねどんどん色が濁っていっちゃうんですよね油って。
すごいだからほんとに難しい。
東村さんは当時の大学生活を漫画「かくかくしかじか」の中でこう描いています
楽しみにしていた大学生活が地獄の4年間だって表現していますよね。
どうして地獄だと?やっぱり描きたいものが見つからないっていう地獄なんですけど。
平たく言うと。
絵が描きたくってあんなに一生懸命頑張ってやっと入りたい大学に入って油絵の勉強を好き放題できる事になったのにふと気付いてみたら真っ白いキャンバスの前に立つと「あれ?私何を描きたいのかな」っていうふうにすごい迷いが出てしまって思いどおりに絵が描けなくなっちゃったんですよね。
入学してすぐ。
なんか楽しくなくなっちゃって。
絵を描く事が。
例えばデッサンならできるんですよね。
これをきれいにそのまま写実的に描きなさいって言われると割と楽しく描くんですけどそうじゃない自分の描きたい作品を表現として芸術として一枚の絵にしろって言われた時に何にもなかったんですね自分の中に。
それに入学してすぐ気が付いてやばいって思って。
周りの同級生たちって描きたいものがあって入ってきてるからすごい作品をどんどん描いていくんですよ自由に楽しそうに。
超かっこいいんですよ見ててそれが。
「私こんなのできない」って思ってそれで結構割と暗い気持ちで過ごしてたのを思い出します。
このアトリエに来ると。
もう色が選べないんですよね。
最初に何色塗るかも決められないんですよ。
黄色なのか赤なのか青なのかを決められないんですそれすらも。
苦痛です。
いやもうすっごい苦痛でした。
大きい絵を描かなきゃいけないのが苦痛で苦痛でしょうがなくって。
いや焦ってましたずっと。
明日にはすごいこれが描きたいってものが舞い降りて明日は描けるかもしれない明後日は描けるかもしれないって思いながら4年間終わるみたいな。
私無から…無いゼロから何かを生み出すって事ができない人なんだって事を痛感したんですよここに来て。
無からどんどん生み出してる人たちを横で見て「ああ私無理だわ」と思って。
だってできないもんって思って。
ないもん自分の中にって思って。
描きたいものが見つからない。
目の前にあるものを描くだけでは駄目なんですか?それがダサいんじゃないかなって思っちゃってやっぱ若いからもっとかっこいい事しなきゃいけないんじゃないかなとかもっと天才っぽい事しなきゃいけないんじゃないかなとかもっとみんながワッと思うような事をしなきゃいけないんじゃないかなとかっていうので見え張っちゃってて描かなかったんだと思うんですけどね。
私選ばれた人じゃねえなって事に気が付いて。
ほんとなんかただそれって感じですね。
選ばれし者ではないぞみたいな。
天才じゃない自分が。
油絵においては凡才だっていう。
東村さんは油絵制作の授業になるとアトリエを抜け出します。
仲間と飲み歩きサークルでのバンド活動に熱中するようになりました。
アトリエでの自分の居場所を失っていきます
みんながグループ展やったり個展やったりすごい精力的に学生なのに作家として活動してる中で私はいつもアトリエに漫画を持ち込んで読んでたかもしれないですね。
そうなんですか?なんか積んで読んでましたね。
でもねよかったのかなと思います。
今日久々に来てこうやってアトリエ見るとここでがむしゃらにやってたら今頃息切れしてたのかもって思ったり。
あとやっぱここでがむしゃらにやんなくって後ろめたく過ごしたからこそ今頑張れるっていうのもあるから私にとってはほんとにやっぱ漫画家になったとしてもここで4年間油絵を勉強したのっていうのはもうほんとに私の核の部分だし「原点」って言ったら美大の先生方に「お前が言うな」と言われそうですけど私の原点がこのアトリエにあるといっても過言ではないと私は思います。
このころ東村さんが熱心に足を運んでいた場所がアルバイトをしていた古本店です
いろいろ漫画に詳しくなってすごい…あれ?それが今これ。
あっこれ?え〜!ジム?ジムに変わったんです。
ジム?ウッハッハッ!どうやら9年ほど前ぐらいに変わったらしいんです。
ジムになっちゃってんの!?え〜すごい。
でもすごい大きい古本屋さんだったんで。
なんで古本屋でバイトしようなんて思ったんですか?漫画がタダでいっぱい読めるっていう。
あとね要らない漫画もらえるかなとか思って。
もう浴びるように漫画を読めた場所ですねここが。
漫画が大好きになってそれでやっぱ私には漫画しかないなってすごい再確認できた場所ですね。
油絵には身が入らぬままに4年間が過ぎ卒業の時期を迎えます
あんまりここにじっと座って真剣に描くって事はね本当に卒業制作ぐらいの時までやらなかったかもしれないですね。
卒業制作は頑張んないと卒業できないからさすがにやばいと思って頑張った記憶がありますけど。
さあその卒業制作ですけどねご用意いたしました。
あ〜これ実物は宮崎の実家の納屋みたいな所に入ってるんですけど。
懐かしい。
タイトルが「閑日月」。
これ意味とすると?暇で何をする事もない何もしなくていい月日みたいな意味だった気がするんですけど。
苦しんでた4年間をそのままタイトルにしたのかなと?でもそうですね。
もうね何も考えたくない何もやりたくないがむしゃら無理みたいな感じの卒制だと思いますよ。
金沢で4年間暗い気持ちで過ごして4年目の卒業制作がこれっていうのが暗くないですかだって。
暗いというより無表情だなっていうのが…。
ハッハッハッ。
もう何も考えたくないっていう。
暗いな〜。
大学を卒業後東村さんは絵の世界から遠ざかります。
ふるさと宮崎に戻り電話会社でOLとして働き始めます
それでも漫画家としての夢を諦めきれず仕事のかたわら漫画を描き出版社に投稿します。
これがデビュー1作目となります
その後数々のヒット作を生み出しトップ漫画家への階段を駆け上がります
人気の秘密は東村マンガ独特の個性豊かなキャラクターたちです
「ママはテンパリスト」。
一人息子ごっちゃんとの育児生活を描いたドタバタコメディーです
「海月姫」は型破りな登場人物が勢ぞろいする東村マンガの真骨頂
しまいには恩師までキャラクターとして登場させました
私の漫画に出てくる人って全部実在の人物をモデルにしてて実在のモデルがいないキャラクターは多分ゼロだと思うんですけど。
もう言い切れるんですけど。
それぐらい…。
だからアシスタントとかは「先生これどこどこ編集部の誰々さんですよね。
いいんすか?勝手に描いちゃって」みたいな。
「いいよいいよ別に。
分かんないから」っつって「名前変えてるから大丈夫だよ」とかって言うんだけど電話かかってくるんですよね。
「これ僕ですよね?」みたいな。
その時にやばいってなって。
すっごいひどく描いてるんですよ。
「いや違う。
ちょっと見た目だけ似せてるけど違いますよ。
こんなんじゃないですよ」って必死で言い訳して切って。
バレたみたいな感じで。
全部実在の人を勝手に描いてますね。
じゃないと面白くないし描いてても面白くないしキャラクターが生きないっていうか生きて動いてくれないので想像で作ったキャラクターだと。
人物のどこを捉えてキャラクターにするのか私を描いてもらいました
じゃあ懐かしの…美大時代に使っていたこの8Bの。
8B?結構ね5B6B8Bみたいな感じで。
私のいつもの漫画のタッチでいいですよね。
なんか顔を似せるっていうよりもなんか立ち方とか立ち姿とか。
なんだろうな全体の醸し出す雰囲気を描くみたいな感じかな。
面白くならないんで。
荒井さんのなんかテンション高い感じを…。
私の中ではこういうキャラ。
ありがとうございます。
どうでしょう?ありがとうございます。
どこを捉えてるんですか?目ですかねやっぱね。
目とあと輪郭。
なんか骨と皮膚が近い感じっていうのかスリムでいらっしゃるから。
先ほど全体的な雰囲気って言ってました。
雰囲気ってどうやって嗅ぎ取るものなんですか?なんか立ち姿っていうか立ち方。
姿勢っていうんですかね。
だからこうやって立ってる人とこうやって立ってる人がいてやっぱこうやってる人をスッと描いても似ないんですよね。
顔がどんなに似てても。
やっぱ全体の背骨の感じとかで。
それは美大時代にさんざんクロッキーとかデッサンで人体をひたすら描く訓練をしたのでそういうふうに見れるっていうのはあると思うんですよね。
人の事よく覚えていらっしゃったりとか名前もきちんと覚えていたりそのインプット能力が非常に高いと私今回思ったんですけどそういったものって…?興味の対象がそこっていうだけで私だから歴史の年号とかも一個も覚えてないしお勉強も全然覚えてないし英単語も覚えてないし何にも覚えてないんだけど人の顔とキャラだけは忘れないっていうのがあるんで興味がある事は覚えるって事なんじゃないですかね。
私の場合は…かもしれないけど身の回りで起こった面白い事とか身の回りにいるなんかちょっと変わった人とか個性的な人とかかっこいい人とかかわいい人とかうちの両親とかもそうだけど見て面白いなって思って描きたいなって思って紙に描くっていう作業だから私はみんながやってる面白い事を記録するみたいな感じなんですよね。
記録して描いてるみたいな。
今年東村さんはこれまで手がけた事のないジャンルの漫画を描き始めました

戦国時代を舞台にした歴史漫画です。
上杉謙信が実は女性だったという仮説をもとに少女が軍神へと成長していく物語です
東村さんは美大時代によく鑑賞した石川の伝統工芸九谷焼を作品に織り込もうとしています。
金沢で培った美意識を作品に生かす新たな挑戦です
大学の時は絵からやっぱね逃げて逃げて嫌だなと思いながら描いてたけど今はやっぱ楽しいので。
漫画の絵の方が自分に合ってて楽しいので何ていうのか逃げずに向き合って楽しく迫力のある絵を描くっていう。
大学の時にできなかった事を漫画の紙の上でできたらいいなって思ってますね。
漫画家としての居場所を見つける事ができた東村さん
苦しかった美大時代の4年間を受け入れその時の自分を東村マンガの世界として描いています
私やっぱすごい美大が…金沢美大が今思うとなんか好きだったんですよね。
好きなんだけどなんかはまんないっていうね。
その苦しさをやっぱ4年間味わったから何ていうのかなやっぱ私の描く漫画の主人公って割とそういう感じになっちゃうっていうか嫌じゃない。
だって嫌だったらそこから逃げちゃえばいいしやめちゃえばいいんだけど。
なんか迷ってるみたいな人をやっぱ描いちゃうんですよね。
2015/09/23(水) 06:30〜06:53
NHK総合1・神戸
インタビュー ここから「東村アキコ」[字]

今年マンガ大賞を受賞し、作品が相次いでドラマ化される人気漫画家・東村アキコさん。金沢で苦しんだ学生時代があったからこそ未来がひらけた。東村さんのここからを聞く。

詳細情報
番組内容
今、最も注目を集める少女漫画家・東村アキコさん。今年、自叙伝的漫画「かくかくしかじか」がマンガ大賞2015を受賞。去年は「海月姫」が能年玲奈さん主演で映画化。今や描く作品全てがヒットする東村さんだが、漫画家を目指して入学した金沢美術工芸大学では、全く絵が描けず苦しんだ。自分の描きたいものが分からなくなってしまったのだ。金沢市の思い出の場所を舞台に、東村さんのターニングポイントに迫る。
出演者
【出演】漫画家…東村アキコ,【きき手】荒井匡

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – インタビュー・討論
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
アニメ/特撮 – その他

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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