東京の新名所スカイツリー。
その足元300軒以上並ぶ店の中にお目当てのイッピンが。
(がま口を閉じる音)「パチン!」の音でおなじみのがま口。
今ポップなデザインやユニークな生地のものが次々に登場しています。
ここはそんな新しいがま口が並ぶ専門店なんです。
(客)柄がすごく現代風で。
このがま口はみな京都で作られたもの。
レトロでかわいいと人気なんです。
こちらに集まっているのはがま口を愛してやまない皆さん。
話題の中心は…がま口のバッグ。
ファスナーだとこっちを持って閉めないと駄目なので開け閉め楽です。
ビジネスバッグとしてもワンタッチで開け閉めでき中にたくさん入るので便利なんだとか。
こうやって。
「がま口!」って。
斬新っていうか。
ちょっと俺だけこんないいもん持ってんぞ〜みたいな。
今がま口はオシャレなバッグへと進化し身近な暮らしの中で大活躍しているんです。
今回は京都で作られるがま口の魅力に迫ります。
京都にやってきのはオシャレアイテムに目がない豊富なバリエーションで話題の専門店へ。
いっぱいあるよ〜。
店のコンセプトは「現代のライフスタイルにあったがま口」。
500個以上の製品が並びます。
こんなにいっぱいあるんだ。
ちょっとこれはたくさんありすぎるぞ。
ちょっとどこ見てもがま口。
働く女性に好評なのがこちら。
(店)A4サイズがしっかり入るので通勤とか仕事にも使って頂けます。
パカッと開けやすいのでパッと取り出せるっていう。
この閉め心地。
癖になりますよね。
そうなんですよ結構。
何度もやっちゃったりして。
「パチンが好きです」っていうお客様も結構多いですね。
うん。
どれが一番人気ですか。
こちらのがま口ポシェットなんですけども。
おかばんになっていまして本当にそのままがま口のお財布を大きくしたみたいな形で…。
本当!ちょっと面白い形なんですけど。
がま口の使い勝手の良さはそのままに。
流行の迷彩柄を楽しめるバッグ。
入荷してもすぐに売り切れるんだとか。
でも人気の秘密はもう一つ。
本当にひとつひとつ手作りしてるんですよ。
あそうなんですか。
はいそうなんです。
生地の裁断から縫うところから口金を入れるところまで。
職人さんたちが手作りされているんですか。
ひとつひとつ手作りになっていますね。
へぇ〜。
このバッグにどんな技が隠されているんでしょうか。
作っている会社を訪ねます。
こんにちは。
おじゃま致しま〜す。
こんにちは。
こんにちは。
社長の奥敏郎さんが案内してくれました。
こちらでは一日におよそ600個のがま口製品を生産。
裁断縫製検品などの工程を33人の職人が分担しています。
作られるがま口の形はさまざま。
でも作りは同じ。
縫製された布の袋と鉄の部分・口金で出来ています。
生地があって金具があってどうにかして形になるんですものね。
そうですね。
そこがちよっと重要なんです。
重要なんですか?このバッグは肩にかけて使うため口金には大きな重さがかかります。
布と金属という異なる素材をどのように接合して丈夫ながま口を作るんでしょうか。
はじめまして中越と申します。
よろしくお願いします。
見せてもらってもいいですか?はいどうぞ。
工房で一番のベテラン林一男さん。
半世紀近くがま口作り一筋の名人です。
道具っていうのを見せてもらいたいんですけど。
これなんていう道具ですか?「やっとこ」いうてるんですけどね。
すごい年季入ってますね。
はい40年ほど使ってます。
ハハハ。
口金を付けるのに欠かせないやっとこ。
林さんは自ら改良を重ねてきました。
この白いひもは何ですか?これはこれ以上開かんように。
ほぉ〜。
自分の手に合わせた開きにしとるわけなんです。
この愛用の道具を駆使して口金をつけるんですが。
それはもうやっぱり絶えず頭の中にもありますね。
この中にまぁ2キロのものを入れられたらこれに全部力が入る。
うん。
まず登場するのが油性の糊。
口金の溝に塗り布を差し込み固定するんです。
しかしただ布を入れればいいのではありません。
ここからが腕の見せどころ。
作業時間は糊が乾くまでの10分以内。
やっとこを使い幅4ミリの口金に布を差し入れます。
一見布を無造作に入れているように見えますが。
中が空洞になっていてここに布をこうやって押し込んでここにボンドが入ってギュってなって。
そうです。
口金に布を差し込む際中で二重になるよう畳んで入れていたんです。
隙間をなくし糊との接着面を最大にするためです。
しかも常に一定分だけ入れていかないとバッグの形が崩れてしまいます。
こうして布はきれいに収まりました。
でも…。
触ってみていいですか。
はい。
これを引っ張ってもん〜取れそうにはないけどでも確かにまだ隙間はあります。
はい。
ここ分かりますか?実はここからが丈夫なバッグを作る技の真骨頂。
口金と布の僅かな隙間に紙ひもを入れ強度を高めるんです。
直径は5ミリ。
口金の幅4ミリより太いものを使います。
わ〜。
こんなものが詰まっているとはつゆ知らず。
あ〜そうですか。
生地の上から押し込みますからぎちっと押さえられるわけですね。
溝よりも太いひもをギューギュー押し込んで口金と布を更にしっかり固定するんです。
林さんまたやっとこでひもをどんどん入れていきますが試しに中越さんがやってみると…。
なんか傷つけそうで怖い。
線の真ん中を…。
ん?比べるとこちらはシワがありませんが中越さんのほうはシワだらけ。
どうしてこの差が生まれたんでしょうか。
直角に持っていくいうことですね。
道具を。
ポイントはやっとこの角度。
布に直角に当て刃をまっすぐ口金に入れなければならなかったのです。
こう入ってくると裏生地を一緒にずっと突き上げていくんですよ。
こういうふうになっていくんですよね。
それでシワが入りやすい。
直角に当てないと刃が布を溝にひっぱり込みシワになってしまうのです。
林さんが極めたやっとこ使い。
溝は見事に布と紙ひもでみっちり埋まりしかもシワひとつありません。
引っ張ってください。
いやこれはもうどんな力をかけても大丈夫そうです。
全然ガチガチです。
ガッチガチ。
それで糊が乾くともう。
完全に。
そうです。
はい出来ました。
完成!はやくきれいに?はい。
それがモットーですか?あ…。
時間をかければ誰でも出来る。
はい。
そんなんしたら商売ならしません。
それは常に…。
勉強ですね。
半世紀近く鍛え続けた手業。
丈夫ながま口バッグはその結晶です。
実はがま口は西洋生まれ。
貴婦人が舞踏会などで使うバッグでした。
日本に伝わったのは明治時代のこと。
ハイカラな魅力をたたえつつ和風に装いを変えてたちまち普及していきました。
もともと袋物の職人が多かった京都では着物のはぎれを使ってがま口を盛んに製作。
身近な小物として定着しました。
最近では携帯電話やパソコンを収納するがま口など新たな製品が次々と登場しています。
去年はパリの国際的な見本市に出品。
ポップなデザインが評判となりヨーロッパ6か国での販売が決まります。
がま口の使いやすさとメイド・イン・キョウトの信頼性も評価されました。
この時活躍したのがセリーヌ・セバリーさん。
スイス出身で2年前にがま口製作会社に入社しました。
ヨーロッパで見かけることが少なくなったがま口の魅力をもう一度伝えたい。
セバリーさんの願いです。
西洋からやってきたがま口は今再び世界に羽ばたこうとしています。
京都には個性的ながま口専門店があります。
いきなりがま口の口金だけが。
あ!ここにいっぱい置かれてますよ。
口金は100種類以上。
ひとくちに口金といっても形や大きさはさまざまです。
ここではがま口はもちろん口金だけを買うことが出来ます。
店主の松井さんが変わった口金を見せてくれました。
親子とかね。
親子?本当だ親子!親子で。
玉の形に合わせてちょっとこういう。
ちょっと洋風。
そうですねぷっくりした形で。
かわいい形に仕上げてますね。
う〜ん。
この富士山みたいなこの形もかわいらしいですね口金が。
変わってますね台形。
台型って言いますけどね。
どの口金が好きかっていうので選ぶっていうことも出来ますね。
そうですね。
さてここで松井さんからがま口の基礎的な問題。
これね口金ですけどパチンと音鳴りますけれどもどこから音鳴ってるか分かりますか?
(音)パチン。
(音)パチン。
えへ?どこってここです。
…って思いますよね。
はい。
実はね音っていうのはこの玉からではなくてこことここがこう重なり合うっていうかパチンとする時の音なんです。
ここの部分なんですね。
そうですね。
実はフレームとフレームがこういうふうにパチンと。
パチンと合わさる瞬間。
ちゃんとパチンと閉まったっていう合図になりますね。
きちんと閉まる時に鳴る口金の音。
実は使い心地と密接な関係があります。
閉まり具合の異なる3つを比べました。
(音)パチン。
うん悪くないこれ。
悪くないですか。
(音)ペチッ。
これ駄目ですね私。
ちょっとゆるいな。
あ…ゆるいですか。
こう閉まった状態でもここが爪が入りますよ。
(音)パチッ。
固いなこれ。
イテテテテ。
音の違いを聞いてください。
ちょうどいいのは…。
(音)パチン。
次にゆるいのは…。
(音)ペチッ。
キレが無いですね。
固いのは…。
(音)パチッ。
音もどこか力んだような感じです。
ではもう一度。
(音)パチン。
(音)ペチッ。
(音)パチッ。
分かりましたか?音や使い心地の差は実は口金についた玉に秘密があります。
玉同士の微妙な重なり方。
僅かな調整で閉まり具合が変わります。
あのゆるいやつを…。
ゆるかったやつ。
ゆるいやつは離れていたのでそれをもうちょっと戻す。
戻すというか寄せるね。
寄せる。
これくらいかな。
はい。
(音)パチン。
あ…いいですね。
はい。
ぴっちり来てます。
本当にちょっとなんかささいな力加減でこんなに変わる。
はい。
この心地よい音がね本当にちゃんと調整ができてたらいい音が鳴るという。
うん…。
お客には調整してから渡すのが京都のがま口屋さんのお約束。
小気味よい響き。
(音)パチン!がま口ならではの魅力です。
着物姿の中越さん。
手に持つのは色合いと柄が印象的ながま口。
洋服にもピッタリ。
どんなスタイルにも合う新しいがま口バッグです。
作ったのはこちら。
華やかな京友禅を中心とする染め物屋さん。
鮮やかな色を駆使しながらオリジナルの柄を開発してきました。
(社長)どうぞこちらへ入ってください。
失礼します。
わ〜たくさんありますね!いろんな柄が。
これごく一部なんですけど。
これでもごく一部なんですか?え〜!この会社の三代目…ユリきれい。
大胆ですね。
そうですね。
デザインの取り方は大胆ですね。
だってもう花が外にはみ出ている。
実はこの柄には京都の伝統が凝縮されているんです。
お〜木箱に入ってます。
見せてくれたのは明治時代に描かれた着物の図案集。
「正繪帳」って言います。
これ「絵」なんですか?これ「絵」ですね。
へぇ〜わ〜。
明治32年かな。
ようは見本帳みたいなものなんです。
それで全部手書きです。
すごいですね。
これ何種類の図柄が載ってるんですか?勘定したことないので…。
勘定してください!分からないですけど。
勘定していただくと5,000もの図柄がありました。
大塚さんは家に伝わったこの図案集の中からがま口バッグのモチーフを選び取りました。
例えばこの柄。
絶対これ。
この部分ですよね。
そうですそうですこの部分です。
ええこの部分です。
一部分なんだほんの。
デザイン化にあたっては柄をどう切り取り何色にするか試行錯誤しました。
主役であるタンポポを際立たせるためつくしを消しました。
花は目を引くオレンジ。
葉っぱは落ち着いた焦げ茶色に。
決め手はタンポポがはみ出すくらい。
大胆に切り取ったこと。
他にもテッセンはジーンズにも合うビビットな色に。
食器の柄はこんな不思議なデザインに。
伝統の柄は鮮やかな色に染められがま口バッグとして生まれ変わりました。
図案とか絵とかいうもんが良いものが多くてですねいろんな人に見ていただいてできたら図案集に眠っていた宝物を現代の感性でよみがえらせた新しいがま口。
京都の豊かな文化を持ち歩くそんなイッピンです。
今京都で話題の小さな工房。
オーダーメイドでがま口を作ってくれます。
月に50個を手がける小川大介さんです。
こんにちははじめまして。
中越さん自分だけのがま口を作ってもらおうと訪ねました。
小川さんのがま口はとにかく生地が個性的。
中もこれピンクですよ。
(小川)はい。
なんかちょっとこう奇抜な色もいいですね。
開けた時だけでも楽しめるようにと思ってすべて裏地が全部違う生地で仕立ててあるんですね。
開けると目に飛び込んでくるかわいらしい柄。
「裏地まできめ細やかに」。
小川さんのポリシーです。
工房には世界各地の生地300種類以上が置いてあります。
お客はその中から好きなものを選ぶんです。
白とグレーと…。
(鼻歌)それもアメリカの生地ですね。
こっち行くんだったらこっち行っちゃおうぜ。
なんかこの魅力にやられているかもしれない。
それ裏地になら使えるんで。
表がメルヘンだと私恥ずかしくて使えないんですけど。
内側だったらこういうメルヘンもありだなって。
次は選んだ生地のどこを使うかです。
一番好きなのはブランコに乗る少女木の。
いや見ていたら子ヤギの世話をする二人が一番かわいく見えてきた。
そしたらブランコとちょうど入りそうですよ。
じゃあ女の子シリーズで。
女の子シリーズで行きましょうか。
はい。
切り取る場所が決まったら次は裁断です。
これ切ってしまったら生地を元どおりに戻すことは絶対に出来ないので。
うん。
表地と裏地を丁寧に縫い合わせます。
うわこれ大変。
じゃあ口金を入れていきますね。
いよいよがま口の!がま口があいた時にこっちが見える方がうれしいかこっちが見える方がうれしいか。
長く使ってほしいからこそ細かな点まで話し合うのです。
やっぱりここが見たいです。
お客の目の前で仕上げるのが小川さん流。
こんな感じで仕立て上がりました。
ご覧になってみてください。
は〜いありがとうございま〜す。
じゃら〜ん!うん。
かわいい。
本当にすてきです。
世界にひとつ。
一点ものですから。
世界にひとつだけの私のがま口。
作ってもらっちゃいました!大きな口の中には作り手と使い手の思いがあふれるくらいに詰まっています。
身近なものだからこそ丁寧に心を込めて。
姿を変えながらも懐かしい音色はそのままに。
がま口は日々の暮らしに優しく寄り添います。
2015/09/23(水) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
イッピン「パチンと響く かわいいレトロ〜京都 がま口〜」[字][再]
今、京都生まれの、かわいい“がま口”が大人気。パチンの音はそのままに、おしゃれバッグへと進化した。丈夫に仕上げる技や、話題のオーダーメイドを中越典子が徹底取材。
詳細情報
番組内容
今、京都生まれの、かわいい“がま口”が大人気。ちょっぴりレトロ、でもおしゃれでキュート!どこかなつかしい“パチン”の音と、大きく開く使い勝手の良さはそのままに、華麗なバッグへと変化をとげた。職人が半世紀をかけて鍛え上げた、美しく丈夫に仕上げる技とは?西洋に生まれた“がま口”が、日本で育ち、また帰ろうとしている?使い手が感涙にむせぶ“世界に一つのオーダーメイドがま口”とは?中越典子が入魂のリポート。
出演者
【リポーター】中越典子,【語り】平野義和
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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