米国と中国は、実に深い対立点を抱えつつも、現実的な共存の道を手探りし続けるほかない。そんな苦しい思惑が今回も色濃くにじんだ。

 米・ワシントンであった両国の首脳会談である。かつてない緊張の中だったが、何とか進展を演出して終わった。

 最大の争点は、サイバー空間での犯罪と国家のかかわりである。今回は、企業の知的財産などを盗む犯罪への対策で協力することで合意を表明した。

 サイバー問題はいまや、世界の平和と安定を脅かす難題である。米中の合意がどう履行されるかは不透明だが、少なくとも両政府が攻撃を実行も支援もしないと約束した意味は重い。

 これを第一歩として対話を進め、ネット空間での国際規範づくりをめざしてもらいたい。

 米国では、産業情報や政府の個人情報が大量にネット上で盗まれる事件が相次ぎ、中国政府・軍の関与が疑われている。

 中国は全面否定しているが、米国は軍事的な脅威としても重大にとらえ、中国に制裁を科す論議も高まっている。

 一方、中国側が「自分たちも被害者だ」とする主張にも理がある。サイバー技術で優位に立つ米政府の情報機関が、ネットに侵入して世界規模で大量の情報収集をしてきたことが近年、明るみに出たからだ。

 だが、北朝鮮など第三国の疑いが強いネット攻撃も起きている。サイバーの無法状態が続くことは、米中自身に利益とならないことを悟るべきだ。

 核問題での核不拡散条約のような、基本的な国際ルールがサイバーにも必要だろう。米中の協力がその機運を高める契機になることが望ましい。

 米中間では、サイバーの論点は安保・経済に限らず、人権や民主化問題にも及ぶ。国家が通信や情報を規制する中国では、フェイスブックやツイッターは禁じられ、外国企業による通信・報道にも規制がある。

 開かれたサイバー空間の原則を米国は唱え、中国は「サイバーにも国家主権が及ぶ」と反論する。そこには、自由と統制にかかわる根源的な価値観の対立がのぞく。

 人権をめぐる米国の懸念に対し、中国は今回も内政問題として受け入れなかった。サイバーと並ぶ争点である南シナ海問題でも、歩み寄りはなかった。

 習近平(シーチンピン)氏は会見で、米中は「世界の平和に共通の責任を負う」と述べたが、その自覚を行動で示すべきだ。古い覇権思考から脱皮した21世紀型の大国像を米中双方が示してほしい。