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■変革―証拠改ざん5年:上

 「ここから先は、特捜部長であっても検察官は一人では立ち入れません」

 大阪地方検察庁が入る大阪中之島合同庁舎(大阪市福島区)16階。表札のない部屋の前で、特捜部の事務官がそう説明した。ドアを開けると約50平方メートルの一室にパソコンやモニターがずらり。事件で押収したパソコンやスマートフォンのデータ解析を担う最前線だ。

 今月11日、特捜部が報道陣に公開したデジタルフォレンジック(DF)室。DFとは「電子鑑識」の意味だ。事務官が模擬のスマホを特殊な機器につなぐと、データのコピーは約10分で完了した。消去されたメールや通話履歴も復元できる。位置情報の履歴から、スマホの持ち主がいつどこにいたのかまで分かる。

 この部屋ができたのは、2010年9月に発覚した当時の特捜主任検事(48)による証拠改ざん事件がきっかけだ。郵便不正事件で押収したフロッピーディスクの日付データを捜査の見立てにあうよう自らの手で書き換えていた。再発を防ぐため11年6月、大阪、東京、名古屋の各地検特捜部にDF室が置かれた。

 司法界に激震が走った前代未聞の事件。その反省から本格的に始まったDF捜査は、特捜部の捜査手法そのものをがらりと変えた。

 大阪地検が昨年摘発した徳島大病院汚職。捜査の焦点は、医療情報システムの担当部長が業者からもらったとされる現金約300万円の受け渡しを裏付けられるかだった。金銭の授受は毎月のようにあり、当事者も日時や場所をあいまいにしか記憶していない。

 そこで威力を発揮したのがDFだ。業者のパソコンに残る金銭の出納記録やメールの内容を解析し、立ち寄った飲食店や高速道路の領収書と突き合わせる。収賄側の供述では「昼ごろ」「自宅周辺」にとどまっていた授受の状況は、「午後0時43分」「自宅近くのファミリーレストラン」と詳細に判明した。

 東京地検が手がけた小渕優子・前経済産業相の政治団体をめぐる政治資金規正法違反事件。昨年10月、小渕氏の関係先にあった複数のハードディスクに電気ドリルで穴が開けられていたことが明らかになった。資金のデータは別のパソコンにコピーが保存されていたが、壊れたディスクの元データと同じかどうかは分からなかった。

 壊れたディスクからDFで元データの一部を読み取り、コピーのデータと照合。コピーは加工のない本物と確認でき、資金の流れを解明するのに役立った。「今の時代、デジタル証拠の重要度は増している。特捜部が自ら分析できるようになったのは大きな武器だ」と捜査幹部は話す。

 証拠改ざん事件を生んだ郵便不正事件。当時の厚生労働省係長(46)が実態のない障害者団体への偽の証明書発行をめぐってうその自白を迫られ、「上司の指示」を認めた。その結果、現厚労事務次官・村木厚子さん(59)の冤罪(えんざい)事件に発展した。検察のもう一つの課題。それは「供述至上主義からの脱却」だった。