シリアってどんな国?ニュースでは伝えない騒乱前の平和な国のエピソード
こんにちは。TRiPORTライターのへむりです。
皆さんは中東の「シリア」という国に対して、どんなイメージを持っていますか? 最近、世界遺産パルミラがISに破壊されたり、シリア難民の受け入れについてニュースになったりと、「怖い国」「危険な国」「治安が不安定な国」というイメージがあるのではないでしょうか?
僕は2005年に旅人としてシリアを訪れ、2008年から2010年3月まで青年海外協力隊として、シリア北部の町、アレッポ県マンベジ郡で活動をしていました。そこで実際に体験した、決してニュースでは伝えてくれない「シリアってこんな国だった」というエピソードを紹介します。
Photo credit: Nakano Takayuki「今だから見て欲しい。破壊される前に訪れたシリアの世界遺産パルミラ」
宿に置き忘れた腕時計が返ってくる
世界遺産パルミラ。友人がシリアに遊びに来てくれるたびに、一緒に観光しに行きました。列塔やローマ劇場など、巨大で歴史ある遺跡に、行くたびに心がワクワクさせられました。写真ではわかりにくいかもしれませんが、本当に大きく美しく、重機がない時代にどうやって作ったんだろうと不思議に思います。
ある日、観光を終えて、首都ダマスカスにバスで移動したのですが、パルミラの宿に腕時計を置き忘れてきたことに気付きました。電話番号を知っていたので、駄目で元々だと思いながら電話してみると、「今から、そっちに向かうやつがいるから持って行かせるよ。宿はどこ?」というまさかの返事。パルミラとダマスカスは、バスで4時間の距離です。
そして、その日の夜に、宿にシリア人の若者がやってきて、僕に時計を手渡し、チップも要求せずに「良い旅を!」と去って行きました。バスに、お金の入った手帳を置き忘れたときも、「お金入ってたぞ。気を付けろよ」と、現地の初任給の半月分のお金に気付きながら、笑顔で返してくれた人に出会ったこともあります。
Photo credit: Nakano Takayuki「シリア図鑑 ダマスカス編 〜旅人たちも協力隊も惚れた国。意外にオシャレな都会の景色〜」
重い荷物を持っていると助けてくれる
シリアは農作物がよく採れます。ニンジン、トマト、キュウリ、キャベツ、ズッキーニ、ナス、オクラ、タマネギ、ニンニクといった野菜類は、1kgで40円程度で手に入ります。(旬によって値段は変わります)
果物も安く、桃・スイカ・メロンなどは日本のもの以上に甘くおいしいですが、これも安く、3kgのメロンや10kgのスイカが、200円くらいです。大家族で暮らすことが多いため、kg単位で売っています(1/2kg、1/4kgでの購入も可)。なので一度買い物に行くと、すごい量を持って帰ることになります。
それを持って歩いていると、後ろからバイクに乗った兄ちゃんがやってきて「家はどこ? 後ろに乗りなよ」と声をかけてくれました。そして、僕の家の前まで乗せてくれると、「じゃあね」と来た道を引き返して行きました。重そうに荷物をかついでいるとき、誰も手伝ってくれないと、「あれ? 今日は親切じゃない!」と思ってしまうほどに、日常的に多くの人が助けてくれました。
Photo credit: Nakano Takayuki「シリア図鑑 田舎生活編 〜協力隊で生活していた場所ってこんなところ〜」
隣の人がいつの間にか自分の運賃を払ってくれる
目的地の場所がわからず、キョロキョロしながら歩いていると、声をかけられます。「どこに行くんだ?」と。目的地をいうと、ミニバスを停めてくれて「この日本人が◯◯に行きたがっているから、ついたら降ろしてやってくれ」と乗っている人に言い、去って行きました。
「大丈夫かな?」と思っていると、運賃を運転手から求められました。財布を出そうとすると、隣にいたおじさんが「あ、君の分は俺が払うから気にすんな」と僕に言いました。「見ず知らずなのに、なんで?」と聞いてみると「わざわざ日本から来てくれたのに、お金を払わすわけにはいかんよ」と言うのです。
そして「ここで降りるぞ」と、そのおじさんと一緒に降り、しばらく歩くと目的地に着きました。「せめてバス代だけでも!」とポケットを探りながら言うと、「ははは。俺に恥をかかせんなよ」と去って行きました。カッコイイ!
また、バスの中では男の人は必ず、女性や老人に席を譲るのですが、その譲り方がスマート。乗ってきた人を見て、絶妙なタイミングでサッと立ちます。僕も挑戦しようとしますが、周りのシリア人のスマートさに勝てません。ちなみに、譲られる人も「譲ってもらって当たり前」という顔で、お礼も言わずに座ります。
Photo credit: Nakano Takayuki「シリア図鑑 お店編 〜中東シリアでお世話になったお店〜」
褒めるとプレゼントしてくれようとする
褒め上手というのは大切な資質だと思います。しかし、シリアで褒めてしまうと「良い? じゃあ、あげるね」なんて言われることもしばしば。「これ、どう?」と聞かれたので、「素敵だね~」と言っただけなのに!
バス代のときもそうですが、人にプレゼントすることが大好きなシリア人。お菓子屋さんや、マテ茶を初めて見たときに、「これ何?」と聞いたら「試してみな」と飲み食いさせてくれます。しかも、「もう買わなくていいや」と思うくらいの量です。「おいしい!」と素直な感想を言うと、すごく嬉しそうにしてくれます。そして、さらにくれようとしてくれます。
暑い日に雑貨屋さんに行ったのに、財布を忘れてしまったときはジュースをタダにしてもらったこともありますし、オーダーメイドで服を作ってもらって、代金を払おうとすると「お金はもらえないよ。日本から来てくれたのに」と断られたことも。旅である「くれくれ」攻撃ではなく、「あげるあげる」攻撃。「どうやって恩返ししたらいいんだろう?」という幸せな悩みを抱く日々でした。
Photo credit: Nakano Takayuki「シリア図鑑 田舎生活編 〜協力隊で生活していた場所ってこんなところ〜」
遊びに行ったら、ご飯とパジャマがついてくる
僕が街中を歩いていると、呼び止められ、「こっちに来い!」と言われます。何の用かと思って行くと、「まぁ、座ってお茶でも飲んでいけ」と、甘い紅茶が出てくるのが、シリアでの日常でした。ミニバスで、隣の席に座ったおばちゃんと話しているうちに、「ここで降りて、私の家で昼ご飯を食べて行きな!」なんてことも。向かっている先があったので、丁重にお断りしましたが...。
ある日、仲良しの家族のところに行ったとき、お父さんに用事があったのですが、不在で、「待ってたらいいよ。すぐ帰ってくるから」とお茶と朝ご飯が出されました。やがて、お父さんが帰ってきて、次は昼ご飯が出てきました。そして食後のお茶を飲んでいると、渡されたのがパジャマ! 「今日はここに泊まるだろ?」と。まだ昼の2時なのに、その積極性に驚きました。
泊まった次の日の朝、僕が帰ろうとすると「なんで帰るんだ?」と止められます。「だって家があるから」と言うと、「ここもお前の家だ!」と言われ、連泊することも何度となくありました。その理由を聞くと、イスラムの教えで「旅人は神様の遣い」という考え方が根付いていて、旅人へ親切にすることは天国に近づく行為なのだそうです。一般的にイスラム教のイメージは本当にひどいこともありますが、僕が旅した中で親切を感じた国はどこもイスラム教の文化があるところでした。
Photo credit: Nakano Takayuki「シリア図鑑 古代都市アレッポ編 〜シリアの大阪(商業都市)。破壊される前に訪れた美しい世界遺産の町〜」
「親切」「優しい」「安全」の国シリア
僕にとって「親切」「優しい」「安全」の国の代名詞だったのがシリアです。騒乱前の犯罪率、人口当たりの殺人件数が、日本より低いほどでした。今のシリア騒乱は、本当に信じ難く、また元のような国に戻ってもらうことを願ってやみません。僕は、今起こっているのは内戦ではなく、外部からの干渉で引き起こされたものだと見ています。
もともと「怖い」「危険」「治安が不安定」な国が、今のような混乱状態になっているのではなく、日本以上に治安が良く、安定した生活をしていた、周りへの愛に溢れた人たちが、巻き込まれている騒乱だとしたら、報道されているニュースの見方が変わるのではないでしょうか。この記事で、シリアへの見方が少しでも変われば嬉しく思います。
ライター:へむり。
Photo by: Nakano Takayuki「今だから見て欲しい。破壊される前に訪れたシリアの世界遺産パルミラ」
シリアの旅行記はこちら
*Nakano Takayuki「今だから見て欲しい。破壊される前に訪れたシリアの世界遺産パルミラ」
*Nakano Takayuki「シリア図鑑 お店編 〜中東シリアでお世話になったお店〜」
*Nakano Takayuki「シリア図鑑 古代都市アレッポ編 〜シリアの大阪(商業都市)。破壊される前に訪れた美しい世界遺産の町〜」
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