2015.9.26 SAT
PHOTOGRAPHS BY KAORI NISHIDA
TEXT BY WIRED.jp_U
2020年に向けて、その先の未来に向けて、ぼくらはどんな東京を、そして社会をつくっていきたいのか。テクノロジーによる都市づくりの可能性を探る「NEW CODE」、“都市開発”を再定義する「NEW DEVELOPMENT」、新しい都市共同体のつくりかたを考える「NEW COMMUNITY」の3つの視点で未来の都市を考える1dayカンファレンスに、国内外から豪華スピーカーが集う。さらにスペシャルセッションとして、トラックメーカー・tofubeatsの登壇が決定! WIRED CITY 2015のために彼がつくった「未来のTOKYOのための音楽」を聴ける、ここだけのチャンスをお見逃しなく。詳細はこちらから。
──はじめに、林さんのこれまでのキャリアを教えてください。
もともとは建築家になりたくて、学生のころは図面と模型ばかりつくる毎日でした。いわゆる典型的な建築学生で、ヨーロッパの街や建築を見て回ったり、デザインコンペに応募したりしていました。
でも途中で、2つの理由から建築家になることは諦めることにしました。ひとつは自分の建築家としての才能に対する挫折。もうひとつは建築デザインの力に対する失望です。つまり建物というハコが、街や人に対してもはや大きな影響力をもち得ないんじゃないかとそのときは思ったのです。想いをもってデザインされたのではない、退屈でつまらない建物が街を埋め尽くしていく状況を見ながら、都市の風景は自分の知らない力学で動いているんだ、と考えたわけです。
そこで建築からは一度離れ、卒業後は経営コンサルティングの会社に入って、資本主義のど真ん中の世界に身を置くことになりました。そしてしばらくたったころ、それまでは自分のなかになかった「不動産」のビジネスという視点こそが、自分のもっていた問題意識を解決する糸口になるんじゃないかと気づいたんです。建物はどれも、「建築」でもあり「不動産」という資産でもある。その流通や経済価値に目を向けてみると、街をまた違った角度から見ることができると思い、会社を辞めてアメリカ・コロンビア大学建築大学院で1年間不動産開発を学びました。
──アメリカで学んだこと、気づいたことというのはどういうことだったんでしょうか?
アメリカでは、不動産の開発や再生を手がける事業家たちに、かっこいい・おもしろい人たちがいっぱいいました。スーツを着て投資を仕掛けているようなディヴェロッパーたちもクリエイティヴな発想をもって、デザイナーたちと一緒にひとつのチームとなって街の風景を変えていく。不動産ビジネスと建築デザインは重なるものなんだ、一緒に考えるものなんだということにわくわくし、どうしたら日本でも同じことができるんだろうと思いながら2001年に帰国しました。
帰国後は不動産ディヴェロッパーの会社に勤め、そこでのちの相棒となる吉里裕也と出会います。彼とともに「不動産とデザインの世界を行き来しながら何かおもしろいことをやろう」と決め、11年前に「東京R不動産」の運営や不動産のプランニングを行う会社、スピークを立ち上げて独立し、いまに至ります。
──現在はどのようなお仕事をされているのかを教えてください。
まずひとつは、不動産の再生や開発の企画・設計の仕事です。建物をどうすべきか?というシナリオメイキングを行い、それを具体的な事業やデザインに落とし込むプランニングです。線路が地下に埋まった後で地上の土地をどう生かすべきかとか、古いビルや古民家をどう再生すべきか、とか。われわれは投資会社ではないので、オーナーに対して提言したりプロジェクトを動かす仕事を請ける立場です。ぼくの場合は常に「王道」でなく「オルタナティヴ」を求められる立場なので、一般解でなく変化球として、これから求められる新しい価値観を表現できるようなアイデアを提示しています。
「東京R不動産」は不動産のセレクトショップサイトです。「レトロな味わい」「屋上/バルコニー付き」など、物件の個性を切り口として紹介することで人と空間のマッチングをする事業で、東京では十数人のメンバーが日々物件を探索しています。ぼく自身の仕事はそのマネジメント。兄弟サイトとして生まれた「団地R不動産」や「公共R不動産」、あるいは各地に派生した全国のR不動産のパートナーを含め、R不動産にかかわる人たちが自由とモチヴェーションを維持できるような場をつくることが最大のミッションです。
そして、“自分の空間を編集するための道具箱”というコンセプトで数年前に始めたウェブショップ「toolbox」の代表も務めていますが、これは人々が楽しく愛着の湧く空間づくりを支える仕組みとしてのマーケットプレイスであり、今後はプロダクトメーカーやクラフトマンのネットワークとして進化させていくつもりです。
──幅広いお仕事をされていますが、それらに共通する林さんの「軸」となる考えはどのようなものなのでしょうか。
やっぱりぼくは街と建物と空間が大好きなので、「ぼくらが住み、働き、遊ぶ都市のなかにもっと魅力的な場所・空間が増えるために、何ができるんだろう?」ということを考えてずっと仕事をしてきました。
そしてそのためにどうすればいいのかと考えれば考えるほど、もっと大きい社会システムの問題に行き着くことになります。都市の風景やあり方を変えていこうとするならば、いい空間を地道につくっていくことはもちろん、不動産をめぐる流通やお金の流れ、テクノロジー、さまざまな社会システム、さらには人々のコモンセンスや価値観、それをつくる教育といったあらゆるものがシームレスにつながっているということに気づきます。
そうしたなかで自分ならではのアプローチをもち、小さくともポジティヴな影響力を社会に与えていく、そしてマーケットのなかで持続できる面白い事業を選んでいく。東京R不動産は世の中の「物件探し」に対する価値観や視点に一石を投じるメッセージも込めたものですし、toolboxは生活空間のつくられかたに、人間的かつ静かなイノヴェイションを起こしていくものです。都市をデザインしていく仕事には無限のアプローチがあるので、今後も柔軟にいろいろやっていきたいと思っています。
──林さんにとっての「いい空間」の定義とは何なのでしょうか?
言葉にするのはなかなか難しいですよね。「気持ちいい」とか「愛着が湧く」とか「創造的になれる」とか、いろいろありますが、個人的には一言で言うと「その場所に入って、グッとくる・ジワッとくる何かがあるかどうか」ということのような気がします。
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