バックヤードから日本の音楽シーンを作り上げたレジェンド達の貴重なインタビュー連載
MUSICMAN HALL OF FAME
- ――『オールナイト〜』は70年代半ばから、社員パーソナリティーの時代から、アーティストが自らパーソナリティーを務める時代になっていきます。亀渕さんから見て、アーティストの中でパーソナリティーとして優秀だと感じられたのは、どなたでしょうか。
- 亀渕
- アーティストはトークもうまい方が多いですが、一人挙げるとするなら、中島みゆきさんですね。みゆきさんが『オールナイト〜』を始める前(79年から担当)、大阪に行った時に、彼女がやっていた毎日放送の短い番組(『ミュージックマガジン』)を聴いたことがあったんです。それがメチャクチャ面白くて。もう、ビックリしました。そして、『オールナイト〜』のパーソナリティーにどうかと思って色々と動いたのですが、デビュー当時の曲のイメージからすると周囲は難しいと思ったらしく、大反対されました。紆余曲折ありましたが、結局こちらのお誘いを受けてくださることになり、本当に良かったと思っています。
彼女のトークが優れているのは、曲のイメージとおしゃべりのギャップ。それがあるから、人を飽きさせないし、面白い。それと世間のごく普通のことを、本当に幅広く知っているんですよね。牛丼のことから、世の中森羅万象、何から何まで(笑)。普段から勉強しているんだと思います。 - ――トークがうまいアーティストがいれば、番組が成立するわけではないと思いますが……。
- 亀渕
- その通りですね。だからラジオは、ディレクターが大事なんです。素晴らしいパーソナリティーをブッキングした段階で、仕事が終わるわけではない。現場でパーソナリティーと放送作家に「あとは、よろしく」みたいになってしまうのが一番の問題です。テレビも今、だんだんそうなりつつある面があって、とにかく長尺の映像を撮っておけば、あとは編集でなんとかなるという考えからは、本当にいい番組は生まれてこないと思います。やっぱりディレクターが熱い気持ちを持って、指揮して、それをパーソナリティーなり出演者が表現できてこそ、面白い番組になるわけです。ラジオにしろテレビにしろ、多くの人達に愛されている番組には、必ずがんばっているスタッフがいますよ。アーティストも同じでしょう。
- ――中島みゆきさんの番組は、パーソナリティーとリスナーの距離が近くて濃密な感じがしましたよね。それはアーティストとファンの関係にも置き換えることできると思いますが、近年は、なかなかそういった関係を築くのが難しくなっているようです。
- 亀渕
- 中島みゆきさんにしろ、吉田拓郎さんにしろ、自分の内面や生き方を、ちゃんと番組の中で晒していたから、そういう関係を築けたのでしょう。生き方を晒していたことが、曲づくりにもつながって、ファンもそれを支持していた。キャラクターが強く、人間性が出ていないと、長い間アーティストとしての影響力を保つのは難しいのではないでしょうか。
- ――亀渕さんはアーティストとの交流も深かったと思いますが、パーソナリティーでもあり、番組の制作者でもあり、もちろんニッポン放送の社員でもあるという亀渕さんの存在は、アーティストから見ると、どんな存在だったのでしょう。
- 亀渕
- それはアーティストの皆さんに聞いてください(笑)。いや、というのもね、僕がある程度、距離が近いといえるアーティストは、今は亡き加藤和彦さん、今もお元気な泉谷しげるさんはじめ、本当に数える程しかいないんです。それはなぜかというと、僕の仕事はアーティストと友達になることではではないですから。番組をつくることですよね。そのために僕が仲良くするべきは、アーティストではなく、プロダクションやレコード会社の人達です。アーティストより、マネージャーに信頼されることの方が大事なんです。
- ――仕事をオファーするのは、アーティストではなく、マネージャー……というのは、放送や音楽の業界における基本中の基本ですが、亀渕さんほど長いキャリアのある方が、その初期設定を大事にされていることに驚きました。
- 亀渕
- 僕は今でもカミさんとも距離を保とうと思っていますから(笑)。