2ndアルバム『POSITIVE』をリリースしたtofubeats。そして主宰するネットレーベル〈Maltine Records〉の10周年を記念して自ら監修した書籍『Maltine Book』を刊行したtomad。様々なところで語られているように、二人の間には長い交流関係がある。
インターネットを介して二人が出会ったのは、お互いが高校生だったころ。tofubeatsはdj newtownという名義で〈Maltine Records〉からのリリースを重ね、レーベルの主催イベント「lost decade」も、tofubeats、tomad、DJ WILDPARTY、okadadaという4人のメンバーで続いてきた。
00年代から10年代、インターネットと音楽産業を巡る環境が大きく変わってきた時代を経てきた二人に、お互いの作品やスタンスについて、そして音楽の未来とそれぞれのビジョンについて、語り合ってもらった。
取材・文=柴 那典
ーー今回の対談は、まずそれぞれの最新のアウトプットについて語り合ってもらうところから始めたいと思います。まずtomadさんはMaltine Recordsの10周年を経て、イベント「天」をやり、『Maltine Book』という本も編集した。どういう風にその一連の仕事を振り返っていますか?
tomad:大変でしたね。特に本を作ってる間は思い出す作業が多かったんで、それをやり続けるのも辛いというのもあって。本の中に僕が好きな曲をまとめた270曲のレビューがあるんですけど、それを書いているときは、当時のtofubeatsのブログとか掘り返して読んだりしていてーー。
tofubeats:そんなんしてたんですか(笑)。
tomad:いつもは新譜ばっかり追ってるんですけれど、本を書いてる時はブログを見て「こんな曲あったな」って、ずっと過去と対峙していた。だから、今は逆に新しいことをしたい感じになってますね。
ーーtofubeatsさんはこの本を読んで、どうでした?
tofubeats:面白かったですよ。あと思ったのは、僕はこういうことを実は毎年やってるんですね。新しい曲を作るために自分の昔の曲も聴くし、毎回アルバムをリリースするごとに自分の過去を区切っているようなところがあって。でも、社長(=tomad)は10年で初めて過去を区切ったことになるんで、それを見て「量になるな」と思った(笑)。
ーーなるほど。一方は本で一方はアルバムですけれど、過去を区切るという意味では似た構造を持っている。
tofubeats:僕はいわば区切り好きなんですよ。でも社長はイベントで区切ることはあっても、コンテンツを振り返ることはなかったから。
tomad:でも、tofubeatsは一応自分が作ったものをまとめてるわけだから。
tofubeats:そうそう、そこは違いますよね。『Maltine Book』に関しては、過去にマルチネから出た作品それぞれについては言及を避けてるから。むしろ社長の10年の区切りみたいな感じがある。
tomad:だから、重いというか(笑)。考えることが多かった。
tofubeats:そりゃしんどいやろなって。でも、人のしんどいやつって面白いですからね。人生がコンテンツになっている。
tomad:力はこもってると思います。
ーー『Maltine Book』は、単にレーベルの成り立ちや歴史をまとめたような本ではないですよね。もっとカオティックなものになっている。そういうものにしたいという意図は最初からあったんですか?
tomad:シンプルな起承転結があってストーリーが見えるような本にはしたくなかったですね。例えば僕が全部エッセイみたいにマルチネについて書くこともできたはずなんですよ。でも、そういうのより、もっと雑誌的な目線で、いろんな要素を組み込みながらマルチネ像がだんだん分かっていくみたいな作りにしたかった。
tofubeats:それこそ、『マルチネレコード10年史』みたいに、新書っぽく書いたら終わりですよね(笑)。
tomad:そっちの方が売れたかもしれないけど。
tofubeats:でも、体系化されすぎちゃう。
ーー全部読んでも掴みきれないところが残っているのが大事だ、と。
tomad:そうですね。隙間がある感じにはしたかったです。
tofubeats:あと、マルチネを続ける気があるんだと思いました、これを読んで。
ーーそのあたりはどうなんでしょう?
tomad:続ける気はありますね。
tofubeats:僕ら、社長の考えていることがわかんないんですよ。だから、「天」(Maltine Records 10周年記念イベント)をやった時にも、ひょっとしたら「終了ー!」とか言うんじゃないかなって、ちょっとドキドキしてた。でも、これを読んで「あ、絶対マルチネを続ける気あるわ」って思いました。
tomad:本を作りながら続けていこうという気持ちが大きくなったのは事実です。
tofubeats:でも悩んでた時期はありましたよね?
tomad:「東京」(2014年に開催されたMaltine Records主催のイベント)が終わったあとぐらいに、「あんまもうマルチネでやることないんじゃないか」みたいに悩んでいた時期とかもあったんですけども、そんなことはなかった。先のことばっかり考えちゃう癖があるんですけれど、今までやってきた積み重ねを振り返ると、結構まだやることはあるなって感じです。
tofubeats:「5年後くらいに評価される」って言ってましたもんね。