東京の高級百貨店、松屋銀座はこのほど、15年ぶりに紳士服売り場を改装した。「ついに紳士服にもカネが回りそうだ」という担当者の言葉が新聞に躍った。不況が訪れるとまず支出を削られるのがパパの服、不況が去る時に最後に買われるのもパパの服というわけだ。アベノミクスが本格的軌道に乗ったシグナルと言える。
安倍晋三首相は再就任した直後、「3本の矢」を一度に放つと宣言した。財政出動、金融緩和、成長戦略を同時に実施する内容だった。おかげでトヨタなど主な大企業は過去最大の輸出を達成した。東京のオフィス空室率はリーマン・ショック以降で最低にまで低下した。中国人旅行客は「銀聯カード」で昨年は2800億円、今年上半期は3600億円を使って帰った。
専門家は「金融緩和だけで達成できたわけではない」と指摘する。安倍首相がきっかけをつくり、日本企業が革新で応えた。日本企業はかつて「ガラパゴス」と呼ばれた。内需に満足し、慣行に固執した。しかし、今は違う。失われた20年は苦労を重ねた20年でもあった。業種の壁、慣行の壁を取り払い、スター経営者が内需産業、斜陽産業、3K産業に新たな活路を切り開いた。
■一度たりとも負けるな
建築材料・住宅設備大手のLIXIL(リクシル)は4年前、ゼネラル・エレクトリック(GE)の藤森義明元上席副社長を社長に迎えた。藤森氏は東大を卒業後、米国企業でキャリアを積んだ。LIXILに合流後、「GEでは5戦して4勝1敗では椅子がなくなる」と述べた。全勝でなければならないと発破をかけた形だ。