2002年からは監査役会会長となっていたピエヒ氏だが、いずれにしても、VWはもちろん、ドイツの自動車界では帝王のような存在だった。その帝王が権力闘争に巻き込まれ、週刊誌を賑わした挙句、無残に追い落とされた。
ただ、不思議だったのは、闘争の本当の原因が最後まで分からなかったことだ。アメリカ市場での失敗、配当の減少、ヴィンターコーン氏の経営手腕に疑問を呈する意見もあれば、ピエヒ氏の独裁が問題ではないかという記事もあった。
しかし、どの記事を読んでも核心は書かれておらず、結局、何も分からないまま、私たちはそんな話は忘れてしまった。9月5日になって、後任が決まったという小さな記事が出ていたとき、「そんなことがあったっけ」と、ちょっと思い出した程度だった。
ヴィンターコーン社長の苦しいコメント
いずれにしても、その権力闘争に打ち勝ったヴィンターコーン氏は、今、VW社始まって以来の危機に際し、その代表者として対処しなければならなくなった。ところがまず20日の氏のコメントは、まことにお粗末なものだった。
そもそもVW社は、不正を認めているのだ。なのにヴィンターコーン氏は、「我が社はいかなる法規や法律の違反も許さない!」と言ったので、私は耳を疑った。「顧客の信用を取り戻すため、一刻も早く真相を究明したい」とか。
氏が不正を追及する側だとすると、では、いったい誰がやったのか? 法規の目をくぐり抜けるためのソフトウェアをこっそりと車に仕込むような重大、かつ危険な決定が、下の方のエンジニアだけの独断でなされた? ヴィンターコーン氏が何も知らなかったとは、とても考えにくい。
ひょっとすると、4月の権力闘争は、本当はこの不正を巡ってのものだったのかもしれないと私は考える。情報はすでにあったのではないか。どうにかして対処しなくてはならないが、社外に漏らすことは許されない。そして、それは実際に漏れなかった。そう考えれば、どの記事を読んでも訳が分からなかった謎は解ける。
さて、その後、案の定、おかしなコメントを出したヴィンターコーン氏への批判は強まり、22日には、彼が全面謝罪するビデオが流された。ドイツ人が、このように早い時期、しかも真相究明で責任者が明らかになる前に全面謝罪をするというのは、非常に珍しいことだ。
たとえば、今年3月のジャーマンウィングスの事故でも、150人もの死者が出たにもかかわらず、当時も今も誰も謝ってはいない。"このような不幸なことが起こったことを遺憾に思っ"たり、"遺族とともに深い悲しみに包まれ"たりしただけだ。つまり、謝罪ビデオが作られたという事実が、VW社が非常に追い詰められている証拠でもある。
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